携帯電話のコマーシャルに、娘がテレビ電話で「千六本」の意味を母親に尋ねる、というシーンがあった。最近、料理は好きだけれど、料理本に書いてある用語の意味が分からない人が増えているそうだ。ベターホーム協会の調査によると「千六本」の意味が分かった人はわずか6%だったと言う(※)。
千六本とは、料理用語で大根を千切りにすること。1006本だから、さぞかし細いのだろうと思いがちだが、これは勘違い。昔、中国では大根を「蘿葡(ろふ)」と呼び、これを細かく切ることを「繊蘿葡(せんろふ)」と言っていた。この言葉が日本に入ってきて、「せんろふ」「せんろうぽ」「せんろっぽん」と変化したのだ。
「千六本」は中国から伝わった言葉だが、日本の料理にも故事来歴や産地名にちなんだ料理名がある。例えば、「信田(しのだ)」「利久」「有馬」。
信田卵、信田巻、いわしの利久焼き、茄子の利久煮。そして、サンマの有馬煮といった料理があり、それぞれに共通して使われる食材があるのだが、ご存じだろうか?
では、答えを。「信田」は油揚げを使った料理で、これは大阪府和泉市・信田の森での猟師とキツネの説話(後に浄瑠璃、歌舞伎にもなる)に基づいている。
「利久」は茶道の千利休のこと。信楽茶碗で長石のはぜた跡がごま粒に見えるものがあるが、この景色を「胡麻」と言う。ここから、胡麻→茶碗→利休となり、ごまを使った料理に「利久」という名前が使われるようになった。
そして「有馬」は実山椒を使う料理のこと。兵庫県・有馬が山椒の産地であったことから、この名前が付いた。
このほか、能にちなんだ「松風」=ケシの実など、先人達は料理の名前一つにも風雅な趣向を凝らしてきた。そんな文化的背景を知ると、料理がもっと美味しくなる?!
※2003年3月、札幌・東京・名古屋・大阪・福岡の同協会の料理教室に通う女性323人(20代:77%、30代23%)に調査した結果。
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