e-ケアタウンプロジェクトの実証実験はひとまず終了した。これから求められるのは、実験から得られたさまざまなデータや研究結果を踏まえたうえで、いかにして介護福祉分野のIT化を実際に進めていくのかということ。サービスを受ける側からすれば、できるだけ早く実現して欲しいものばかりなのだが。
「それほど簡単なことではありません。システムを作るのは簡単ですが、継続するのが難しい。ひとつのサービス分野を実現するだけでも膨大なデータを蓄積・分析する必要がありますから、今すぐできるものではありません。また、平均して80年くらい生きる人間から発生する膨大な情報をどこが集め、どこが保存するのかという問題もある。つまり、時間が大きな壁になるのです」(南)。
ほかにも、現状ではこうしたヘルスケアサービスに対して健康保険や介護保険が適用できないという問題がある。元気コールがどんなに便利で使いやすいものであっても、使用するのに高額な費用がかかるようでは誰も使わないだろう。安心感の向上や健康維持・介護予防といった分野への保険の適用がサービスの普及の鍵となる。
また、ケア提供者側も情報共有に対する考え方を変えていく必要がある。守るために情報を閉じるのではなく、共有していくことでよりよいサービスを提供できるようになる可能性を検討することが必要だろう。
「更に一般の人がこうしたサービスを適切に評価できるかという問題もあります。特に医療行為は専門性が高いので、本人に適したものであっても、知識がなければそのサービスを見過ごしてしまう可能性がある。教育の問題にも関わってくるのです。そこにビジネスチャンスがあるとも言えるのですが」(南)。
実現へのハードルはなかなか高そうだ。それでも今年3月、慶應義塾大学SFC研究所は「e-ケアコンソーシアム」を設立し、看護・介護・福祉・医療・ITなど各分野の専門家と事業者が横断的に活動し、情報交換・発信できる場を作った。そこでは行政や企業とのコラボレーションを視野に入れながら、社会制度・運用方法・ビジネスモデルの具体的な提案を行っていくという。
11月23〜24日には、六本木ヒルズ森タワー40Fで開催される「Open Research Forum 2004」(http://orf.sfc.keio.ac.jp/)において、e-ケアコンソーシアムは、公開セッションおよび展示を行う予定だ。
「ITは将来、密なコミュニケーションを取りたい人の目の前には認識されるような形で存在し、それを望まない人には見えないような存在になると思います。それでいながら、自分は誰かに見守られているという安心感はちゃんと残っている。そんな芸当ができるのも、ITだからこそなんですよ」。
いつの日か、介護の世界はITの導入によって大きく変わるに違いない。宮川さんが語る明るい将来像が印象的だった。
取材協力:e-ケアタウンふじさわ実証コンソーシアム
(http://www.e-care-project.jp)
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