ITフォーラム





米国のブロードバンド事情(3)
〜コンテンツとアプリケーション〜


「高速道路(e-Japanのブロードバンド)は建設されたが、走っている車(アプリケーション、コンテンツ、ビジネス)が無いのは、由々しきことだ」(2002年9月18日のIT戦略本部会合での片山総務大臣の発言)。

事情は米国でもあまり変わらない。ブロードバンドを利用するコンテンツやアプリケーション不足は、大きな問題だ。米国の情報通信産業界でも、ブロードバンド・アプリケーションやサービスの開発に余念がない。以下に、米国商務省が先月(9月)に発行した「ブロードバンド需要報告書(Understanding Broadband Demand)」http://www.ta.doc.gov/reports/TechPolicy/Broadband_020921.pdfの内容を中心に、米国アプリケーションの現状を紹介する。

ブロードバンド利用時間がオンライン総時間の半分を占める

ネットワーク社会の法律・政策課題に取り組んでいる”テクノロジー・ポリシー・グループ (TPG)”では、2002年9月にブロードバンド・サービスを利用している米国企業は、1年前より27%増えて48%に達したとの調査結果を発表した。また、米国の世論調査会社Neilsen NetRatingsの推計によれば、仕事にブロードバンドを利用しているオフィスワーカー数が2001年に42%増えて、2,550万人に達した。さらに、ブロードバンド・インターネットの利用時間が、2002年1月にオンライン総時間数の半分以上に達し、初めてダイヤルアップ・インターネット・アクセス時間数を超えた(Nielsen NetRatings, 2002年3月5日)。ブロードバンド需要は将来も増え続け、米国のインターネット・ユーザー数のほぼ半分が、現世代のブロードバンドを使用するようになると予測されている。

ブロードバンドのアプリケーション

ブロードバンドと言えば、一般的に娯楽とオンライン・ゲームという単純な発想がある。事実、韓国でブロードバンドが急成長した最大の理由は、2001年末現在、韓国全土で1.9万店にも増えたインターネット・カフェでのオンライン・ゲームだと言われている。しかし、ブロードバンドの可能性は他にもある。米国TIAのブロードバンド・セミナーでは、米国企業のデータ通信需要にxDSLが有望だとして、ビジネス・ユーザー向けにSDSLとADSLの売込みを推奨していた。また、米国商務省では、前述のブロードバンド需要報告書の中で、特に次のブロードバンド・アプリケーションを挙げている。

(1)教育・訓練:米国の次世代学術インターネットInternet2には、全米の200校以上の大学が接続されている。Internet2では、研究者たちが多数の教室で先例のない共同授業(コラボレーション)の実験を進めている。また、職場のオンライン教育訓練も、急成長しており、ビジネス界でブロードバンドの利用がますます高度化している。今後、教育訓練でのブロードバンドの利用がますます拡大すると期待されている。

(2)医療:ブロードバンド・ネットワークが実現すれば、ライフサイエンスや医療に大きな機会がもたらされる。遠隔医療(テレメディスン)は、医療情報やオンライン薬局の他に、国民が自宅にいながら、あるいは、いつでも、どこにいても診察を受けられるようになるというビジョンがある。ブロードバンドは、一般診療医師が、遠隔地にいる専門医師からアドバイスを受けることを可能にするなど、アプリケーションは無限に広がる可能性を秘めている。

(3)軍事利用:米国政府がブロードバンドのアプリケーションとして、特に重要視している分野が、「テロリストとの世界戦争」に勝ち抜くためのブロードバンドの軍事利用だ。また、産業界も、ブロードバンド情報技術の軍事開発を期待している。インターネットも、最初は軍事目的に開発された。軍事目的に開発されたアプリケーションがやがて商業利用に転化され、一般国民が利用できるようになるとの期待がある。

(4)セキュリティ:ブロードバンドは本土防衛システム等のあらゆる面で役立つ。衛星ブロードバンド回線で航空機のコックピットだけではなく、空港、列車等々をリアルタイムでモニターできる。また、ブロードバンドになれば、セキュリティ・データベースと乗客データの照合等も迅速かつ正確に行える。

(5)身体障害者等への支援:本格的なブロードバンドになれば、手紙の代わりに電子メールでビデオ・メッセージが送れるようになる。遠隔通訳や遠隔手話サービスなど、ブロードバンド対応の各種サービスは、身体障害者の活動範囲を広げる。ブロードバンドは若者だけでなく、高齢者の生活をも向上させる。家族や友達とのコミュニケーション、生涯学習の機会拡大、孤立した生活者の支援等々、ブロードバンドのアプリケーションは無限に広がっている。

ブロードバンドを普及させるには

ブロードバンドの需要と利用は、以上のような需要があるため、自然に増えるかもしれない。だが、世界の政府や業界関係者は、ブロードバンドの普及を加速させて、その利益をもっと速く実現したいと考えている。ブロードバンド使用を増やし、情報通信産業を活性化するには、ブロードバンド需要の市場動向を理解する必要がある。

