ナビゲーションを読み飛ばすにはここでエンターキーを押してください。
一覧に戻る
COMZINE BACK NUMBER
新IT大捜査線 特命捜査 第33号 自分の問題意識にあった新書を探す「自分自身の興味と対話する新書ナビゲーター」
 
  問題意識を適切に反映する「テーマ」
 
新書マップ「トップページ」

「新書マップ」は「風」という新書についてのポータルサイトの中にある。中央にある検索窓に、文章を入れて、「検索する」をクリック。

新書マップ「テーマの円表示」

検索すると円の中に、関連性の高いテーマが10個表示される。

テーマ内リスト表示

テーマの中から1つ選んで、クリックすると、そのテーマに該当する新書のリストが表示される。

個別の新書案内

新書のリストからタイトルを選ぶと、表紙の写真、内容紹介と目次が表示される。

読書ガイド

それぞれのテーマには、「読書ガイド」が掲載されており、その分野についての指針が示されている。

新書マップ」は、各社の新書約1万1000冊以上を、任意の“言葉”で検索し、自分の関心や興味にフィットした新書に行き着くためのサイトだ。「連想検索エンジン」という独特のエンジンを使い、いわゆる「キーワード検索」では探せない本に辿り着くことができる。従来のWeb検索にはない画期的な手法により、日本のみならず海外からも注目のサイトだ。同サイトを運営する、特定非営利活動法人連想出版理事長の高野明彦さんを訪ね、お話を聞いた。
高野さんは、国立情報学研究所連想情報学研究開発センター長、東京大学大学院情報理工学系研究科教授を兼任しており、「新書マップ」はその研究成果を具現化したものの一つだ。

「新書マップ」についてレポートする前に、まずはWeb検索について、簡単に説明しておこう。現在、多くの人がWebを検索するときに行っているのは、キーワード、つまり単語によるもので、例えば「テレビ」と検索すると、「テレビ」という単語を含むサイトが検索結果として表示される。これがいわゆる「キーワード検索」と呼ばれるもの。複数の単語を入力すれば、その全てが含まれるand検索となる。一方、連想検索では、「テレビ」という用語について、「テレビとは」なのか、「テレビを」なのか、あるいは「テレビは」なのか、「テレビ」が含まれる文脈を考え、関連すると思われる「テレビとは何か」とか、「マスメディア」「メディアリテラシー」といったものを含めて、検索結果として表示するもの。ユーザは、自身の興味の対象を精査することができ、より適格な情報にアプローチすることができる。連想検索の仕組みについては、あとで紹介する。まずは、実際にサイトで検索をしてみるのが、一番イメージをつかみやすいかもしれない。

それでは、この連想検索を使った「新書マップ」の検索の流れを見ていこう。
1)「新書マップ」は、「風」というWebマガジンの中にあり、同サイトは新書についてのポータルサイトになっている。出版各社の新書の編集長へのインタビューや売れ筋ランキング、最新情報なども入手できるようになっている。検索したい事柄を「新書マップ」の検索窓に書き込み、「検索する」をクリック。書き込む言葉は、単語に限らず、文章でも、長文でもよい。
2)「新書マップ」の本体である、別ウィンドウが起動し、入力した言葉に最も近いと思われる10のテーマが円の中に表示され、円の外には関連するキーワードが表示される。
3)円の中のテーマから、自分が興味を持ったテーマを選び、クリックすると、そのテーマに分類されている新書のタイトル、著者名、出版社などがリスト表示される。
4)円の中のテーマではなく、円の外のキーワードが自分の目的に近いと思えば、それをクリックすると、再度検索し、新しい10のテーマが円の中に表示される。
5)テーマが該当するものであれば、各新書のタイトルをクリックすれば、内容の概略と目次が表示される。また、各テーマにはそれぞれ「読書ガイド」が掲載されており、そのテーマの全体像を知ることができる。

