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IT大捜査線
特命捜査第019号 物流トレーサビリティを実現した輸配送品質管理システム 特命捜査第019号 物流トレーサビリティを実現した輸配送品質管理システム
 
 
  輸配送品質管理システム「A-CATS」とは?
 
 




1993(平成5)年設立の雪印アクセスを前身とする食品卸会社。今年4月、日本アクセスに商号変更した。
流通企画グループ課長 山本泰之さん

街中のスーパーやコンビニに、毎日膨大な数の商品を送り届けている配送トラック。毎回定時にやって来ては、ドライバーが手際よく荷物を降ろし、すぐさま次の店舗へと走り去ってゆく……。すっかりお馴染みになったこんな光景の裏にも、実は多くのIT技術が導入されている。
今回は商品物流、それも卸から小売店へという、私たちに最も近い部分でのIT導入例を調査してみよう。取材先は、ドライ、チルド、フローズンの全温度帯物流を手がける食品卸の大手、日本アクセス。流通制作部・流通企画グループ課長の山本泰之さんにお話を伺った。

商品輸配送の過程で同社が取り入れているのは、2年前の秋から導入した「A-CATS(Access Collaborative Analysis Transportation System)」という新運行管理システムだ。
「当社はチルドやフローズンといった低温食品を多く扱っていますので、配送車がどこを走っている、何時に到着したといった通常の運行管理だけでなく、商品の温度管理まで行う必要があるのです。A-CATSは単なる運行管理システムを越えたもので、私たちは輸配送品質管理システムと呼んでいます。これを提携する運送会社に車載端末のみリースし、輸配送の効率化と商品の品質管理向上を図っているのです」。

A-CATSは、配送車両に組み込んだハードウェア(車載ステーション及び車載端末)と、そこから収集したデータを解析し、各種の管理帳票を作成するソフトウェアから構成される。
車載ステーションでは、GPSセンサーを活用した速度、距離、時間、経路などの運行データと荷室内の温度管理センサーによる温度変化データを収集し、車載端末のメモリーカードに時系列を追って記録する。
これらのデータは配送センター内のコンピュータで一括管理され、そこから運行管理(運転日報、車両別配送実績表、店舗別滞店時間表、月間燃費計算表)、品質管理(店着時間管理表、配送温度管理表、店舗別月間温度状況一覧表)、安全運転管理(安全運転確認書、安全運転評価表)の各面で必要となる管理帳票が作成される。

A-CATSのシステム概要
 
 

   最大の目的は、ドライバーの負担を軽減すること
 
  各車両に搭載されている車載端末。全てのデータはこの端末に挿入したメモリーカード(左)に記録される。
配送終了後、記録されたデータは配送センター内のシステムで一括管理される。
開閉ドアにセンサーが設置されている。
前後2ヶ所に設置されている荷室内の温度センサー。
各車両に取り付けられているGPSアンテナ

A-CATSの導入によって、配送の現場では何がどう変わったのだろう。この点について山本さんは、「実はA-CATSは、開発した当社よりも運送会社、特にドライバーにとってメリットが多いシステムなのです」と語る。

実際のドライバーのオペレーションはこうだ。
ドライバーは毎朝配送に出発する際、記録用のメモリーカードを車載端末に差し込む。そして、端末の出発ボタンを押す。その後の特別な作業は……実は何もない。基本的にデータ収集は全て自動で行われるのだ。
例えば荷室のドアには開閉センサーが設置されており、ドアを開けたことで着店したとみなされ、その時間や位置情報が自動的にカードに記録される。再びドアを閉めれば、今度は出発したと見なされ、その時間が記録される。もちろん、荷室内の温度変化は常時記録されている。
配送センターに戻ってきたドライバーの最後の仕事は、端末のセンター帰着ボタンを押し、カードを抜き取って配送管理者に渡すこと。これで全てが終了する。
店着以外で荷室のドアを開ける場合、そして高速道路を使用する場合のみ、ドライバーが任意で端末のボタンを押す必要があるが、共に滅多にないケース。全てはオペレーションフリーで進行する。

