ITワイド講座




イラスト:小湊好治


『パソコンとこども〜学校のIT教育』

先日親戚の子供を連れてオモチャ屋さんに行ってきた。郊外の大型玩具店なんて、子供のいない私にとってはまったく未知の世界だ。足を踏み入れて、まず山のように積まれたオモチャに圧倒されてしまった。私が子供のころには…なんて遠い目をしていると、店の奥にはなんと子供向けパソコンが積まれている。キャラクターの絵がついたパソコンは店の人気商品らしく、「これからの時代は必需品です!」と、親向けの派手なポップがつけられていた。

知人のお宅でもこのところ、「パソコン買って!」という娘のY子ちゃんのお願いに頭を悩ませている。学校の授業にパソコンが取り入れられて、コンピュータやインターネットに興味が出てきたようなのだ。

Y子ちゃんが通う公立中学校には約40台のパソコンがあって、それらは全てパソコンルームに置かれている。学校によっては、放課後にパソコンルームを開放しているところもあるらしいが、Y子ちゃんの学校にはそうした制度がない。パソコンをもっと使ってみたくなったY子ちゃんは、自分のパソコンが欲しくなってしまったらしい。

Y子ちゃんの中学では、Wordなどのソフトの使用法を覚える「技術家庭」の授業のほか、パソコンを使った調べ学習や、さまざまな調査内容をプレゼンテーションする「総合的な学習」の授業が行われている。

もちろん小学校でも、パソコンの授業はあった。しかしY子ちゃんの小学校にはパソコンが20台しかなかった。つまり授業では2人に1台しか行き渡らない計算だ。しかも、文科省などによるパソコン研修を受けた先生だけでは手が回らないからと、パソコン操作を学ぶ授業は大学生のボランティアに頼っていた。

この小学校ではIT教育にそれほど重点を置いていなかったらしい。だから、パソコンを使う授業といっても、その内容は簡単な“調べ学習”や文集を作るといった程度のものだった。Y子ちゃんは、初めのうちこそパソコン操作を面白がってすぐに覚えたそうだが、ある程度文字入力を覚えたあとは、それほど関心を示さなくなっていたという。

Y子ちゃんがパソコンに興味を持ち始めたのは、中学に入り、「総合的な学習」で学ぶコンピュータの世界に触れてからだった。彼女の中学校は、IT教育はもちろん、メディア・リテラシーにも力を入れているのだ。

「総合的な学習」は、国際理解や人権教育など、かつては「道徳」と呼ばれた科目の内容や、パソコン学習など文字通り総合的に学習する科目だ。

たとえば地域について学ぶ際には、フィールドワークを行なう。子供達はグループごとに街へ出て、色々な人に話を聞き、デジタルカメラで写真を撮る。そしてその内容をまとめてPower Pointでプレゼンテーションするのだ。こうした授業の中で、Y子ちゃんはだんだんコンピュータの面白さに目覚めていったらしい。

この中学校では、ただパソコンを使えるようになるだけでなく、インターネットについても詳しく教え、そこから社会につながることの楽しみや広がりを学ぶことに重点を置いている。

この学校のT先生は、基本的な操作方法を教えることはもちろん必要だけど、それ以上に大切なのは、自分たちの得た情報を読み解く力ではないか、と話してくれた。

「総合的な学習」では、何をどのように学ぶかは各学校に任されている。パソコン操作についても、どの学年でどの程度使えるようにするかといった基準がないし、子供向けの“パソコン検定”のようなものもない。当然学校によって、子供のパソコン操作能力に差が出てきてしまう。

「でも」とT先生は言う。パソコンの基本的な使用法を知りたければ、本屋さんでたくさんのガイドブックが並んでいる。ソフトもパソコンもどんどん進化していくものだから、今の操作法を覚えることに加えて、そういうガイドブックを「読める」力を身につけることが大切だというのだ。そして、もっと大切なのは、インターネットの力を借りて集めた情報を「読み解く力」、そしてそれを「人に伝える力」だと話す。

T先生の授業では、そうした力を身につけるための様々な試みを行っている。例えば、Yahooのトップページに掲載されているカテゴリと、gooのトップページに掲載されるカテゴリを比べて、その分類方法の違いについて考えてみるとか、多くのサイトに書かれている“Copyright”という表記について調べてみるなど。−−こうした授業の中で、様々な情報を色々な角度から検証してみせるのだ。

メディア・リテラシーの授業はパソコンの中だけには留まらない。例えばサッカーをする少年の写真を黒板に張り出して、そのシチュエーションを子供達に予想させてみる。その後に、「これはブラジルの少年です」「これはイラクの少年です」という二つのキャプションを並べてみせるのだ。子供達は、たった一行の言葉によって同じ一枚の写真の印象が全く異なることに驚き、情報には必ず“背景”があることを学ぶという。

こうした授業は、子供達自身がプレゼンをする際の“効果”について考えるきっかけにつながっていく。地域学習のため街で撮ってきた写真に、どんな言葉を添えれば思いが伝わるのかを実際に考えてみることで、情報の発信者側の視点を知っていくわけだ。

「もちろん、こうした授業にも難しい点はたくさんある」とT先生は説明してくれた。

「今の子供達は、様々な情報にさらされています。情報がありすぎて多くのものが均一に見え、自分が小さくて無用な存在だと感じてしまう子供も少なくありません。でも、そんな時代だからこそ、自分自身の存在がかけがえのないものだということを感じる力を身につけてほしいと思っているんです。『情報』そのものについて学ぶことが、その始まりになるような授業にしていかなければ…。」

Y子ちゃんは最近、テレビを見ていても色々なことに関心を示すようになったという。消費者金融のCMの最後に必ず「借りすぎに注意」と出てくることや、夜にしか流れないCMがあること等など。お母さんは、そうしたことに“気付く”ことが、情報に踊らされない力につながるのではないかと考え始めたそうだ。そろそろパソコンを買って、一緒にインターネットでその理由を調べてみようと思う、と話してくれた。その時は私も参加させてもらおうかと思っている。
(2003.4.22)


堀田ハルナ

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