ITフォーラム





【第2回】

〜「テレコズム」の記述内容から啓発された疑問〜

◆ジョージ・ギルダーの他にも、ネットワークの帯域の爆発的伸長による通信革命を、更に鋭く洞察を加えているのがAT&T、ベル研究所の研究者の経歴をもつデビッド・アイゼンバークである。特に、電話網とインターネット網との本質的なネットワークの違い (帯域が保証される網と、ベスト・エフォート型の網の違い)に着目し、『インテリジェント・ネットワークより、ステューピッド・ネットワークの優位性』を唱えた。また従来の電話網のアーキテクチャに囚われた電話会社のネットワーク構築の仕方とインターネット構築とを対比し、『ベルヘッド 対 ネットヘッド』を描き、最近では、ついに『最善のネットワークは最も儲かりにくいネットワークである』 というテーゼを発表した。この議論に対して、ネットワークの効率のあり方からだけでなく、経営のあり方、さらには収益構造のあり方まで議論を展開してきているが、これは本当だろうか?従来の通信業界の常識からすると、簡単に合意できそうな内容ではないように思われる。

◆ジョージ・ギルダーの論点には、なるほどと納得する部分と、本当にそうなのかな?という疑問に思われる部分もある。特に、ネットワークのあり方についても、認証やセキュリティ、あるいは課金については、やはりネットワーク側で何らかの仕組みが必要なのではないのかと思う。ネットワークというインフラを構築し、維持し、技術革新に備えるのが、すべてコストセンター的な政府機関や地方自治体やNGOに任せるのは、特別な地域を除いては現実解ではないはずだろう。また資源は有限なのか、あるいは(特に現実的に利用可能な無線の帯域ついては)無限と考えてもいいのだろうか。仮にネットワークの優位性があるとしても、それがそのまま収益の優位性となるといえるのだろうか。技術の優位は、かならずしも市場シェアにおいて勝利するとは限らない事例はたくさんある。そこには経営戦略がかかわってくるはずである等々の疑問が沸いてくる。さらにサービス範囲の広さやユーザの意識を考慮した技術革新の変化のスピードが、企業の構造改革(資産の償却、投資配分、人員配置、組織)とどう関連させていくのかについても議論が必要である。北欧や韓国では成功しているとしても、そのモデルは、他の国でどこまで適応可能なのだろうか?国土の広さ、遠隔の僻地を抱える国土、金融危機の脱出という未曾有の危機意識、米国や欧州など大国の周辺国としての復活のシナリオなのか?など様々な角度から考えてみる必要があろう。

◆ジョージ・ギルダーの本に「トービンのQ」に関する説明が載っている。これは、エール(Yale)大学の経済学者・ノーベル賞受賞者のジェームズ・トービン(James Tobin)が提唱した「企業の市場価値と買換費用との比を表す」指標である。 これは資本ストックにどれだけ企業家エネルギーがあるかという指標でもある。 例えば、AT&T(国際・長距離通信事業者)とベビーベル(地域通信事業者)の場合、 市場価値も資本もほぼ2,630億ドル(約31兆5,600百億円)であり、この指標は、約1となる。一方、MCI 買収前のワールドコム(WorldCom)の場合は、市場価値330億ドル(約3兆9,600億円)、買換費用55億ドル(約6,600億円)であり、この指標は約6.5 となる。前者の場合の技術投資は、設備機器の相対的に高価な時代に投資してきているのに対し、後者の場合は、設備機器への投資額は相対的に廉価に済んでいる。設備投資という面では、テレコム産業では、明らかに「後発の新規参入者」が有利である。しかし、今月(2002年6月)ワールドコムの38億ドル(約4,560億円)にものぼる巨額な粉飾決算のニュースが飛び込んできた。どう解釈すればいいのだろうか。より高い価格での設備投資をした既存の電話会社が残り、より安い投資で市場参入したはずの新規参入業者の多くが苦戦し、破綻しているのはなぜだろうか?

国際大学グローコム・フェロー 小林寛三


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