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新IT大捜査線 特命捜査 第35号 携帯電話を利用した個人向け通報システム「いざ、という時はケータイをワンプッシュ!」
 
  何かあっても場所さえ分かれば助けに行ける
 
福田さん

綜合警備保証株式会社 開発企画部 ソリューション室 課長代理 福田健太郎さん。

久保寺さん

綜合警備保証株式会社 ホームマーケット営業部 ホームマーケット営業課 係長 久保寺哲弥さん。

「物騒な世の中になったなあ。うちの子は大丈夫だろうか」──テレビや新聞で子供が被害者になった事件を目にする度にそう思う。子供の安全はすべての親にとって共通の願い。誰もが我が子を危険な目に遭わせたくない、いつも無事でいてほしいと祈っている。
特に気がかりなのは、親の目が届かなくなる就学児童だ。学校や地域社会を中心とした防犯活動は進んでいるが、それでも子供が犯罪被害に巻き込まれるケースが後を絶たない。
『平成20年版青少年白書』によると、2007年中に少年(20歳未満)が被害者となった刑法犯の認知件数は約30万5000件にも及ぶ。01年をピークに高校生と中学生の被害件数は縮小傾向にあるが、小学生の被害件数は約2万件で、過去10年間ほとんど変わっていない。
罪種別では「略取・誘拐」(66%)、「強制わいせつ」(51.9%)、「公然わいせつ」(48.6%)に少年被害が多発しており、略取・誘拐では少年の中でも小学生が最も多く被害に遭っている(警察庁『平成20年上半期の犯罪情勢』より)。

子供を犯罪から守るために、親は何をすべきだろう? 基本的な防犯教育が必要なのはもちろんだが、親の目が届かない場所で子供を危険から守るには、ブザーやスプレーなどの防犯グッズが欠かせない。なかでもここ数年利用者が増えているのが、警備会社が販売する“携帯端末を利用した屋外セキュリティサービス”だ。そこではITが活用され、さまざまな防犯効果を生んでいるという。子供の安全を守るために、ITはどのような形で役に立っているのか。今回は綜合警備保障株式会社(以下ALSOK)を訪ねて、開発企画部の福田健太郎さんとホームマーケット営業部の久保寺哲弥さんにお話を伺った。

ALSOKが最初に手掛けた屋外セキュリティサービスは、2003年3月から販売している「あんしんメイト」。小型の専用端末を使用するサービスで、技術的にはGPS及び携帯電話の基地局を利用した位置情報と、携帯電話会社のパケット通信がベースになっている。
GPSと基地局を活用したサービスが、携帯電話やパソコンから端末利用者、つまり子供の現在位置を確認出来る「位置情報検索サービス」。これにより、親はどこからでも子供の居場所を確認することが出来る。またパケット通信で実現しているのは、側面のボタンを押すだけでALSOKへ24時間365日連絡出来る「コールサービス」と、既定のメッセージを登録済みの宛先へ送信出来る「メールサービス」。端末自体に通話機能はないが、不審な人物が近付いてきたら、子供は自らSOSを発信することが出来るわけだ。
サービスのポイントは、子供の居場所を特定することと、SOSをキャッチすること。子供に何かあっても、場所さえ分かれば大人が助けに行ける。ITはこの2点で大きな役割を果たしているのである。

あんしんメイト

多機能と使いやすさで支持された「あんしんメイト」。大きさは折りたたみ式の携帯電話とほぼ同じ。

「『あんしんメイト』は、学校や塾・習い事に通う子供、仕事帰りの女性、高齢者が、不審者に襲われそうになった時や急に気分が悪くなった時に利用するサービスとして開発しました。利用者からの通報を受けたら、当社は事前登録先(親の携帯電話や自宅の電話など)へ連絡し、状況を説明します。状況次第では警察へ通報することもありますし、要請があればガードマンを現場へ出動させることも出来ます」と福田さんは説明する。
同種のサービスは、位置情報の確認に限定した形で他社が先行販売していた。だが利用者が危険な状況に直面しても、その事実を第三者に伝えられなければ救助は期待出来ない。ALSOKは通報機能が必須だと考え、「あんしんメイト」に付与した。現在は他社サービスにも通報機能が加わり、「あんしんメイト」とほぼ同様の内容になっている。

