私自身アイデアを形にするデザインという仕事をしているが、時に他人の優れたアイデアに出会って、どうしてこのようなことを思いついたのだろうか、と感心する以上に不思議に思うことがある。
さて、今回ご紹介するのはなかなか使いやすい定規である。軽く薄いアルミ製だが、湾曲した断面のおかげで折れ曲がることもなく、しなやかに曲がるので曲面の寸法も測れるし、置いたときにぺたっとくっつかないので持ち上げやすい。 このオランダ製のCURVAと呼ばれる優れものの定規は、しかしよく見ると何かに似ている。それもそのはず、これはオフィス用のブラインドの羽根を再利用したものなのである。 オフィスビルの改装や建て替えの時に取り外されるブラインドは、多くの場合ぐしゃぐしゃにつぶされて他の建築廃材といっしょに捨てられる運命にある。そうなる前に救い出し、きれいに洗って40センチあまりに切り分け、シルクスクリーン印刷で目盛りを入れればユニークな直定規のでき上がりである。 もとの製品の特長をそのまま活かし、極力新たな加工を施さないでエネルギーとコストをかけずに新しい価値を生み出す。リユースの見本のようなエコデザインであるが、困ったことがひとつだけある。それはいつでも手に入るとは限らないということである。
現に、今回オランダから送られてきた本数も注文した数より少なく、これで在庫がなくなったので、残りはいつになるか分からないという。次にどこかのビルが取り壊されるまで待たなくてはならないらしい。 素材の安定供給は現代の産業にとって必須要件であり、逆の言い方をすれば、いつでも必要な時に入手できる素材以外は危なっかしくて使えない。この定規の場合で言えば、取り壊されるビルを待つよりブラインド用のアルミ押し出し材を工場から直接仕入れればよいということになる。しかし、それでは洒落にならない。 それにしても、古いブラインドをじっと眺めて、そうだ、これで定規を作ろうと思いつく、その発想力にほとほと感心するのである。

益田文和



益田文和(ますだ・ふみかず)
1949年東京生まれ。1973年東京造形大学デザイン学科卒業
1982年〜88年 INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1994年国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年Tennen Design '95 Kyotoを主催
1991年(株)オープンハウスを設立
現在代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している


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