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IT大捜査線 特命捜査第004号:レスキューロボットが世界を救う
  プロジェクトの原点は阪神淡路大震災
 

ロボットと言えば、ソニーのAIBO、ホンダのASHIMOが思い浮かぶが、果たしてレスキューロボットとはどのようなものなのか? そんな疑問を抱きながら訪れたのが、「NPO 国際レスキューシステム研究機構」の川崎ラボラトリー。
同機構は、1995年の阪神淡路大震災を契機に、神戸大学の田所 諭助教授を中心に組織されたレスキューロボット研究グループを前身とし、昨年4月からは特定非営利活動法人(NPO)として活動している。ここ神奈川県川崎のほか、兵庫県神戸にもラボを持つ。

今回お話を伺ったのは、同機構で川崎ラボラトリー・リーダーを務める松野文俊先生。先生はかつて神戸大学にいらして、阪神淡路大震災では教え子を亡くされたと言う。
「当時、私は制御工学や宇宙ロボットの研究をしていたのですが、震災の時、被災者の役に立つことが何もできませんでした。亡くなった学生を助けてあげることもできなかった。そんな経験から、もっと身近で、すぐに人の役に立つようなことをやらなければいけないのではないかと思い、レスキュー(災害救助)の研究を始めたのです」

川崎ラボ

川崎ラボラトリーは、2002年10月に開設された研究所で、「独立行政法人防災科学技術研究所 地震防災フロンティア研究センター」と「NPO 国際レスキューシステム研究機構」という2つの研究機関が参画し、文部科学省委託による研究事業「大都市大震災軽減化プロジェクト」を実施している。

神戸大学を中心とした研究グループが最初に手がけたのが、消防や警察、検死をした医師らへの聞き取り調査だった。消防のレスキュー隊員の話によると、瓦礫に埋まった人を捜すのと掘り出すのでは、人を捜す方が数倍、時間がかかると言う。どこにいるのか分かれば何とかできるが、分からないから、あちこち掘る。で、やっと捜し当てたら手遅れ。もっと早く場所が特定できれば助かった、軽傷で済んだ、ということがたくさんあったそうだ。

レスキューロボットには「人を捜す」「瓦礫を取り除く」「救助して病院へ搬送する」という3つの役割が期待されるが、松野先生は「この5年間は瓦礫に埋もれた“人を捜すこと”に焦点を当てる」と話す。

松野先生

お話を伺った、国際レスキューシステム研究機構 川崎ラボラトリー・リーダーの松野文俊さん。電気通信大学知能機械工学科の教授として、レスキューロボットの開発にも携わる。

 
 
   

 
  レスキューの基本コンセプト
 

狭隘な瓦礫の中や二次倒壊の危険のある場所に入って行き、被災者を救助するレスキューロボット。そんなロボットは、どのようなコンセプトで開発されているのか? 災害救助には何が大切なのか? 松野先生は、レスキューの基本的な考え方を次の3点から説明して下さった。

テストフィールド全景

旧NKK体育館の内部を改造して造られた「川崎ラボラトリー」には、2階建てのテストフィールドが設けられている。1階部分には家具、本、寝具などが散乱した屋内環境を、2階部分には3次元的な瓦礫環境を構成できる。


2階-瓦礫

3次元的な瓦礫環境でレスキューロボットの走破性を評価。日本は木造家屋が多く、倒壊するとくしゃくしゃになり、瓦礫自体に空隙が少ない。従って、大きなロボットは入りにくい。

(1)ロボットも適材適所
「阪神淡路の救助で一番役に立ったのは、バールやジャッキアップ、つるはしなど、私達が日頃使っている道具でした。救助の専門家が使うプロ用ロボットの開発はもちろんですが、我々は、誰でもすぐに使えるものも非常に重要だと考えています。そんな道具も、レスキューロボットの一つと定義したい。レスキューロボット=ハイテクロボット、というわけではありません」