ブロードバンド需要の足を引っ張っている要因には、ブロードバンドのコスト、コンテンツ、利便性、信頼性などがある。以下に、特に重要と思われるコストとコンテンツについて、前述の報告書の概要を紹介する。

コスト

現在、コストがブロードバンド需要の最大の制約要因になっている。調査会社Yankee Groupでは、2002年8月に米国ダイヤルアップ・ユーザーに対し、「ブロードバンド・ネットワークに加入しない理由」について調査した。全回答者の72%がブロードバンドの「料金が高すぎる」と応えている。多くの消費者が、ブロードバンドはぜいたくなサービスであり、毎月45〜55ドルを投資する余裕がないか、まだ投資するだけの価値がないと考えている。

このような米国消費者の感覚は、ブロードバンド料金の最近の値上がり経験が影響しているようだ。ITバブルの崩壊を受けて2000年と2001年に多数のブロードバンド・プロバイダーが倒産した。一方、生き残ったプロバイダーの91%が、競争が緩和されたこともあり、2001年以降に料金値上げに踏み切った。値上げ幅は、DSLプロバイダーが平均11.4%、ケーブル業者が平均16%である。

米国人のほぼ40%がまだインターネット・サービスに加入していない。また、Parks Associates社の2001年版の調査では、米国のダイヤルアップ・インターネット・ユーザーのほぼ75%が、現在のサービス品質に満足していると答えている。このような現状を考慮すると、米国家庭へのブロードバンドの普及には、まだ多少時間がかかりそうだ。

コンテンツ

ブロードバンド料金を無料にしたとしても、直ちに100%の人がブロードバンドを利用するとは限らない。アトランタの都心から65マイル南西にあるジョージア州ラグランジ市では、市政府とCharter Communications社が提携して、全消費者を対象に無料に近い料金でケーブル・ブロードバンド・アクセスを提供している(パソコンを持っていない人たちも、WebTVを利用可能)。このサービスが発表された1年後におけるサービス普及率は、29%すぎない。(大々的に販売促進をしていた時期は49%)。市民の見たいローカル・コンテンツの不足、読む能力の不足、及びブロードバンド・アクセスの利便性の認識不足などが、不人気の原因として挙げられている。(なお、一部のラグランジ市民は、無料のアクセス期間が終了すると、月額料金を払わなければならなくなると心配している向きもある。)

何と言っても、コンテンツと通信アプリケーションが、ブロードバンドの普及に貢献すると考えられている。猛烈に人気の高いサービスやアプリケーション、すなわち「キラー・アップリケーション」が、他の新技術でも普及を推進してきた。現在、ブロードバンドのキラー・アプリケーションとまでは言えないかもしれないが、テレワーク(在宅勤務)の人気が高い。2002年の世論調査で、Winston Groupは次の調査結果を発表している。
 米国人の54%が、テレワークが生活の質を向上させると考えている。
 66%の米国人が、テレコミューティングが、仕事と生活のバランスを改善すると考えている。
 米国人の3分の1が自宅で働けるなら、賃上げを犠牲にしてもよいと考えている。(Winston Groupの“E-work/survey results,” Jul. 2002)

オンライン・ゲームも、同様にブロードバンドの需要を牽引する見込みだ。Datamonitorでは、オンライン・ゲーマー市場が2002年の6億7000万ドルから2005年に29億ドルに成長すると予測している(Datamonitor, Aug 29, 2002)。Nielsen NetRatingsによると、2002年4月における米国のオンライン・ゲーム・サイトへのビジター数は2,800万人を超えた。X-Boxなどの新しいブロードバンド・ベースのゲーミング・コンソールに対し、消費者需要が間違いなく増えると予測されている(Nielsen NetRatings, May 22 2002)。

消費者に最も人気が高いのが、オンラインで配信される映画、音楽、ゲームなど、いわゆる「エンターテインメント」又は「双方向メディア」だ。破産したNapsterには推計3,000万人ないし7,000万人のビジターがあった。Parks Associatesが行った最近の調査によれば、米国における家庭インターネット・ユーザーの40%以上が、自宅のコンピュータにMP3ファイルをすでにダウンロードしたことがある。また、米国映画協会(Motion Picture Association of America)が委託した調査では、毎日40万〜60万本の映画フイルムが不法にダウンロードされている模様だ(Parks Associates, Mar. 26, 2002 / Viant, “The Copyright Crusade II” 2002)。音楽やビデオ・オン・デマンドのコンテンツがまだまだ増える見込みである(PriceWaterhouseCoopers, Jun. 2002)。

コンテンツ業界の健全な発達には、インターネットでの知的財産権(IPR)を保護することが不可欠だ。IPRを保護する技術的手段の開発も必要だが、明らかな法律違反を起訴するとともに、IPRを尊重する重要性について市民教育を行うことも大切だ。
(2002.10.16)
コムジン IPプロフェッショナルズ


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