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IT大捜査線 特命捜査第013号:挫折したお父さんの強い味方 誰でも簡単に演奏できる「EZシリーズ」 特命捜査第013号:挫折したお父さんの強い味方 誰でも簡単に演奏できる「EZシリーズ」
 
  「光るギター」の対象は40〜50代の男性
 

「アクティブ・ミドル」「アクティブ・シニア」と呼ばれる中高年層が注目を集めている。旅行、料理、学び、音楽…と多くの分野で、お金も時間もある“元気な大人”のための商品やサービスが開発・発売され、若年層に代わる市場の牽引役として登場。
今回、取材したヤマハ株式会社でも、少子化の影響で「ヤマハ音楽教室」は苦戦するものの、10年前にスタートした「大人の音楽レッスン」は毎年前年を上回る実績を上げ、全国1600会場・約9万人の生徒を擁するまでに拡大した。

 

そんな大人市場の一端を担う40〜50代が青春時代を過ごした1970年代は、フォークやロックの全盛期。お話を伺った商品開発部の旭 保彦さんも、ちょうどこの世代だ。
「当時、ピアノに代表されるキーボード系の楽器は女の子のもの。中学時代、音楽に目覚めた男子が夢中になったのがギターやドラム。誰もがフォークシンガーやロックバンドに憧れ、カッコ良くなりたい! 女の子にモテたい! という一心でギターを買い、練習しました」
が、多くの男の子は、例えばFのコードが押さえられずに挫折。その結果、モテるかも(!)と夢を託したギターは弾かれることなく、押入れの隅で眠ったままに……。

旭さんは、99年に「光るキーボード」、翌年に「光るドラム」を手がけるが、今一つ燃えない。「本当に自分がやりたいのは何だろう」と振り返った時、そこにあったのがギターだったという。
「イージーギター『EZ-EG』(光るギター)は、ギターが弾けない、弾いたことはあるがコードが覚えられない人のための電子ギターです。カッコ良く弾きたいと思っても、そこへ到達する前に難しくて諦めてしまう人がほとんど。そんな人達に、ギターを手にしたその日から弾けるという経験をさせてあげたい。最初に『おーっ、気持ちいいね〜』と思わせたい。コードの練習は、それからでいいんです。カラオケと同じですよね。発声練習しなくても、自分が気持ち良く歌えればOK。これは、そのギター版なんです」

 
今回、取材で訪ねたヤマハ株式会社東京支社。
「光るギター」の開発プロデューサー、旭 保彦さん(ヤマハ株式会社 PA・DM I事業部 商品開発部 EKBプロデュースグループ 技師)。
本物のギターのフィーリングを残しながら、誰でも簡単に弾くことができるヤマハ イージーギター「EZ-EG」。
 
 

  ギターの本物感を大切にしたインターフェース
 

挫折したお父さんのための「光るギター」とは、どのようなギターなのだろうか。
最大の特徴が、伴奏に合わせて片手で曲が弾けること。右手で弦をジャン、ジャーンとかき鳴らすだけで勝手にコードが変わり、まるでコードも自分で押さえているかのよう。コード進行を光って教えてくれるレッスンモードにすれば左手の練習ができるし、コードがきちんとを押さえられるまで伴奏を待ってくれるモードもある。また、スピーカーを内蔵し電池駆動も可能なので、いつでもどこでも演奏を楽しむことができる。

「光るギター」には36曲が内蔵されているが、この選曲にもこだわりがある。
「ターゲットを意識して、『神田川』や『なごり雪』『岬めぐり』といった涙モノのコンテンツを選びました。ハード的に『簡単に弾けますから、どうぞ』というのでなく、あの『神田川』が弾けますよ、と」。もちろん、最新のJ-POPや洋楽曲も、ホームページからパソコンにダウンロードし「光るギター」本体に転送すれば(※)、伴奏付きで演奏することができる。5月10日現在、登録曲は3249曲、1曲210円で購入可能だ。