以上が「新書マップ」の使い方だが、ユニークなのは、その「テーマ」だ。
「テレビ」に関連するテーマは、「テレビとは何か」「テレビの見方」「ワイドショー」「テレビゲーム」「ニュースキャスター」「テレビとジャーナリズム」「政治家とメディア」などがあり、その他にも「メディア・リテラシー」「ジャーナリズム」「情報戦争」など、「テレビ」という文言から想定されうるユニークなテーマが提示される。
高野さんによると、テーマの数は1040個あり、その設定は信頼できる有識者、延べ80人以上にお願いして、2年がかりで作成したもの。このテーマが「『新書マップ』の最大のノウハウ」なのだと言う。
「適当に数だけ揃えたのではなく、本を実際に書いている人や新聞記者などにお願いして、本当に有効なテーマを考えてもらいました。ですから、『いい男』はあっても『いい女』はなかったり、代わりに『悪女』や『アメリカの女性』はあるというように、それぞれがユニークで、意味のあるテーマ設定ができました」。
このテーマに新書を分類し、検索するところが、「新書マップ」の最も面白い部分なのだ。
「新書マップ」がスタートしたのは、2004年6月。毎月刊行される120冊ほどの新刊の中から、7〜8割の新書が追加され、テーマ別に分類される。フィットするテーマがなければ、新しいテーマが追加される。これらの作業は選書委員と連想出版スタッフによって行われている。

 
 
 
  新書は現代の知を象徴する「入り口」
 
連想出版「高野明彦さん」

連想出版理事長の高野明彦さん。国立情報学研究所連想情報学研究開発センター長、東京大学大学院情報理工学系研究科教授でもある。

高野さんがなぜ「新書マップ」を作ろうと思ったのか、なぜ新書なのか、その理由について尋ねた。
「活字離れが顕著になり、出版業界自体に元気がありません。出版点数自体はそれほど減っていませんが、売れ行きは思わしくない。そんな中で、本の世界を何とか応援したいという思いがありました。ベストセラーなどの売れる本だけが書店に並んで、多くの本は一週間もしないうちに倉庫に戻ってしまう。出版物が持っていた文化的機能をサポートし、知識欲にあふれた人がきちんと、求める本に辿り着けるようにしたいと思ったのです」
「新書マップ」以前に、高野さんがセンター長を務める、国立情報学研究所には「Webcat Plus」という書籍の検索システムがある。これは、図書・雑誌1436万429件を収録した巨大なデータベースだ。タイトルや著者名が分かっている人には、容易に書籍や雑誌を検索できるシステムで、明治以前に発行された図書まで網羅している。
「新書マップ」はその中から「新書」というジャンルだけを取り出し、内容まで含めて検索できるようにし、利用者の興味・関心にフィットするサービスを提供しようと考えた。


webcat plus

「Webcat Plus」は、図書・雑誌14,360,429件を収録した巨大なデータベースで、連想検索で最適な図書を検索することができる。

「新書は、実は形が同じという以外には、定義というものがなく、世の中の知識を広く浅くカバーしているものなのです。学術書などに比べれば、内容は薄いですが、一般の人が問題意識を持つ最初のとっかかりとして、きちんとした知識を得るには最適のツールといえます。新書を読んで、更に興味を持ったら、そこで得た知識を手がかりにして、単行本などを調べれば良いのです。新書はそういう『知の入り口』として、非常に優れていると思います。一方で、それぞれの出版社で新書の概念も異なり、これまでは横断的に調べることが難しかった。この入り口探しを電子的に助けることができるのならという思いで『新書マップ』を作ったわけです」

 
 
