ITフォーラム





【第3回】
韓国のインターネットと著作権

■音楽ソフト交換の無料仲介ウェブサイトに対し、司法が初の損害賠償責任を認める

2001年8月、MP3の音楽ファイルを無料で共有できるインターネットサイトを運営していた事業者に対して、ソウル地方裁判所より画期的な判決が出されました。ソウル地裁は、原告であるレコード製作会社の訴えを認め、著作権法違反を理由に、被告人に対して損害賠償命令を下しました。これは、ブロードバンドの普及に伴って、インターネット上で横行していた、音楽や映画の無断コピーに対して、司法が初めてその違法性を認めた判決として注目を集めました。

■著作権に対する権利意識の希薄さがブロードバンドブームを後押し

このソウル地裁の判決が出る半年前の2001年2月、いわゆる韓国版ナップスターと称される「ソリバダ(音の海)」が、韓国音盤産業協会と韓国音楽著作権協会によって、著作権法違反で告訴されました。これを受け、ソウル地方検察当局は本格的な捜査を開始、著作権法違反をほう助した理由で、ソリバダを起訴するに至りました。当時、これは社会的な議論を呼び起こし、個人利用を目的に無料で音楽ソフトをコピーすることが当たり前になっていたネット利用者からは、ソリバダを擁護する運動が沸き起こりました。
ソリバダに対する裁判は現在も係争中ですが、ソリバダ側は、音楽ソフト交換サイトの運営が営利目的でないこと、また、音楽ソフトのコピーの目的があくまで個人利用にとどまり金銭の授受がないことを理由に、損害賠償責任は発生しないと主張しています。しかし、著作権の紛争処理機関である韓国著作権審議調停委員会は、営利目的ではないからといって、それが複製権の侵害に当らないとはいえず、ソリバダの行為は複製権の濫用であり、明らかな違法行為であるとの立場を示しています。
韓国でブロードバンドが普及した背景の一つには、著作権に対する権利意識が社会全体において希薄であったために、インターネット上での音楽や映画の無断コピーを、あくまで個人の楽しみとして行うことに対して、社会全体として問題視されていなかったことが大きく関係しているといえます。
いわゆる、ピア・ツー・ピアと呼ばれるインターネット上での音楽ソフトの交換行為は、何百万人ものネットユーザがブロードバンドに常時接続できる環境が整って初めて成り立ちます。ソリバダ裁判が社会問題として議論を呼び、裁判の行方に注目が集まるのは、常時接続でブロードバンドにアクセスできる環境が広く普及していることを、逆に証明しているといえる一つのケースといえそうです。

■著作権審議調停委員会と裁判所の違い

韓国では、著作権侵害が生じた場合、著作権審議調停委員会、または、裁判所の、いずれにも訴えることができます。
著作権審議委員会とは、著作権法に基づいて設置された、文化観光部傘下にある、著作権の紛争処理を行う専門機関です。著作権侵害に対する申し立てが出されると、詳細な調査を行った上で、紛争当事者に対して、勧告を提示します。この勧告には、著作権に対する具体的な著作権料が示され、当事者がこれに合意し、署名をした時点で解決に至ります。
著作権審議調停委員会に訴えるメリットとしては、手続き費用が数万円から数十万円と、裁判費用に比べ非常に安いこと、著作権の専門機関であるため、紛争処理が迅速であること、などが挙げられます。デメリットとしては、提示された勧告が、法的効力を有するとはいえ、あくまで勧告であるため、強制力がない点です。そのため、当事者間の話合いが決裂し、解決に至らないケースが多いことが挙げられます。
一方、裁判所は、著作権審議調停委員会と比較すると、裁判費用が高い、訴えを申し立ててから判決が下されるまで時間がかかる、知的財産権に関する専門家が少ない、といったデメリットが挙げられています。
また、著作権審議調停委員会と裁判所との間では、情報の共有といった双方の連携はなく、それぞれが独自に調査を行い、紛争解決にあたっているのが、実状のようです。
ちなみに、コンテンツホルダーである著作権団体の多くは、著作権審議調停委員会の下す勧告が、自らに対して不利な場合が多いため、裁判所に訴えるケースが多いといわれています。

■著作権紛争処理機関に申し立てられる事案の多くは美術分野

2001年度に著作権審議調停委員会に申し立てられた、著作権侵害に関する紛争件数は、国内の著作物が67件、海外の著作物が13件となっています。
国内の著作物に関する紛争67件のうち、解決した事案が20件、未解決の事案が17件、却下された事案が2件、係争中の事案が27件で、解決に至ったのは約3割と低いのが実状です。また、インターネットに関係した紛争は5件にとどまっていますが、ほとんど未解決となっています。音楽著作権協会が、著作権審議調停委員会に申出た、MP3の音楽交換ソフトに関する紛争は、解決に至りませんでした。
紛争が多い分野は美術で、美術作品のキャラクター化に関する紛争が最も多くなっています。一方、映像著作物や著作隣接権は、放送局や制作者が権利を持っている場合が多いため、これらに関する紛争が少ないのが実情です。

■ソフトの円滑な流通か、それとも、権利の分散化か

韓国では、一般的に、実演家の権利が弱いと言われています。これは、番組流通の促進を目的としているためです。そのため、実演家の放送局に対する立場は弱く、放送著作物に関する権利は、全て放送局が持っている場合がほとんどです。加えて、放送局が、自局内に著作権チームを設置し、そこで当事者間で紛争を調停するケースが多いので、著作権審議調停委員会に、映像や放送の著作物に関して、申し立てが出されるケースが少ないというわけです。従って、放送局が行うインターネット放送に関して、著作権問題が発生したとしても、放送局と権利者との間の話し合いによる解決が一般的のようです。しかし、最近では、著作権に対する権利意識の高まりから、作家協会、実演家団体、音盤産業協会など、各種権利ホルダーに配慮した制度枠組み(地上波のテレビドラマをインターネットで再放送する際の作家料の制定など)が整備されつつあります。
なお、映像や放送の著作物に関する権利の全てを、放送局が持っている今の状況は、番組制作プロダクションの制作能力の向上を疎外している要因の一つであるとし、最近、著作物の権利の分散化が進められています。ただし、このような権利の分散化は、映像ソフトの円滑な流通を疎外する危険性をはらんでいます。権利者を保護し、かつ、映像ソフトの円滑な流通を実現する、という難しい問題に対して、どのように対処してゆくのか、韓国の今後の動向が注目されるところです。

■韓国製コンテンツの海外進出と、国内の著作権問題の解決は、表裏一体

韓国は、現在、国内コンテンツ産業の育成と、その国際競争力の強化を、国を挙げて推進しています。今後、海外マーケットに進出してゆく際に、自らのコンテンツに対する著作権を主張していくためには、まず、国内で生じている著作権問題を解決することが急務であり、加えて、現行著作権法の全面改定(オンライン上の著作権を包括的に扱うデジタル著作権法など)が急がれているところです。
(2002.9.19)
国際通信経済研究所 上席研究員 飯塚留美


戻る



月刊誌スタイルで楽しめる『COMZINE』は、暮らしを支える身近なITや、人生を豊かにするヒントが詰まっています。

Copyright © NTT COMWARE CORPORATION 2003-2015

[サイトご利用条件]  [NTTコムウェアのサイトへ]