一見、普通のギターのようだが、「光るギター」のネックに弦はなく、フレットごとに指で押さえるスイッチになっている。また、右手で弾く弦の部分も金属ワイヤー製のスイッチだ。となると、わざわざギターの形にしなくても、という疑問がわく。
「スイッチなら、これをボタンの形にしてもいいかというと、そうじゃない。弾く人にとってはフレットを押さえる、弦をはじくといった感触が大事で、そういうアナログのインターフェースはできる限り残しました」と旭さん。

本物感をキープするために木製のボディを採用し、ネックやフレットの幅といった細かな寸法、弦の硬さ・感度についても改良を重ねた。ギターが弾ける人を満足させられなければ、初心者だって弾きたいとは思わない――中身がどんなに電子化されようと、インターフェースは誰もが知っているギターでなければならないのだ。
※曲の転送には「USB-MIDIインターフェース」やケーブルが別途必要。

伴奏   伴奏に合わせて右手をかき鳴らすだけで、ギターが弾ける。手にしたその日からギタリスト気分!
ネック部分と弦の部分
ネック部分に弦はなく、フレットごとに光るスイッチを搭載(写真左)。弦がないから、面倒な弦の張り替えやチューニングも不要。
右手で演奏する弦の部分も実はスイッチ(写真右)。金属ワイヤーでできているのでたわみ、本物のギターを弾いているような感触が味わえる。
コントロール部   コントロール部。ここで演奏モードや音色、曲を選択。テンポ、キー、カポタストなどの設定も可能。音色はバンジョー、三味線、ピアノのお楽しみ3音色を含め、全20音色。
 
 
   

 
  インターネットを活用した消費者参加型商品
 

「光るギター」は世界初の本物に近い演奏感を持った電子ギターだが、この製品の発売に当たっては、ヤマハにとって初めとなる試みがいくつかあった。
その一つが販売チャネル。「光るギター」が従来の楽器のジャンルには収まらない商品だと考えた開発チームは、試作品をあえて楽器とは縁のない業界に持ち込んだ。最初のプレゼン先は、大手スーパーの玩具バイヤーだ。

 

「驚いたことに、商談の仕方が楽器業界とは全然違うんですね。プレゼンすると、その場でいける、いけないを即決。ダメならダメと一刀両断にされる。幸い『光るギター』は、取り出した瞬間に『お、いいじゃん』と、気に入ってもらえました」と、玩具チャネルの営業を担当した鈴木孝之さん。玩具といっても、いわゆるオモチャではダメ。バイヤーは「光るギター」の本物感を評価したという。

次なる試みが、試作の段階で製品情報を公開してユーザーの声を聞くこと。開発チームは、ネット企画室をオープンし、限定受注生産型ショッピングサイト「たのみこむ」上でアイデアを募集。わずか2カ月間で200件もの意見が集まり、例えば「スピーカー内蔵」など、いくつかの要望が実際に製品に反映された。その後、正式発売までに、モニター販売、アンケート、先行販売と、インターネットをフルに活用。この中で「売れる!」という確かな手応えをつかんだのだ。
2001年6月に発売すると、初回分、次回入荷分はすぐに完売、2カ月近く予約待ちの状態が続いた。これまでに約2万台を出荷したが、同じ価格帯のギターが年間3000〜3500本売れれば成功品番ということを考えると、「光るギター」は大ヒット商品といえる。

ウェブ上でのマーケティングを担当した佐々木道彦さんは「購入者の中心は、こちらの狙い通り、40代の男性サラリーマンでした。モニター募集で意外だったのが、学校や福祉関係の先生からの応募が多かったこと。『ギターを教える時の教材に使いたい』『交通事故で左手が不自由になったけど、これなら右手だけで弾ける』と、本当に喜んで下さいました」。さらに、60代、70代の人が多かったのもうれしい誤算だった。

 
鈴木孝之さん   玩具チャネルの営業を担当した鈴木孝之さん(ヤマハ株式会社 PA・DM I事業部 商品戦略推進室 N I-Dプロジェクト プロジェクトリーダー)。売り込みに来た営業マン全員の前で商品説明し、挙手で採用・不採用が決まるという恐るべきプレゼンも経験。
佐々木道彦さん   ウェブ上のマーケティングを担当した佐々木道彦さん(ヤマハ株式会社 PA・DM I事業部 商品戦略推進室 N I-Dプロジェクト 主任)。「光るウクレレ」の開発プロデューサーでもある。
EZclub
EZシリーズ専用のホームページ「EZclub」。開発状況が随時アップされるほか、掲示板やオンラインショップもある。  
 
