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欧州におけるブロードバンド事情
◆ eEurope 2005
欧州でもブロードバンドの本格的な普及の兆しが見られる。欧州委員会は、欧州におけるインターネットの普及を目指して2000年6月に採択したeEurope2002行動計画(Action Plan)の進捗状況を2002年2月に発表し、次の諸点を指摘した。
(1)新サービスの促進、電子商取引の成長を加速させるには、ブロードバンド化が必要である。
(2)インターネットが教育に十分な役割を果たしていない。
(3)政府のオンライン化が十分進んでいない。
このため、eEuropeを継続する必要であるとの結論を出している。
EU首脳会議は、このeEurope2002行動計画を継承した、次の実現を目指すeEurope2005行動計画を今年6月に採択した。
オンライン公共サービスの近代化(電子政府、e学習サービス、e医療サービス)
ダイナミックなeビジネス環境の整備
価格競争力のあるブロードバンド・アクセスを広く提供、及び情報インフラのセキュリティの確保。
◆ 欧州におけるADSL
欧州では上述のeEurope行動計画に沿ったブロードバンド化が本格化している。しかし、欧州のブロードバンド化は、日本や米国に比べて出遅れている。また、ブロードバンドの中心になっているADSLでは、既存の旧国営電話会社による独占状況が続いており、競争があまり進んでいない。
日米欧ブロードバンド普及比較(2002年6月末現在)
地域・国 | DSL回線数 | DSL回線比率 (100加入者 回線当たり) | DSL普及率 (千人当たり) | ケーブル・ インターネット 回線数 | ブロードバンド普及率 (DSL+ケーブル・ インターネット 回線数/千人) | EU | 6,047,278 | 3.0 | 16.3 | 2,088,666 | 21.9 | 米国# | 5,026,405 | 2.6 | 17.6 | 7,059,598 | 42.3 | 日本 | 3,300,926 | 6.5 | 26.0 | 1,626,000 | 38.8 | |
出所:EUはECTA DSL Scorecard、米国はFCC統計(#2001年12月末の数値)、
日本は総務省資料
ECTA(the European Competitive Telecommunications Association: 欧州競争電気通信事業者協会)が2002年8月に発表したEU諸国におけるDSL普及状況は下表のとおり。総加入者回線に占めるDSL回線の比率では、ベルギーが突出して高く、スウェーデン、デンマーク、ドイツの順になっている。また、人口1,000人当たりDSL回線数では、スウェーデンが最も高く、ベルギー、ドイツの順になっている。一方、ギリシャはまだDSLが導入されておらず、アイルランドやポルトガルもDSL回線数が極めて少ない。ブロードバンド人口普及率(人口千人当たりDSL回線数とケーブル・インターネット回線数の合計)でも、ベルギーとスウェーデンが他の諸国を引き離している。このように、大国に比べて、小国のブロードバンド化が目立つ。この背景には次のような事情がある。
CATV普及率97%のベルギーをはじめとするケーブル普及率の高い諸国では、CATV事業者による通信市場への参入という脅威に電話会社がさらされている。このため、電話会社各社では、市場シェアを確保するには、早くADSLを提供する必要があった。そこで、各社ではインフラの整備をはじめ、顧客によるADSLモデムのセルフ設置工事、早期開通等を実施してきた。例えば、EUでADSL普及率首位のベルギー等の電話会社では、簡単な工事ガイドを作成して顧客がADSLモデムを自分で設置できるようにしてきた。また、電話会社各社では、小売店チェーン等と提携して、ADSLキットの販路を拡大してきた。これらの諸国では、CATV事業者と、電話会社をはじめとするADSLプロバイダーとの競争が、ブロードバンド普及を加速させている。
欧州におけるブロードバンド・インフラの整備状況 | DSL回線数 | DSL回線比率 (100加入者 回線当たり) | DSL普及率 (千人当たり) | ケーブル・ インターネット 回線数 | ブロードバンド普及率 (DSL+ケーブル・ インターネット 回線数/千人) | オーストリア | 130,480 | 3.4 | 16.0 | 221,000 | 43.0 | ベルギー | 363,000 | 8.6 | 35.4 | 280,000 | 62.7 | デンマーク | 151,775 | 5.4 | 28.5 | 87,500 | 45.0 | フィンランド | 99,500 | 3.1 | 19.2 | 42,000 | 27.3 | フランス | 693,449 | 2.0 | 11.8 | 169,000 | 14.6 | ドイツ | 2,600,000 | 5.3 | 31.7 | | 31.7 | ギリシャ | 0 | 0 | 0 | 10,000 | 1.0 | アイルランド | 997 | 0.1 | 0.3 | 1,500 | 0.7 | イタリア | 549,500 | 2.1 | 9.6 | | 9.6 | ルクセンブルグ | 2,700 | 0.9 | 6.1 | | 6.1 | オランダ | 215,276 | 2.3 | 13.6 | 330,000 | 34.4 | ポルトガル | 5,653 | 0.1 | 0.8 | 263,666 | 40.3 | スペイン | 600,390 | 3.0 | 15.2 | 115,000 | 18.1 | スウェーデン | 343,958 | 5.8 | 38.6 | 150,000 | 55.4 | 英国 | 290,600 | 1.0 | 4.9 | 419,000 | 11.9 | EU計/平均 | 6,047,278 | 3.0 | 16.3 | 2,088,666 | 21.9 | (注)オーストリアとイタリアのDSL回線数は2002年3月末の数字
