ITワイド講座




イラスト:小湊好治


無縁な人

毎日毎日、当たり前のようにパソコンとインターネットを使っていると、それがない生活など想像もできなくなってくる。人によって依存度(?)は様々だろうが、私の場合、ちょっとしたメモや備忘録みたいなものまでパソコンで処理しているから、ホントに命綱だ。なくなったら、かなり困る。でも、世の中にはまだまだ結構たくさんいるのである。パソコンと無縁の人が。そういう人はもちろんインターネットとも無縁だ。

よく一緒に食事をする友人、ヒロミとケーコもそんなタイプだ。なにしろ、彼女たちは、インターネットってのは“iモード”のことだと思っていたらしい。「IT革命」などとひと騒ぎして、それが落ち着いたというこのご時世に、だ。

彼女たちがインターネットと無縁なのには、もちろんそれなりに理由がある。彼女たちは、エステサロンのエステティシャンだ。当然、仕事でパソコンなど使わないし、メールは携帯で事足りるから、自宅でも使わない。

彼女たちと食事に行くとき、お店を決めるのはいつも私だ。もともと“調べ魔”のワタシは、3日前からインターネットで美味しくて感じのイイ店を探しまくる。時によっては、グラスワインや生ビールがサービスになるクーポンもプリントアウトして用意していく。

ヒロミが友達の結婚式で上京すると言い出したときも、とあるウェブサイトで都内の有名シティホテルを格安で取ってあげたら、大喜びされた(その前にすごく心配されて、泊まる時には誰の名前で泊まればいいのか、本当に普通の部屋なのかと、面倒なぐらい質問されたが)。

飲み会の前に合流したケーコが「ちょっと眼科寄らなくちゃ」と、眼科で「希望小売価格」の使い捨てコンタクトレンズを買おうとしたときにも待ったをかけて、ネットのディスカウント・ショップで定価の半額で買ってあげた。

二人とも、もう私を魔術師扱いだ。インターネットやパソコンにここまで無縁だと、ネット・サーフィンやらオンライン・ショッピングがどれほど簡単なことなのか、想像もできないようだ。味をしめた(?)彼女たちは、段々、何でもかんでも私に頼るようになってきた。さすがに面倒くさいので「いい加減、自分でやれば?」と突き放してみた。その時の彼女たちの答えはものすごくあっけらかんとしていた。「仲間内でやれる人が一人いれば充分じゃない」。

そうか。

ワタシはなんだかものすごく納得してしまったのである。確かに、この間まで、インターネットがなくてもちゃんと生活できていたんだから。彼女たちに言われて、私は自分の毎日を振り返ってみた。仕事以外でインターネットを使う目的といえば、結局、“調べもの”と“お得情報”だ。もちろん、先週ご紹介したように、コミュニケーション・ツールとしての使い方もある。でも、それは付加価値程度のものだと思う。

インターネットを使った“調べもの”の方は、確かにすごく役に立っている。一番心に残っているのは、虐待を受けている子供の家庭教師をしている友人のために、事態を解決する方法、手助けをしてくれる機関、法律などを調べることができた時だった。インターネットというのはまったく弱い者の見方だなぁ、とつくづく感心した記憶がある。

でも、ものすごくくだらない使い方もしているのだ。ふと頭に浮かんだ「春がきた、春がきた、どこにきた」という童謡の後半がどうしても思い出せなくて、なんとなく検索してしまった、などというのは、我ながらホントにどうでもいい使い方だと思う。

“お得情報”の方は、旅行だの、洋服だの、流行りのレストランだのといったものが中心だ。この頃は、インターネットで買うほうが安いとか早いとか、とにかく“インターネットを見ないと損する”サービスが多い。「お得」と言っても数百円程度だが、だからこそ、インターネットの“イ”の字も知らない彼女たちを、ワタシはちょっと小馬鹿にしていたわけだが……なぁんだ、馬鹿なのは彼女たちなんかじゃなくて、私の方だったのか。二人とも、「調べてきてくれるだろう」と考えている。簡単に言えば、私達の仲間うちでの役割分担でしかなかったわけだ。グラスワイン1杯サービス券なんて、一人が持ってくれば充分だ。なるほど、そういう人がいると便利だ。妙に納得してしまったのは、そういう理由だった。

と、そうしたわけで、今わたしは、来月彼女たちと行く旅行の計画を立てている。コースを決めて、宿を探して、どの交通手段が一番安くなるか、毎日夜遅くまでパソコンのモニタを眺めている。なんのことはない、こうして調べるのが楽しいのである。

余談だが、目下、私が憤っているのは「ネットを通した方が安い」という事実だ。今回、どうしても泊まりたい宿がある。そこへ行くのはもう4度目ぐらいになるから、できれば宿に直接電話し、「お久しぶりです」などと言って、常連気分を味わいたい。だがネットで予約した方が、びっくりするぐらい安い。安くなるわけだから、それに越したことはないのだが、なんとなく、つまんないなぁ…とモニタの前でブツブツ。そろそろ旅行コースは決まりそうだが。
(2003.4.1)

堀田ハルナ

戻る


月刊誌スタイルで楽しめる『COMZINE』は、暮らしを支える身近なITや、人生を豊かにするヒントが詰まっています。

Copyright © NTT COMWARE CORPORATION 2003-2015

[サイトご利用条件]  [NTTコムウェアのサイトへ]