(2)平常時と緊急時の連続性
「人を捜すことで言えば、実際にロボットが瓦礫内に入って行く方法があります。それとは別に、いつも家族で可愛がっているペットロボットのようなものがあれば、それも人を捜すのに役立つ。仕組みは、ペットロボットが家族の普段の行動パターン(例えば、お父さんは朝8時に家を出て、夜7時には帰って来る)を日々データセンターに送り、蓄積しておく。万一の場合は、そこから情報を取り出して、居場所を推定。こうすれば、無駄な場所を捜さずに済みます。このように日常使っているものに、ほんの少し機能を足すことで、緊急時に役立つ機器になる。これを我々は“平常時と緊急時の連続性”と呼んでいます」

「この考え方はすべてのシステムに共通で、自治体の業務でもそのようなシステムづくりが必要。例えば、水道やガス、電気の敷設状況。紙地図に別々に描いていたのでは、震災時に対応できません。普段はそれぞれ管理していて構いませんが、いざという時にデータを統合できるようシステム化していくことです」

(3)なじみのあるインターフェース
「大地震が起きると、いろんな所からボランティアが来ますが、ボランティアの人はその土地を知らない。そんな人達に土地勘を与える地理情報システムが必要でしょう。また、ボランティアがロボットを遠隔操作して情報収集するには、インターフェースもある程度簡単でないといけない。例えば、車の運転なら多くの人になじみがあるので、車を運転するように操作できるロボット、ということですね」

これらのお話から、毎日の暮らしを災害対応型にしていこう、災害を日常の延長線上で考えようという姿勢が読み取れる。

 
 
   

 
  個性的なレスキューロボット
 

現在、同機構には33の研究代表者がおり、それぞれの所属機関で研究開発を進めている。研究分野としては、自律型ヘリコプターや飛行ロボットで空から情報を集める、瓦礫内を移動するための走破性を研究する、人を探すセンサーを開発する、収集した情報を元に地図を作るなど、6つのグループがある。

ここで、いくつかレスキューロボットをご紹介しよう。
※動画を見るには最新のWindows Media Playerが必要です。お持ちでない方はダウンロードして下さい。

●連結クローラ走行車「蒼龍III号機」

 

●瓦礫内探索ロボット「MOIRA」

 

●「UMIRS-V-M1」

連結クローラ走行車「蒼龍III号機」 瓦礫内探索ロボット「MOIRA」 「UMIRS-V-M1」
動画はこちら 動画はこちら 動画はこちら

3つのクローラ(キャタピラ)をつなげた構造で、前部車体にCCDカメラや集音マイクなどの探索機器、中央車体に全駆動系とバッテリー、そして後部車体に無線装置を搭載している。東京工業大学/広瀬研究室

 

4面がクローラで覆われた本体をくねらせ、瓦礫をこじ開けて進む蛇型ロボット。横転・転倒しても姿勢を修正することなく進んでいける。搭載したカメラで撮影した映像を外部のモニターに映し出す。京都大学/大須賀研究室

 

サイドに付いているクローラをアームのように使って障害を乗り越える。無線LANを利用しての遠隔操作と各種センサーによる情報収集が可能。携帯電話が発する電波を感知し、瓦礫の下敷きになった人の居場所を特定することもできる。神戸大学/高森研究室

●「リムメカニズムロボット」

 

●跳躍・回転移動体
「Leg-in-rotor-IV」

 

「リムメカニズムロボット」   跳躍・回転移動体「Leg-in-rotor-IV」    
動画はこちら   動画はこちら    

瓦礫内のような3次元構造をもつ不整地環境でも、つかむ・抱え込む・ぶら下がるなど環境に合わせた移動形態をとることによって、単なる脚式移動ロボットよりも高い踏破能力を発揮する。大阪大学/新井研究室

 

平地では効率よく回転移動し、凹凸の激しい瓦礫はボトル詰め込まれた高圧ガスによってジャンプして乗り越える(約80センチ跳躍可能)。カメラや被災者に声をかけるためのスピーカーも搭載。東京工業大学/塚越研究室

   
   
   
 

  災害に強い文化を創る
 

国際レスキューシステム研究機構は、去る6月24日に「レスキュー・デモンストレーション」を開催し、プロジェクトスタート以来、約半年間の研究成果の展示や実演を行った。