◆ 英国
規制機関Oftelは、2002年10月に高速インターネット接続の加入者数が100万の大台を突破したと発表した。また、英国の大手ISPがブロードバンド・アクセスの料金値下げ戦争に突入しており、普及に拍車がかかってきた。
BTでは、交換局400局にADSLを装備しており、600万の住宅及びビジネス加入者を収容できると発表している。また、英国全体でADSL導入の投資総額は82億ドルに上っている。多数の代替事業者(Kingston Communications, Colt, Cable & Wireless, Easynet, Eircom, Energis, Fibernet, First Telecom, Global Crossing, Kingston, MCI WorldCom, NTL, Telewest, Telinc、Thus等)も、ADSLの整備を急速に進めている。メーカーではNortelが、BTの主要サプライヤーになっている。
◆ ドイツ
Deutsche Telekomが2000年末までに市内交換局3.4万局にADSL設備を装備するととともに、ISDN加入者をT-Online ADSLへの移行を進めている。2002年6月末のドイツのDSL回線数は260万回線、このうちDeutsche Telekom(DT)が250万回線(96%)を占めている。ドイツでは、ケーブル世帯普及率70%を超しており、DTがその大部分を占めているほか、ケーブルの老朽化が進んでいる。このため、ケーブル網の高速インターネット接続対応を実現するには、莫大な設備投資と長期間が必要である。そこで、DTではADSLを優先的に提供することにした。だが、欧州トップのISDN加入者数を有するDTでは、急速にADSLの導入を進めると、費用の増加とISDN投資の回収不能という問題に直面した。このため、ISDN加入者にまずADSLを提供する戦略を採択した。このため、ケーブルの高速化もADSLの普及も急速に進まなかったとう状況にある。
◆ フランス
フランスはブロードバンド後進国になっている。France Télécomは、同社のADSL営業約款(タリフ)の認可を1999年11月に受け、首都パリでADSLの提供を開始した。France Télécomは、3年間で20億フラン(約3億3,000万ドル、このうち半分はADSL以外にも充当予定)を投資して、2003年に100万ADSL加入者の獲得を目指している。
フランスのDSL回線数は2002年6月末現在69.3万回線、ほぼ100%をFrance Télécomが独占している。このような現状を改善するため、規制機関ARTでは、France Télécomに対し厳しい態度を取り始めている。このため、アンバンドリング回線の使用料が近く値下げになり、ADSL化に拍車がかかる見込みである。
◆ 加入者回線アンバンドリングの現状
DSLの普及には、加入者回線のアンバンドリングが不可欠だ。日本に比べて、欧州の新規通信事業者が提供しているDSL回線数は下表に示すとおり、極めて少ない。
日欧の事業者別DSL回線数(競争状況)
事業者別 | EU | 日本 | 既存通信事業者のDSL回線数 | 5,830,111 (96.4%) | 1,726,832 (40.8%) | 競争通信事業者のDSL回線数 | 217,167 (3.6%) | 2,496,384 (59.2%) |
ECTA(欧州競争電気通信事業者協会)では、このような状況を改善するため、2002年8月12日に加入者回線のアンバンドリング化に関する要望書を公表した。このECTA要望書によれば、欧州ではDSL市場が急成長しているが、アンバンドリングされた加入者回線を使用して競争事業者が提供しているDSL回線数は総DSL回線の3%程度であり、既存通信事業者がDSL回線の80-90%を占めているとして、改善を求めた。欧州でADSLが普及するか否かは、加入者回線のアンバンドリングとDSL回線使用料の値下げにかかっていると言えよう。
EUの加入者回線解放の状況(2002年6月末)
| 既存通信事業者 のDSL回線数1 | 競争通信事業者 のDSL回線数2 | 競争通信事業者 のDSLシェア(%) 2/1+2 | MDF開放率(%) #1 | 加入者 回線開放率(%) #2 | オーストリア | 128,000 | 2,480 | 2 | | | ベルギー | 362,000 | 1,000 | 0 | 20 | | デンマーク | 110,454 | 41,321 | 27 | | | フィンランド | 85,000 | 14,500 | 15 | 81 | 95 | フランス | 692,693 | 756 | 0 | 1 | 15 | ドイツ | 2,500,000 | 100,000 | 4 | 25 | 95 | ギリシャ | 0 | 0 | 0 | 0 | | アイルランド | 977 | 20 | 0 | | | イタリア | 518,000 | 31,500 | 6 | 24 | 48 | ルクセンブルグ | 2,670 | 30 | 1 | 8 | 32 | オランダ | 195,789 | 19,487 | 9 | 23 | | ポルトガル | 5,633 | 20 | 0 | 1 | | スペイン | 600,000 | 390 | 0 | 1 | 19 | スウェーデン | 338,895 | 5,063 | 1 | 2 | 99 | 英国 | 290,000 | 600 | 0 | 2 | 90 | #1: 他事業者の機器が設置されているMDFの割合(%)
#2: 他事業者に解放されたMDF経由で接続可能な回線の割合(%)
出所: ECTA <https://www.ectaportal.com/uploads/1348DSLScorecardPR_May02.doc>
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