「『あんしんメイト』は多彩なサービスが人気を集め、後発ながら多数のお客様に契約していただきました。利用者の半分は小学生で、残りは小学生以外の就学児童と高齢者がほとんどです。既に携帯電話を持っているせいか、女性の利用比率は意外に低いですね」と久保寺さん。
この「あんしんメイト」、実は今年3月末でサービスが終了する。それに代わる形で昨年10月に登場したのが、今回の調査テーマでもある携帯電話を利用した新しいセキュリティサービスだ。さて、どこがどう変わったのだろう。

 
 
 
  携帯電話のGPS機能を利用し、警備会社ならではのサービスを提供
 
通報完了画面

「まもるっく」はNTTドコモとauのGPS機能を搭載する携帯電話で利用出来る。インフラの関係から、今のところソフトバンクは未対応。(2009年3月現在)

通報イラスト

「通報連絡機能」のイメージ図。緊急連絡先は3ヵ所まで登録出来る。

ガードセンター

ALSOKのガードセンター。利用者からの通報はここで処理される。

駆けつけイラスト

「駆けつけ」のイメージ図。出動要請は本人からでも他の登録者からでも構わない。

出動するガードマン

ガードマンの出動は警備会社にしか出来ないサービスだ。

新サービスの商品名は「まもるっく」。手持ちのGPS機能付き携帯電話にALSOKならではのセキュリティを後からプラスするサービスだ。携帯電話にGPS機能があれば利用者の位置情報を特定出来るから、ハード的には専用端末と何ら変わりはない。通報システムを始めとする各種のサービスはアプリケーションの形で提供し、必要に応じて自動的に起動する仕組みだ。現在のところ、NTTドコモとauのGPS機能を搭載した携帯電話であれば、「まもるっく」は機種を問わずに利用することが出来る。

福田さんは、専用端末から携帯電話を使う形に変えた理由をこう語る。
「最大の理由は、携帯電話を持っている小学生が大幅に増えたからです。『あんしんメイト』を販売した6年前、子供に携帯電話を持たせる親は今ほど多くありませんでした。月額料金もまだ高かったですしね。防犯意識の高まりもあり、今では小学校高学年で約3割、低学年でも約2割が携帯電話を持っていると言われています」
総務省が行った2007年の『通信利用動向調査』によると、6〜12歳の携帯電話利用率は31.6%。これは「あんしんメイト」販売当時の3倍に迫る数字だ。携帯電話は小学生にとって、もはや生活道具の一つになりつつある。
「もう一つの理由は、GPS機能を搭載した携帯電話が急速に増えた事。『あんしんメイト』販売当時はほとんど普及していませんでしたが、今は新端末の半数以上がGPS搭載機と言っていいでしょう」
こちらも数字が証明している。『ケータイ白書2009』によれば、GPSを搭載する携帯電話の普及率は55.3%と、既に過半数を超えている。携帯で同じ事が出来るのに、わざわざ専用端末を持ち歩くのは不合理だ。専用端末から携帯電話への移行は必然だったと言える。

では、「まもるっく」はどんなセキュリティサービスを提供しているのか。
携帯電話のパケット通信を利用したサービスが、「あんしんメイト」にもあった24時間365日いつでもALSOKへ通報出来る「通報連絡」。これに新たなサービスとして、希望エリアの警察から配信される犯罪発生情報を転送(最大3メールアドレス)する「警察情報転送」と、暮らしに役立つ防犯対策を希望ユーザにメール送信する「最新防犯アドバイス」がプラスされている。
反対に「あんしんメイト」にあった「位置情報検索」サービスは付与されていない。携帯電話のGPS機能と基地局情報から利用者の居場所をつかんではいるが、その情報は親への通報時やガードマンの「駆けつけ」サービスのみで利用する形になっている。
機能をシンプルにした背景には、最近の携帯電話の著しい進化がある。携帯電話会社のサービスとして、子供向け携帯電話には「位置情報の検索」と同種の機能があらかじめ搭載されているのだ。