このように積極的に情報公開する理由を、松野先生はこう説明する。
「レスキューというのは、研究者や自治体、消防といった関係者だけで考えていてはダメ。よく産学官の連携と言いますが、これに民(国民、市民、住民)を加えた“産学官民”の活動にしないといけない」

「レスキューは災害現場のシミュレーションから始まります。火災が3時間後にどこまで延焼するか、そこに災害弱者はいるのか、どこにどんなロボットを投入すればいいのか。建物の構造によって火のつき方、回り方が違うので、正確なシミュレーションを行うには、その建物が何でできているか、耐火/非耐火、築年数などのデータが必要になります。しかし、これらは極めて個人的な固定資産データです。万一の災害に備えるために、個人データをオープンにしてもらえるか?」。そんな点からも、レスキューに対する市民の理解が欠かせないというわけだ。

飛行船

東京大学、理化学研究所が開発している「レスキュー用データキャリアによる被災者探索システム」。あらかじめ建物の各階・各所に、呼びかけ・録音機能付きセンサーを設置しておく。通常は電源オフの状態だが、震災時には飛行船を飛ばし、このセンサーの電源を入れ、同時に「誰かいますか?」と呼びかける。センサーの近くで埋もれている人の「助けてくれ」という声を録音し、情報を収集。センサーの場所と録音された声で被災者の位置を特定する。インフラを整え、災害に強いビルを造ろうという試みだ。

さらに「災害に強い文化を創りたい。災害に対して知らんぷりしたり、脅えて遠ざけるのではなく、レスキューを自分自身のことと考えて欲しいんです。そういった姿勢が、最終的には自分自身を守ることにつながる」と松野先生。

レスキューロボット開発に携わる研究者達の夢は、2050年にロボットの国際救助隊を作ること。目標は、あの「サンダーバード」だ。
世界有数の地震国であり、ロボット先進国である日本が、レスキューロボットを率いて世界各地に被災者を助けに行く――。この大いなる夢を応援したい。

 
 
取材協力・動画提供:特定非営利活動法人 国際レスキューシステム研究機構
http://www.rescuesystem.org
 
   

 
  追加調査
 

●震災軽減は世界の願い
7月26日に発生した宮城北部の連続地震は記憶に新しいが、世界に目を向けると、毎年のように各国で多くの人達が被災している。地球規模で考えれば、震災は50年に一度、100年に一度の稀な災害ではないのだ。地震予知の研究も進められてはいるが、それが確かではない今、被害をできる限り少なくするための街づくり、システムづくりは世界の願い、と言っても過言ではないだろう。

 

【1900年以降、日本で発生した死者・行方不明者
50名以上の地震】

・1914年 秋田仙北地震(M7.1)
・1923年 関東大震災(M7.9)
・1925年 北但馬地震(M6.8)
・1927年 北丹後地震(M7.3)
・1930年 北伊豆地震(M7.3)
・1933年 三陸地震津波(M8.1)
・1943年 鳥取地震(M7.2)
・1944年 東南海地震(M7.9)
・1945年 三河地震(M6.8)
・1946年 南海地震(M8.0)
・1948年 福井地震(M7.1)
・1968年 1968年十勝沖地震(M7.9)
・1983年 昭和58年日本海中部地震(M7.7)
・1993年 平成5年北海道南西沖地震(M7.8)
・1995年 平成7年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)(M7.3)

【最近の世界の大地震】

・1999年 トルコ・コジャエリ地震(M7.5)
・1999年 台湾・集集地震(M7.7)
・2000年 インドネシア・スマトラ島の地震(M7.9)
・2000年 パプアニューギニアの地震(M8.0)
・2001年 エルサルバドルの地震(M7.8)
・2001年 インド西部の地震(M8.0)
・2001年 ペルーの地震(M8.2)
・2001年 チベット地方の地震(M8.0)

※参考:『理科年表 平成15年』

 
特命調査第004号 調査報告:高橋ひとみ捜査員 特命調査第004号 調査報告:高橋ひとみ調査員
撮影/加藤 翔(フリースペーススタジオ/ロボットを除く) イラスト/小湊好治 Top of the page

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