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米国のブロードバンド事情(2)
〜企業向けブロードバンド〜
◆米国ビジネス・ブロードバンド市場の概観
ブロードバンドの主なビジネスモデルに、企業向け「データ通信」とエンターテインメント(ビデオ配信が中心)の2つがある。先月号で述べたように、米国でもADSLが急成長している。住宅用市場では、CATVの普及が進んでいることもあって、アクセス料金の比較的安いケーブルモデムが、ブロードバンド全体(6月末時点で約1,350万加入)の65%を占めている。一方、ビジネス市場では、ダウンロードだけでなく、アップロードも多いため、SDSLの需要が多い。本稿では、米国におけるビジネス向けブロードバンド市場を中心に紹介する。
サービス種類別ブロードバンド・アクセスの平均料金(米国、2001年)
サービス | 月額使用料 | 初期料金 | 通信速度 ダウンストリーム | 通信速度 アップストリーム | ADSL(住宅用) | 40-50ドル | 100-250ドル | 384Kbps-9Mbps | 128Kbps-512Kbps | ADSL(事務用) | 80-250ドル | 100-250ドル | 384Kbps-9Mbps | 246Kbps-512Kbps | SDSL | 80-320ドル | 100-250ドル | 1.5Mbps-2.4Mbps | 1.5Mbps-2.4Mbps | ケーブルモデム | 25-60ドル | 75-200ドル | 1Mbps-2Mbps | 128Kbps-512Kbps | MMDS(注) | 75-300ドル | 150-250ドル | 128Kbps-512Kbps | 128Kbps | VSAT | 30ドル(25時間) 50ドル(常時接続) | 200ドル | 400Kbps-500Kbps | 56Kbps-128Kbps | (注)MMDS: Microwave Multi-point Distribution System
出所: Frost & Sullivan等
米国ビジネス・データ市場向けに様々なブロードバンド・アクセス・サービスが提供されている。企業のブロードバンド・トラヒックは、ほとんどがDSL、T1/T3回線、ISDN回線で運ばれている。また、これらのブロードバンド回線の提供者(通信事業者)間で熾烈な競争が展開されている。
◆米国におけるビジネス向けブロードバンド技術の種類別シェア
米国では、2000年頃までブロードバンドの定義にISDN(128kbps)が含まれていた。しかし、ADSLやケーブルモデムの出現によって、この下限が上昇している。現在、米国議会で審議中の法案やFCC報告書等では、「375 Kbps」以上をブロードバンドと定義しているものが多い。本稿では、ブロードバンド技術のシェアの推移を調べるため、ISDNをブロードバンドに含めた。
ブロードバンドの種類 | 2001年 (実績) | 2004年 (予測) |
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ADSL | 13 | 20 | SDSL | 13 | 25 | ケーブルモデム | 16 | 19 | ブロードバンド・ワイヤレスアクセス | 2 | 2 | TI (1.544 Mbps) | 14 | 11 | T3 (44.736 Mbps) | 2 | 3 | 衛星回線 | 5 | 5 | ISDN | 35 | 15 | 合計(%) | 100% | 100% | 出所:FCC統計等
ISDN回線が、ブロードバンド・データ通信市場で2001年にまだ首位(市場シェア35%)を占めていたが、そのシェアは急速に低下している。ブロードバンドの中でも、ADSLとSDSLが有望な技術になっている。特に、対称方式(SDSL, G.SHDSL)は、ISDN回線より高速で大量のデータを伝送できるため、市場シェアが来年(2003年)には20%強に達する見込だ。また、DSL合計(ADSL+SDSL)の市場シェアも急上昇しており、2002年末に31%強、2003年に40%強、2004年には45%に達する見込みだ。
現在、米国でブロードバンド回線に接続されているビジネス・ユーザー数は約450万加入。米国の総ビジネス・ユーザー数が1,400万強であり、ブロードバンド普及率はほぼ3分の1にすぎない。従って、この市場はまだまだ成長の余地がある。また、ブロードバンド普及率は、大規模企業市場では高いが、遠隔地、ホームオフィス、中小企業市場ではまだかなり低い。このため、米国の地域電話会社では、これらの市場セグメントを狙ってDSLを積極的に売り込んでいる。SUPERCOMM 2002でも、「ビジネス向けブロードバンド(Broadband for Business)」セミナーの人気が高かった。
