そこで、指紋をはじめとする身体的特徴ならば、忘れたり紛失したりすることがなくしかも記憶忘れもあり得ない。ということで、究極の個人認証手段として実用化が進んでいるのが生体認証だ。生体認証に使われる身体的特徴としては、すべての人が持つ特徴であること、特徴の内容が同じである他人がいないこと、特徴の内容が時間によって変化しないことが条件となる。この条件を満たす生体情報としては、指紋、虹彩、静脈などすでに実用化が進んでいる手法以外に、顔や声紋さらにはDNAなどが研究されている。しかし顔や声紋は現在の技術では個人の正確な特定は難しく、またDNAは極めて正確に特定できるが、その判定に時間がかかるなどの理由によって、指紋、虹彩、静脈という3種類が現在の生体認証の主力となっている。
この3種類のうちで、最も馴染みが深いのが指紋である。地球上に同じ指紋を持つ人がいる可能性は870億分の1とも言われており、古くは紀元前6千年頃から古代アッシリアや中国では指紋を使って個人認証が行われていたという記録がある。このように指紋が古くから生体認証に使われていた最大の理由は、身体の表面にある個人固有の特徴であるということだ。警察の犯罪捜査もこの特徴を利用したもので、指で触った痕跡としての指紋によって個人を特定する。しかし、指紋は身体の表面にあるだけに、外傷による変化の可能性は常にある。更に警察の捜査などでも明らかなように、指紋は紙にプリントすることが可能だ。つまり複製を作ってこれを認証させることも可能であり、この危険性についてはすでに周知の事実となっている。そのため、指紋の全体画像を読み取るのではなく、特徴点をいくつか抽出し、登録情報をデータ化して照合するなどの手法によってデータ精度を高めている。
指紋を代表とする接触型の生体認証に対して、基本的に身体に触れずに認証が行えるのが非接触型の生体認証で、虹彩認証や静脈認証がこれに当たる。非接触型のメリットは、身体の内部の特徴を検知するので、外傷の影響を受けることなく、汚れや湿度といった外的環境にも影響されにくい点だ。
入退室管理などで指紋認証がかなり普及しながらも、銀行のATMなどにこれが採用されなかったのは、外傷や操作環境の影響を受けやすいことが要因とされる。ある人が自分の指紋の登録操作を行った後に手洗いに行き、帰ってきたら本人とは認証されなかったという話もあり、「こと実用化という意味では、認識精度の向上と操作環境を選ばない安定認証が不可欠」というのが静脈認証を推進する中西潤氏(日立製作所
情報・通信グループ セキュリティ事業部 ユビキタスセキュリティ本部 指静脈認証ユニットビジネス部長代理)の指摘だ。 |