 
  強力だが、範囲の限られる現在のキーワード検索
 
関連するテーマが光る

新書マップでは、円の外のキーワードにカーソルを乗せると、関連性の高いテーマが光り、クリックすると、テーマを選び直す。

一般に、ネットでの検索というと、Googleに代表されるキーワード検索を思い浮かべる。キーワードを入力し検索すると、世界中のサイトを検索し、該当するサイトを返してくれる…ように見える。だが、実際は最新の情報ではなかったり、「すべて」ではなかったりする。それは一瞬にして、現時点の全世界のWebサイトを検索することは不可能だからだ。毎日必ずサーチするサイトもあれば、数ヶ月に一度、あるいは過去一度だけしかサーチしていないサイトもあるのが実情だが、検索エンジンは、それらのサイトのインデックスを検索エンジンの中に持っていて、検索の際には、そのインデックスを検索し、検索結果を返しているのだ。
だが、我々は既にそうしたキーワード検索が、世界のすべてのような錯覚を覚え始めている。
「キーワード検索は確かに強力で便利なのですが、それで検索されたことが自分の問題意識の網にかかった全情報だと思いがちです。ですが、本当はもっと適した情報が隠れているかもしれないのです。キーワード検索はサーチライトのように強力だが、照らす範囲は、想像以上に狭いのです」
これは、少し考えさせられることだ。
「新書マップ」を検索すると、キーワード検索で検索したときとは、違う感覚を覚える。キーワード検索の結果は「あなたの探しているものはこれです。これ以外にはありません」という感覚で検索結果を返してくるが、「新書マップ」では、「あなたの探しているのは、これですか。それともこっちですか」と問いかけられている感覚だ。
「正にそれが、我々が狙ったところなのです。問いかけに対して、答えを限定しない。目的の本があって、書店に行っても、それだけを買って帰るわけではないですよね。寄り道をして、他のコーナーで立ち読みをしたり、目的の本の横にあった別の新刊を一緒に買ってしまったり…。それが書店に行くことの楽しみの一つだと思います。そうした感覚で、『新書マップ』との対話を楽しんでもらえれば、うれしいですね」
自分が漠然と持っている調べてみたいテーマ。ニュースで聞いて、もっと詳しく知りたいと思ったこと。そういうことがあるなら、まず、「新書マップ」で検索してみてほしいと高野さんはいう。

 
 
 
  連想検索のポイントは「文脈」の判断
 
連想検索とキーワード検索の違い

連想検索とキーワード検索の違い。連想検索では、複数の単語により、より関連性の高いテーマを探すことができる。

「新書マップ」で使われている検索方法は、一般の「キーワード検索」とは異なり、まず入力された自然言語を単語に分解し、それぞれの言葉が対象となる新書のデータベースで何度使われているかを調べ、その頻度によって「近さ」を分析。近いものから表示するようになっている。こうすることによって、言葉の完全一致で厳格に検索するのではなく、「柔らかく検索」することができる。これが「連想検索」だ。
「キーワードで検索しても、それがどのように使われているのかはその単語だけでは分からないですよね。やはり『文脈』で判断しなくてはならない。そのために、入力した文章を複数の言葉に分解し、その使用頻度によって『文脈』に近いものを『連想』させ、対象を抽出するわけです。ただし、言語学的知見や機械翻訳などは使っていません。同義語の扱いや概念カテゴリーでの抽象化なども可能ですが、どうしても作った人の意図や作為が反映されてしまう。ですから、我々はあくまでも単語の出現頻度だけで判断するようにしています」
数字的に連想検索を行い、その結果に対して、利用者の意図を反映させていけば、結果的にはそれぞれの人にとって、最適の検索結果になるのだ。利用者の「文脈」を柔らかくつないでいく「検索」。それが「連想検索」だ。
高野さんは、この「連想検索」によって、電子空間を「思考」することのできる場所にできるのではないかと考えている。その試みの一つが「新書マップ」なのだ。

 
 
