紙は木材パルプから作られていると思いがちだが、それは近年の西欧諸国や日本の事情であって、もともと様々な植物繊維から作られてきた歴史がある。中国で使われる紙の大部分は今でも麦わら、竹、葦、ケナフといった天然資源や、バガスというサトウキビなどのしぼりかすなど木材以外のパルプで作らたものだという。そうしたいわゆる非木材紙の中でも特に丈夫なことで知られているのがコットンペーパー、つまり綿で作った特殊紙である。かつて英国紳士は着古した木綿のコートなどを再生したコットンペーパー製の大きなトランクを持って船旅に出たという。
さて、このペーパークリップは、そのコットンペーパーで作られた紙留めである。洋服生地の端材を超密度製法と呼ばれる方法で加工したもので、曲げに強く腰があって、十枚程度の上質紙ならしっかりと固定する。形もかわいいが、色が鮮やかで美しい。あの針金製のゼムクリップというのは便利なものだが、あれで留めた書類を渡されると「はい、とりあえず留めてありますよ。」という感じがしてあまりうれしいものではないが、このペーパークリップを使うと相手が喜んでくれる、ような気がする。
会議などで先方が何名かいる時は、4色のクリップで留めた書類を並べて相手に取ってもらう。中身は同じなのに、どの色のクリップを選ぼうかと誰でも一瞬迷う。そのちょっとした間がミーティング前の緊張感を和らげ、友好的な雰囲気を作るのに絶大な効果を発揮する。手にとりながら「これは何ですか?」と聞いてくる人には、「実はね・・」と簡単に(あくまでも嫌味にならない程度に)説明する。なかにはちょっと指先で触れて何も言わずに了解し、にっこりする人もいる。そんな時のミーティングはきっとうまくいく。チラッと見たきり何の関心も示さないような相手なら、さっさと切り上げてしまったほうが良いかもしれない。10円ちょっとの小道具でこんなに仕事が楽しくなるから不思議だ。
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益田文和 |
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