◆ブロードバンド・ビジネス市場の競争状況
この市場では、大きな収入が期待されており、多数の競争企業が参入している。ITバブルの崩壊に伴い、多数のCLEC(競争地域電話会社)が倒産した。しかし、現在のIT不況下でも、400社ものサービス・プロバイダーがまだ生き残っている。
ILEC(既存地域電話会社)とIXC(長距離通信会社)が、早くブロードバンド事業をスタートさせたこともあって、有利に市場展開をしている。米国FCCでは、DSLを通信サービスから「情報サービス」に定義を変更しようとしている。これが実現すると、ILECの市場支配がさらに高まる見込みだ。
CLEC(競争地域通信会社)は、主としてビジネス市場で事業を展開している。なぜなら、この市場では1ユーザー当たり収入単金が高いからだ。通信会社では、これまでに築いてきた既存の顧客とのビジネス関係を活かして、既設サービスからブロードバンドへの乗換えを積極的に勧奨している。
ブロードバンド・ビジネス市場は現在、これまで以上に開放的になっている。ADSL, SDSL, ケーブルモデム、ブロードバンド・ワイヤレス・アクセス(BWA)、TI/T3回線、衛星回線等の提供業者が、熾烈な競争を展開している。また、市場では企業統合が着実に進んでおり、市場参加者(通信事業者)数が将来さらに減少する見込みである。
米国の通信事業者別ブロードバンド回線数(片方向200 Kbps超)
(2001年12月31日現在)
回線種別 | 回線数 |
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RBOC | その他のILEC | CLEC | 合計 |
---|
ADSL | 3,567 | 273 | 108 | 3,948 | その他の有線回線 | 776 | 117 | 186 | 1,078 | 同軸ケーブル | * | * | 7034 | 7,060 | その他 | * | * | 652 | 707 | 合計 | 4,408 | 403 | 7,981 | 12,793 | 注)*非公開。合計回線数は非公開回線数を含めた合計。
出所:FCC: High-Speed Services for Internet Access
◆ビジネス市場で利用されているブロードバンド回線
以下は、企業規模別に主として使用されているブロードバンドをまとめた表である。
| SOHO/ 零細企業 | 小企業 | 中企業 | 大企業 |
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ケーブルモデム | ○ | ○ | | | ADSL | ○ | ○ | ○ | | SDSL | ○ | ○ | ○ | | BWA(ブロードバンド・ワイヤレス・アクセス) | ○ | ○ | ○ | ○ | TI (1.544 Mbps) | | ○ | ○ | ○ | T3 (44.736 Mbps) | | | | ○ |
◆大企業(従業員250人以上)
大企業とその出先機関の90%以上がブロードバンドを使用しているが、回線数ではT1回線が圧倒的に多い。また、大都市では光ファイバ事業者が、この大企業市場に重点的に取り組んでいる。
◆中企業 (従業員50-249人)
都心部の中規模事業所がDSLの導入を進めており、既設のT1専用線はDSLの厳しい価格競争に直面している。専用線料金は値下がり傾向にあるが、高速専用線T3はまだ料金が高すぎるため、中小企業ではほとんど利用していない。
◆小企業 (従業員10-49人)
サービス部門の成長により、小規模事業者がブロードバンドの重要なユーザーになっている。最近、小規模事業所がデータやリッチコンテントの生産を増やしており、SDSLの新しいニーズが発生している。DSLはかなり高速だし、料金も低廉なため、ISDNからの乗換えが多い。DSL機器の価格がさらに値下りすれば、今後数年間にDSLサービス需要がさらに増大する見通しである。
◆零細企業/ホームオフィス(従業員1-9人)
この市場セグメントは、米国経済成長の重要な原動力になっている。民間部門労働人口の51%、ハイテク分野の労働人口の38%、また自営労働人口の100%が、この市場セグメントで働いている。最近、ブロードバンドが増収と生産性向上の重要な手段になっている。零細企業は、T1回線やケーブルモデムを利用できないことが多いが、最近、ADSL/SDSLのほかに、Paradyne社の"Reach"、BWA(ブロードバンド・ワイヤレス・アクセス)、衛星技術を利用したDSLが、この市場の重要な牽引力になりつつある。
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