ITフォーラム





【その1・・・現状認識】

世界的な普及をみているインターネットとモバイル通信、および大量のデジタルコンテンツの流通を可能とするブロードバンド・ネットワークは、情報の流通面で革命的な変化をもたらすものとの期待は大きい。現状は「情報の共有環境」の下で、「誰もが」「いつでも」「どこでも」「手頃な値段で」「手軽に」情報の活用を行うことができる方向に向かっている。
しかし、ブロードバンド通信インフラの整備が進んでいく中で、デジタル情報の活用状況を見ると、インターネット情報の検索や電子メールなどに限られていて、関連するブロードバンド・ビジネスは、低迷状況にあると言えよう。たとえば、期待の3Gモバイル、その先陣をゆくNTTドコモのFOMAの普及をみても、大方の期待とは違った。こうした現状が象徴するように、ブロードバンド・サービスは、日本だけではなく世界的にみても難しい立場に置かれていて、いまなお確たる方向性を見出し得ていないのではないか。
NTTがブロードバンド通信サービスの実用実験を打ち出してから、かれこれ20年。これからの通信として期待されてきた高速・広帯域通信であるが、技術やインフラ整備もさることながら、ブロードバンドならではのキラー・アプリケーション、コンテンツあるいはサービスは、どのような状況なのか。カギとなる音声通信以外の利用分野については、100年以上の歴史を誇る狭帯域通信の電話サービスが、長らく「脱電話」を標榜してきた。それを日本ではNTTドコモの先導の下に、見事に「ケイタイ」でやり遂げた。それ以降、テキスト、音楽、写真といったデジタル情報のネット上でのサービス・メニュー数とその流通量は日増しに成長を続けている。しかし、世界的にみると、GPRSやWAPなどのモバイル・サービスは未だ普及が見られず、最近になってようやく市場は立ち上がりつつある程度である。固定電話では、NTTがケイタイに追随するかたちで、Lモード・サービスを始めた。ブロードバンド・サービスについては、大量のテキストのみならず、高精細・高音質の画像・映像が自由にやりとりできるデジタル情報流通時代の早期到来が期待されつつも、足踏み状態にあると言えよう。

ワールドカップは日本中を沸かせた。だが、試合をインターネットで見たいと望んでもそれはできない。テレビの放送映像も、アングルは一つに固定されていて、会場に居るかのように、自分の見たい選手の動きや、観衆の動きなど見ることができない。送られてくる映像の視野は、マルチでも、広角でもなく、チャンネルの数も限られている。試合を円滑に進めるための主催者側は、ITを駆使するようになってきているが、肝心要のブロードバンド利用者や入場できない視聴者に対する既存メディア産業の対応は、基本的には変化を望んでいないのではないかと思えるのが現実である。
大多数の人々が求めるブロードバンド・サービスの商用化は、ゲーム以外になかなか見えてこない。ISDN、XDSL、FTTHの利用者数が増え始め、CATVの普及、多チャンネル化の進展、デジタル放送への切り替えも進んでいく時代に対し、ブロードバンド・サービスの目玉となるコンテンツやアプリケーションの推進に期待したい。

ブロードバンドの普及速度を速めるためには、NTTドコモがiモードを立ち上げたように、斬新なアイディアにもとづく大規模・大胆な試行錯誤や多くの異分野からの参入を歓迎し支援する環境づくりなどが必要であろう。
ブロードバンドは、@利用料金が手頃、A高精細・高音質といったコンテンツの品質向上、B高速・大容量、といった面ばかりが注目されているが、C1対1の通信、D1対多の放送、E多対多の双方向同時通信、を可能とするところに主な特長があり、これらに着目したアプリケーションの誕生が待たれるところである。

例えば、コミュニケーション面でも同様で、これだけ携帯電話が固定電話とその数において拮抗する社会となっても、音声通信は相変わらず1対1で、グループの仲間同士がライブでおしゃべりを楽しもうとしても、3者止りとなっている。法体系も通信、放送の枠組みに閉じ込められたままとなっていて、わずかに融合の意見が出る程度である。VoIPといっても通信料金面だけが大きく取上げられていて、ブロードバンド通信の特長を生かした注目される新しいサービスが見えてこない。ネット取引とて同様で、一つ一つの取引ごとに人が介在しなくてはならないのが現状である。エージェント通信の普及にもブレークスルーがない。それもその筈、パーソナライズした情報利用がままならず、結果として、従来型オンライン・コンピュータシステムの利用方法の域にあり、ブロードバンド技術とその特長を生かすアプリケーションが未成熟という状況にある。

いま、ことさらブロードバンド・インフラ整備のあり方を議論することは、ハコモノ整備中心の在来型公共投資のあり方論に埋没しかねないと考える。むしろ、当フォーラムで中心的に議論したいのは、新しいデジタル情報流通社会の法体系の確立と、上述のようなブロードバンドの性能をフルに生かしたアプリケーションやコンテンツの創出策である。
皆様と共にブロードバンド普及・発展の動向、課題とその解決策などについて、忌憚のない意見交流ができればと願っているので、多様なご意見をどしどし投稿して頂くことを期待したい。
(2002.7.10)
コムジン IPプロフェッショナルズ


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