ITフォーラム




【第6回】
韓国モバイルペイメント事情

■モバイルコマースに注力する韓国携帯電話会社

韓国では携帯電話加入者数が3,100万加入(2002年9月末)を超え(総人口は約4,700万)、市場が飽和状態に達していることに加えて、政府や消費者団体からの度重なる携帯電話料金の引き下げ要求の圧力を受けていることから、韓国携帯電話会社は新たな収益基盤の確保を模索しています。そのような中、各社モバイルコマース参入への動きが活発化しています。単なる娯楽性デジタルコンテンツの販売にとどまらず、携帯電話や情報通信端末機器を、オンラインであれオフラインであれ、決済端末として利用できるような仕組みを、どこよりも先んじて整備し、先行者利益を得るべく新たなビジネス戦略を展開したい考えです。

■金融会社を目指すSKテレコム

SKテレコムは、移動体通信網とクレジットカードを結合した「モバイル金融」を今後の核心的な戦略事業と位置づけ、全北銀行のカード事業部の買収に続いて、インターネット金融ポータルサイト「パスクネット」の買収をおこなっています。金融関連事業者の買収を積極的に進めることによって、クレジットカードによる決済システムや各種金融取引ができるモバイル金融システムを構築し、モバイルコマース市場における収益源確保を目指しています。
同社では、クレジットカード情報が内蔵されたICチップ、いわゆる「UIM:User Identity Module」と呼ばれる多目的ICカードの組み込まれた携帯電話機を、2002年末までに市場投入する予定です。リアルな店舗での決済場面では、IrFM(Infrared Financial Messaging)仕様を元にSKテレコムが独自開発した赤外線通信技術が使用されます。また、年内までにカード加盟店3万店舗に、赤外線受信端末装置となるカードリーダを普及させる計画です。
ちなみに、韓国では、携帯電話機内部のフラッシュメモリにクレジットカード情報を蓄積し、赤外線通信を使って決済を行うサービスが、SKテレコム以外の携帯電話会社によって既に提供されていますが(後述)、UIMタイプの携帯電話機で赤外線通信を使った決済サービスを提供するのはSKテレコムが最初となります。

■クレジットカード機能付き携帯電話で先行する韓国

韓国では2002年4月よりLGテレコムが、2002年6月よりKTフリーテルが、クレジットカード機能付き携帯電話サービスを提供しています。これは携帯電話機内のフラッシュメモリに予めクレジットカード情報を蓄積しておくタイプで、技術的には12枚のカード情報の蓄積が可能とされています。赤外線通信にはZOOPシステム(韓国Harex社が開発)が採用され、セキュリティ確保は、Javaのようなアプリケーションではなく、ミドルウェアのレベルで実現されています。また、端末設計開発段階からユーザビリティを考慮し、例えば音声ボタンを長押しするとクレジットカード画面へ移行するといった工夫が施されています。当該クレジットサービスを利用するには、オフラインでカード会社に加入申請を行い、その後カード会社から送られてくるSMSに従ってカード情報をダウンロードする必要があります。なお、カードリーダ側の赤外線受信装置は約1,000〜3,000円で提供されています。
韓国でいち早くクレジットカード機能付き携帯電話サービスが導入されたわけですが、赤外線通信機能付き携帯端末への買い替え需要が起きていないこと、加入手続きをしても利用できるまでに数ヶ月も要するなど、実際のところあまり普及していないのが実情といえそうです。

■UIMに関わる問題は技術よりもビジネス戦略上の問題

韓国ではUIMタイプの携帯電話の普及とIrFMの標準化を進めるために、2002年半ばより政府主導による標準化委員会が始まりました。メンバーは、SKテレコム、LGテレコム、KTフリーテルの携帯電話会社3社、BCカード、国民カード、LGカード、三星カードなどのクレジットカード会社などより構成されています。そこで議論となるのは、技術上の問題ではなく、携帯電話会社とカード会社との間の手数料体系の問題です。携帯電話会社は、カード会社から1.2%の手数料の受け取りを主張しています。しかし、現在、カード会社は加盟店より2.3%の手数料しか受け取っていないため、携帯電話会社に1.2%を支払ってしまうと利益を上げることができないと反対しています。また、UIMチップのフィジカルデリバリーを誰が行うのか、その所有権をめぐっても、携帯電話会社とカード会社との間で対立しています。モバイルコマース市場の早期進展を目指す韓国にとって、業際間の調整をどう図っていくのか、政府の政策方針が注目されるところです。

■一方で進む電子マネー「K-Cash」プロジェクト

韓国では、乱立する電子決済カードの互換性をもたせることを目的に、韓国銀行主導による統一型電子マネー「K-Cash」の開発が進められています。韓国内に並存する接触ICカード(加盟店など)と非接触ICカード(バスや地下鉄の交通カードなど)が統合されることに加えて、クレジットカード機能やIDカード機能など、社会生活のあらゆる場面に必要なカード機能を「K-Cash」に搭載することが想定されています。また、電子署名や公認認証書の情報を蓄積することで、インターネットを通じた商取引の支払い手段としての活用も期待されています。韓国銀行主導による電子マネー「K-Cash」が、今後、高機能化・多機能化し、急速に普及していくかどうかが、携帯電話を利用した決済システムの普及にも少なからず影響を与える可能性があるといえそうです。

国際通信経済研究所 上席研究員 飯塚留美


戻る



月刊誌スタイルで楽しめる『COMZINE』は、暮らしを支える身近なITや、人生を豊かにするヒントが詰まっています。

Copyright © NTT COMWARE CORPORATION 2003-2015

[サイトご利用条件]  [NTTコムウェアのサイトへ]