ITフォーラム




【第7回】

〜最終回〜

◆ Comdex参加報告

11月に、米国ラスベガスで行われたComdexに参加する機会に恵まれた。特 に、ITバブル崩壊以降、この世界最大のITイベントに、どれだけの人と展示が集まるのか、またIT業界のリーダ達がどのような基調講演を行うのか、更に個人的には十年ぶりで訪れるラスベガスの賑やかさはどうなのかにも興味があった。

日曜日の夕方の前夜祭はMSのビル・ゲイツ会長の基調講演で始まり、12,000人もの聴衆がタブレットPCなど次世代の機器である"SPOT"(Smart Personal Object Technology"のデモの実演に酔わされた。また翌日からは、Compaqとの合併を果たしたHPのカーリ・フィオリーナ会長が登場し、"Everything is possible"と自信に満ちたNew HPを披露した。3番手に登場したSUNのスコット・マクニーリ会長は、この週発売のBusiness Weekの特集記事 "Will Sun rise again?"を話題にしながら、Sun.OneとN1という次世代ネットワーク戦略を熱く語った。

それぞれ、ITの未来の切り取り方に特徴が表れていて興味深い。特に、ゲイツは、場所も時間も別格の扱いであることを意図的に意識させるような演出であった。紅一点のフィオリーナは、1時間余りに及ぶ長い講演中で、ついぞJavaとLinuxに言及することがなかったのに対し、マクニーリは、JavaとLinuxを何度も強調し、創造的なコンピューター企業は、64ビ ットではIBMとSUNであり、32ビットはMSであると断定した。それぞれの会長がこれからのデジタル社会の未来を語りながらも、その描写方法はそれぞれの会社の立場や顧客層を意識しており、講演そのものが市場競争をしていた。

AMDのヘクトル・ルイス会長は、14世紀にバイオリンのデジタル化としてのギターが発明され、それがさらに電子ギターに進化したと説明し、自ら64ビットのチップを礼賛する曲を会場で演奏し喝采を浴びた。National Semiconductorのブライアン・ハラ会長は現在のIT業界の復活時期について、さまざまな統計数字の根拠を示した後、スクリーン一杯のスロットマシーンの表示でその復活を2003年6月と予測した。まさに各社の会長の自信と明るさとタレント性躍如といった所であり、これらは米国ではリーダの必須条件でもある。CEOとはChief Evangelist Officerという意味なのであろうか?

◆ ラスベガスの街とハイテク

ところでComdexのエキスポとラスベガスの街は、一見相容れない雰囲気がある。一方はコンピューターを片手に新しい知識を掴もうとしているデジタル人間であり、他方はドル紙幣を片手に新たな幸運を掴もうとしているアナログ人間であり、それぞれ異次元空間のように見える。しかしよく見ると共通点もある。Comdexの出展者は、それぞれが過大な投資をしながらも、バブルの崩壊を耐え抜き、明日への飛躍を夢見ていること。それはカジノに集まる人々が現在よりも未来の幸運に賭けようと必死であり、いずれも未来志向派である。また Comdexの会場には、中国・韓国・日本などアジア諸国、欧州など外国企業の参加が目立った。ホテルの広いカジノのあちこちにも、多国籍の人々が集まって勝負していた。いずれも過大な設備の中でのグローバルな人々の集合という点では共通している。またインターネットもカジノも常時接続24時間サービスの世界である。そう考えるとComdexとカジノとは意外と親和性があるのかも知れない。現在のIT技術は量子力学の応用ともいえるが、かつてアインシュタインが量子力学を批判して、「神はサイコロを振らない」と表現したこともあったが、サイコロこそが究極のデジタル表現であるように思えて来た。

◆ テレコズムの行方

さてテレコム業界のことである。ジョージ・ギルダーは1989年に『マイクロコズム』でコンピューターの進化を、そしてその11年後にそれを凌駕するネットワークの進化を『テレコズム』の本で著した。テレコムの進歩が前提となって、コンピューターの機能がネットワークを通じて分散し、ネットワークそのものや、ネットワークの先にあるデータセンターなどを仮想的なコンピューターとみなす技術が登場して来た。ネットワークは、ステューピッドになって銅線やファイバーだけになったと思ったら、その先のストレージや他の機器と接続することで、再びインテリジェントな役割を演じるようになって来た。ギルダーは、10年を待たずに再び「続マイクロ・テレコズム」を書かねばならなくなるのだろうか?

コンピューターかネットワークか、集中か分散か、帯域の保証かベスト・エフォートか、ユニバーサル・サービスかデジタル・デバイドか、百年の長い実績かここ十年余の短い爆発かなど、『I・T』と一括りされるこの2つの産業の違いは、Comdexとカジノ以上に大きい。それゆえにこの2つの文化が融合し、共同作業することで生み出される価値もまた大きくなるのだ。

ギルダーの『テレコズム』の最終章に20の法則が載っている。その15番目にネットワークコンピューティングの法則がある。それは「テレコズムでは、ネットワークがコンピューターになる。コンピューターは分解してネット上に散らばり、ソフトウェアは分解してネット上のコンポーネントになる。」と書かれている。
(2002.12.3)
国際大学グローコム・フェロー 小林寛三


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