 
  本好きだからこそ、こだわった背表紙の写真
 
テーマの本棚

新書マップにはテーマごとに、関連した新書を集めた書棚を見ることができる。

新書マップのバーチャルな書棚を前に

バーチャルな書棚を前に、まんざらでもない表情の高野さん。

「新書マップ」が目を引く点の一つに、新書の写真がある。それも表紙の写真だけでなく、背表紙が複数冊同時に撮影された写真だ。
「これが僕が一番こだわった部分です。スタッフにはすごく嫌がられたのですけど(笑)」
新書は、一般的に表紙が非常にシンプルだ。違いといえば、タイトルと帯くらいで、多くの場合、購入者の多くは、背のタイトルを見て手に取るかどうかを決める。新書にとって背は顔にあたるといっても過言ではない。
そんな背表紙だからこそ、高野さんはどうしても写真にして掲載したかったのだという。
「本好きの人は、よく『書店の棚で背表紙が光って見えた』なんてことを言いますよね。そういう感覚を僕は大切にしたかったのです」
本屋巡りが大好きだという高野さんらしいこだわりが垣間見える。
「こういう棚はどこの本屋さんに行ってもないでしょう」。高野さんはそういって、新書が横に並んだページを横スクロールして見せてくれた。それはもう研究者というよりは、正に「本の虫」の顔だった。

横に長いバーチャルな本棚

テーマを32に分類した「書棚で見るテーマ一覧」では、関連する新書をずらりと並べた横に長い棚を表示する。

 
 
 
  連想検索は人間の思考に近づく
 
想−IMAGINE Book Search

「IMAGINE」は、複数のサイトを横断的に検索し、利用者の思考や行動をサポートしてくれるITサービス。

連想出版では、「新書マップ」の他に、連想検索を利用したさまざまなサイトを展開している。神保町の古書店180店、古書37万冊を連想検索する「BookTownじんぼう」、いろいろな病気の体験記(書籍)のデータベース「闘病記ライブラリー」、博物館・美術館の収蔵品7000点の連想検索「文化遺産オンライン」(運営:文化庁、総務省)など。更にこうしたサイトに加え、Web上の有用なサイトの協力を得て、それらのサイトを横断的に検索する「想−IMAGINE Book Search」以下、「IMAGINE」というサイトも運営している。
この「IMAGINE」がユニークなのは、「Book Search」といいながら、書籍だけではなく、美術館や博物館、旅行、Web百科事典までを検索してくれることだ。
その検索のキーになっているのが、「新書マップ」で作成した「テーマ」だ。つまり「新書マップ」のテーマは「新書の分類」であると同時に、「人間の興味・関心の分類」でもあるということ。
人間が設定したテーマと連想検索を融合することによって、それぞれのサイトで関連性の深いテーマを検索し、それをあたかも本棚のように、整然と並べて見せてくれる。膨大な情報を一律に並べてしまうのではなく、ジャンルを分けて検索することの面白さ。それが利用者の思考や行動の補助となるように設計されている。このような検索結果をみると、将来的に連想検索は人間の思考に限りなく近づいていくように見える。
「単に、検索結果を返すだけではなく、それがまた人間の脳を刺激して、脳内に新たな情報を呼び起こす。そういう相互関係が重要だと思います」
「IMAGINE」は、Web上で使用できるだけでなく、試験的に一部書店や神保町の喫茶店などへの導入も始まっている。知のナビゲーターとしての今後にも期待される。
キーワード検索が全盛で、検索といえばキーワード検索で十分と思われている時代に、「IMAGINE」は、検索の新たな地平を見せてくれる画期的サービスといえるだろう。
「新書マップ」は、正にその「新しい検索」=「思考する検索」の「入り口」なのだ。

 

取材協力:連想出版(http://rensou.info/

 
 
坂本 剛 0007 D.O.B 1971.10.28
調査報告書 ファイルナンバー 第33号 自分の問題意識にあった新書を探す「自分自身の興味と対話する新書ナビゲーター」
イラスト/小湊好治 Top of the page

月刊誌スタイルで楽しめる『COMZINE』は、暮らしを支える身近なITや、人生を豊かにするヒントが詰まっています。

Copyright © NTT COMWARE CORPORATION 2003-2015

[サイトご利用条件]  [NTTコムウェアのサイトへ]