 

  次なるEZシリーズは「歌う!トランペット」「光るウクレレ」
 

「光るギター」と同時期に開発が始まった製品に、伴奏に合わせて鼻歌を歌うとトランペットが演奏できるイージートランペット「EZ-TP」(歌う!トランペット)がある。「トゥ、トゥ、トゥ、トゥ〜」と『聖者の行進』の一節を口づさめば、朗々とトランペットの音色が奏でられるから不思議! こんなに簡単でいいのか、という気もする。
「ギターと違って、トランペットは触ったことのない人の方が多い。ほとんどの人が吹けるなんて思ってもいないし、まず買わない。そんな“触る前に挫折していた人”をつかまえたい」と、開発プロデューサーの櫻田信弥さん。もちろん、ラッパが吹ける人にも“飛び道具”として使い、遊んでほしいという。

「EZシリーズのポイントは、難しいことは機械のチカラを借りるけれど、形は本物からもってくること。だからこそ、インターフェースが大事。例えば『歌う!トランペット』も、ある音が次の音に移る時、ぽろっと裏返る。この“間の音が出る”のが管楽器特有の味であり、そこがリアルなわけです」。発売は「年内目標で頑張る!」とのことなので、乞うご期待。

さて、EZシリーズ弦楽器第2弾となるのが、イージーウクレレ「EZ-UK」(光るウクレレ)だ。この製品は、とにかく見た目が可愛い。大きさも形も色も、すべてがキュートだ。
「そこなんです。ウクレレは全体のシルエットが非常に重要なので、ヘッドやペグ(糸巻き)を付け、より本物らしくデザインしました。また、『光るギター』では前面にあった操作系のボタン類もヘッドの裏側に隠してあります」と開発プロデューサーの佐々木さん。

「光るウクレレ」にはウクレレやギターのほか、三味線やシタール、マンドリンといったエスニック系弦楽器の音色も搭載する予定。また、ソングデータの転送を簡易化するUSB端子、オーディオ機器と接続できる外部入力端子などの新機能も盛り込む予定だ。

ギター1本あるだけで、その場が盛り上がる、人と人のコミュニケーションが深くなる。音楽のチカラはやっぱりスゴイ。そんな音楽が自分でできれば、もっと楽しいに違いない。やりたくてもできなかった演奏を電子技術がサポートしてくれる時代になった。今こそ、あなたも聞く人から演奏する人へ。

取材協力:ヤマハ株式会社(http://www.yamaha.co.jp

櫻田信弥さん   「歌う!トランペット」の開発プロデューサーの櫻田信弥さん(ヤマハ株式会社 PA・DM I事業部 商品開発部 技術開発グループ 主任)。学生時代、トランペットを吹いていたというから、まさに適任。
イージートランペット「EZ-TP」の試作品
イージートランペット「EZ-TP」の試作品 イージートランペット「EZ-TP」の試作品。
マウスピースにピックアップマイクが内蔵されており、マイクに入った声の音程と音量をコンピュータが検知、それに応じたトランペットの音源を鳴らす(写真上)。バルブスイッチが光って運指をガイド(写真下)。バルブスイッチには、歌った音程を補正する機能もある。
演奏   最初はマウスピースから口を離して演奏する形だったが、掲示板に寄せられたユーザーの声で仕様を変更。やはり、口を付けて吹いた方が雰囲気が出る。
光るウクレレ
「光るギター」にはなかったヘッドやペグが付いた「光るウクレレ」の試作品。操作ボタンも前面に出ていない(写真右)。
フレット部分だけでなく、サウンドホールも光り、右手で弦をかき鳴らすタイミングを教えてくれる(写真左)。ここには「光るドラム」でパッドの周りを光らせた技術が生かされている。
 
   

特命捜査第013号 調査報告:安田邦夫捜査員 特命捜査第013号 調査報告
写真/海野惶世 イラスト/小湊好治 Top of the page

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