従来の運行管理システムでは、ドライバーが店着時間、出発時間をその都度、日報として手書きで記録しなければならなかった。温度管理記録についても、店着時、出発時にドライバー自身が温度計の数値を確認して記録する必要があった。
これでは、ただでさえ荷下ろしで忙しいドライバーの負担は増すばかり。実際、温度管理ひとつとっても、個々のドライバーの作業レベルによるバラツキが避けられなかったという。
後に、店に着いたら店着ボタンを押し、荷下ろしボタンを押すという簡易的な運行管理システムが登場したが、これとてドライバーに余計なオペレーションを強いるという点では変わりがなかった。
「データ収集をマンパワーで行うには限界があるんです。A-CATSの狙いは、ドライバーの負担を極限まで減らすこと。そのためには、荷下ろし以外のオペレーションを一切意識させないシステムを構築する必要がありました」。

ドライバーの負担が軽減されるだけでなく、A-CATSには、導入した運送会社そのものにも大きなメリットがある。
第一に、A-CATSに搭載された音声警告機能による事故防止効果。あらかじめ会社が車両のスピードを設定しておけば、ドライバーが速度をオーバーした場合、音声による警告が発せられるのだ。実際、ある運送会社では速度オーバーが徐々に減り、事故発生率が大幅に減少したという。事故が減れば車両の修繕費、保険料、賠償費などのコストを抑えることができるし、安全運転が徹底されれば、車両の燃費は向上し、燃料費が節約できる。
第二のメリットは、ドライバーのレベル向上を図れること。データを元に安全運転評価表が作られるので、例えば速度5kmオーバー以上でトータル1分以上走ると大幅減点といったように、客観的なドライバーの評価が可能になる。評価の公開はドライバー間の競争意識を刺激し、全体のレベル向上につながる。

A-CATS導入前後の事故発生件数比較(4月〜7月)
平成14年がA-CATS導入前、平成15年が導入後。加害、被害件数ともに減少しており、特に加害件数は対昨年比1/6(6件から1件)と激減している。
 
 
   

 
  トラブルやアクシデントにも迅速に対応できる
 
A-CATSのパソコン画面。上の折れ線グラフは荷室の温度、真ん中の折れ線グラフは車両の速度、一番下の帯は車両の状態(運行中、停止中)を示している。
コース情報も画面に表示される。
導入前は手書きだった運転日報も、時系列で正確な運行履歴が記録される。

荷室内の温度も管理記録としてデータ化される。

このA-CATS、既に日本アクセスと取引のある運送会社の車両約1000台に搭載されており、同社は今後も積極的に導入を進めていくという。
導入にあたって運送会社が負担するコストは、車両に設置するハードウェアのリース料と取り付け費のみ。システム開発費用は、全て日本アクセスが負担している。ちなみに、一般的な汎用運行管理システムの値段は300〜500万円ほど。カスタマイズすればそれは1000万円近くになり、A-CATSほどのレベルになると3000万円は下らないとされる。ところが、運送会社が同社に支払う毎月のリース料は、車両1台あたりわずか5000〜8000円にすぎない。かなりの格安価格と言っていいだろう。

「A-CATSのCはCollaborative、つまり運送会社と協業するという意味なのです。両社が一緒になって輸配送の品質を上げることが狙いですから、A-CATSによって利益を上げることは考えていません」。
先に記したとおり、日本アクセスが運送会社に対しA-CATS導入を進める狙いは、輸配送の効率化と商品の品質管理向上にある。小売店に商品を届けるのは運送会社のドライバーだが、正確で間違いのない配送の裏にA-CATSの存在があるということが分かれば、日本アクセスに対する得意先の評価も自ずと高くなる。

また、A-CATSはトラブルの発生を未然に防ぐことを第一に考えたシステムだが、万一トラブルが発生したとしても、それに迅速かつ適正に対処できる点も大きな特徴だ。
「例えば得意先から冷凍食品が溶解していたとクレームが付いた時、今までなら商品の温度は時系列を追った温度計測データから、着店時間は配送日報からといった具合に、2つのデータを見せなければなりませんでした。これではどうしても信憑性が低くなります。A-CATSによるデータなら、1つのデータで、○月○日の○時に到着し、その時の商品温度は○度だったということをピンポイントで提示できます」。
A-CATSには、責任の所在を明確にするというメリットがあるのだ。実際、現場では誤解に基づいたクレームが大幅に減少したという。

小売店にもメリットはある。近年、商品の鮮度に敏感になっている消費者が増えているが、仮にそうした消費者が商品に疑問を抱いたとしても、小売店は「うちはこうした形で商品を仕入れています」と、A-CATSによる情報を開示できる。消費者を安心させるシステムなのである。

 
 

  物流トレーサビリティから商品トレーサビリティへ
 

このA-CATS、約6ヶ月の開発期間を経てテスト導入されたのだという。現在も改善が加えられており、進化が続いている。
「次のステップは上位の新基幹システムとのデータ連携、そして今話題になっている食品トレーサビリティをどう取り入れるかということですね」。
A-CATSそのものは、いわば“物流トレーサビリティ”のようなものだ。車両単位のトレースはA-CATSによって実現できた。となると、次は商品ひとつひとつの履歴を追う食品トレーサビリティがテーマになってくる。

「カートにユニークなIDを付けておき、それを無線ハンディターミナルでスキャンしながら荷下ろしすれば、カートのIDには中の商品が関連づけられていますから、どのお店にどんな商品を納品したかがその時点でトレースできることになります」。
トレーサビリティの試みは、同社の別のシステム上では一部稼働しているという。ただ、完全なトレーサビリティは、生産者→中間流通(卸)→小売店に至る全ての段階で足並みを揃えないとうまく機能しない。
「やはり生産者段階から取り組まないと難しい。ただ、コストの問題もあって、決して簡単にできることではありません。当社としては、卸として今できることはやっておこうというスタンスで取り組んでいます」。
現在、経済産業省が中心となり、無線ICタグを使った食品トレーサビリティの実験が行われている。おそらく近い将来、生鮮食料品や食肉の分野から実用化されるのだろうが、いずれは賞味期限のある食品全てがトレーサビリティの対象になるかもしれない。

日本アクセスが開発したA-CATSは、将来の食品トレーサビリティをも見据えた、物流トレーサビリティの代表例といえる。開発の狙いがトレーサビリティの実現にあったわけではないが、結果的にはそこまでのポテンシャルを備えたシステムだったということだ。
商品物流のIT化は、ここまで進んでいるのである。

取材協力:株式会社 日本アクセス(http://www.nippon-access.co.jp

 
   

 
  追加調査
 

●サミットが始める無線ICタグの実運用

 
 
携帯ストラップに取り付けられる無線ICタグ。約2×4cmの小さなカードの中央に、さらに小さなICチップが埋め込まれている。製作コストは約300円(!)だとか。
   

食品トレーサビリティのキーになるのが無線ICタグ。これは物体の識別に利用される微少なICチップのことで、中に商品の個体情報を記録し、電波を使って管理システムと情報交換を行う仕組みだ。当初はバーコードに代わる商品識別・管理技術として注目を集めてきたが、現在はもっと広い範囲での応用が期待されている。
例えば、スーパーのサミットが今年12月初めから善福寺店においてスタートする予定の「レシピ配信システム」。店舗内の生鮮食料品、加工食品コーナーに小さな端末を設置し、それに無線ICタグをかざすと、事前に登録した携帯電話やパソコンのアドレス宛に電子メールが届くというシステムだ。メールにはWebのアドレスが書かれており、そこへアクセスして詳細なレシピを入手するという仕組み。レシピは週替わりで提供される。
同社取締役の石井正明さんは、導入の経緯について「無線ICタグというと食品トレーサビリティに注目が集まってしまいますが、まだまだ実用化は無理。今できること、主婦に求められていることで実現できることはないかと考えたとき、それがレシピの配信だったんです」と語る。
今春、他店で実施したテストでは、モニターの約80%が「レシピ通りの料理を作り、役に立った」と、約60%が「そこで紹介された商品を購入した」と答えている。
「今までは店頭に紙で書いたレシピを置いていたんですが、人気のあるメニューはすぐになくなっていました。無線ICタグと携帯電話を使えば、お客様が欲しがっている情報を即座に提供できます。気掛かりだったパケット代への抵抗も少ないことが分かりました」(同社営業企画部 赤迫伸一さん)。問題はむしろ、店内に携帯電話が通じないエリアがあることだと言う。
スーパーの現場では、商品からメニューを連想させることが販売につながる。今後は魚のさばき方など、レシピ以外にも新しい提案を行っていく予定だ。

 
 

  特命捜査第019号 調査報告:伊藤信三郎捜査員 特命捜査第019号 調査報告
写真/海野惶世 イラスト/小湊好治 Top of the page

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