機能を限定した結果、「まもるっく」は利用者にとってより分かりやすいサービスになった。「まもるっく」の「通報連絡」と「駆けつけ」は、警備会社でなければ提供出来ない独自のサービスだ。もしもの時に警備のプロが助けてくれるという安心感は、子を持つ親にとって何物にも代え難い。一回り大きな安心が欲しい時、「まもるっく」は有力な選択肢になるに違いない。

 
 
 
  「ALSOKへ通報します!」メッセージで犯罪を抑止
 
メインメニュー

「まもるっく」のメインメニュー。ここから直接通報出来る。

通報カウントダウン画面

10秒のカウントダウンは画面上にも表示される。

警察情報転送

「警察情報転送」メールの例。予防安全の大きな助けになるはずだ。

携帯電話を利用した屋外セキュリティサービスで気になるのは、いざという時に子供が正しく操作出来るかどうか。ボタンとスライドキーの2つしかない「あんしんメイト」は子供でも迷うことなく使えたが、携帯電話の場合、どのボタンを押せばいいのだろう?
「あらかじめ特定のボタンに『まもるっく』のアプリケーションを割り当てておきます。これにより、auの場合は『アプリ』ボタンをワンプッシュするだけで自動的にアプリケーションが立ち上がり、ALSOKに通報します。NTTドコモの場合は2種類あり、『タスクキー』のワンプッシュか、アプリケーション起動後、『通報』ボタンの長押しで通報します」(福田)
これなら子供でも簡単に覚えられるだろう。
逆に防犯ブザーのように面白がって押してしまわないかと心配になるが、そこも十分に考えられている。「通報連絡」の場合、ボタンを押した後に10秒間のカウントダウンが行われるのだ。誤操作の場合はその間にキャンセル出来るし、反対に今すぐ通報したい場合は、更にボタンをワンプッシュすれば即座に通報出来る。

「なるほど」と思ったのは、カウントダウンの際に「AKSOKへ通報します」という音声メッセージが流れる点。単なるブザー音にしなかったのは、犯罪抑止効果を狙ってのことだという。
「ただのブザー音だと周囲の人に誤動作だと思われる可能性があります。『ALSOKへ通報します!』という明確なメッセージなら、周囲の人の注意を喚起しやすい。また子供に近付いた不審者も、ALSOKが来ると分かればその場を立ち去るかもしれません。犯罪を未然に防ぐ事が最大の目的ですからね」(福田)

ITの技術的な側面から見た場合、「まもるっく」に「あんしんメイト」以上の新しさがあるわけではない。だが情報そのものに対するアプローチは、利用者のベネフィットをより意識したものに変わっている。その具体例が、新たに盛り込まれた2つのサービスだ。
「警察情報転送」で配信される地域の犯罪発生情報は、以前からインターネットを通じて公開されているものだが、その存在すら知らない人が多いのではないだろうか。例えば子供の通学路に不審者が出没した事が分かったら、親は別の道を通って帰宅するよう電話したり、迎えに行く事が出来る。また「最新防犯アドバイス」のメールを家族皆が受け取れば、一家で防犯意識を共有することが出来るだろう。
これからの防犯ツールに欠かせない要素。それは「まもるっく」のような、予防安全への積極的な取り組みかもしれない。

 
 
 
  携帯電話からの申し込みを可能にした理由
 
ALSOKあんしん教室

社会貢献の一貫として、ALSOKは防犯授業「ALSOKあんしん教室」を実施している。

実は、携帯電話を利用した屋外セキュリティサービスは「まもるっく」が初めてではない。他社からは2001年秋という早い段階で同種のサービスが販売されている。「まもるっく」はかなり遅れての市場参入になるわけだが、それだけにサービスの細部までよく練り上げられている。
ALSOKが「まもるっく」を企画する上で重視したのは、とにかく敷居を低くすることだった。そのため、サービスの基本料金は月額262円に設定(「駆けつけ」は1回1時間まで1万500円)。しかも初期費用を無料にし、料金は電話料金と一緒に携帯電話会社から引き落とす形にした。加入料金5250円、月額基本料金924円、各種サービス料金10〜1万500円の「あんしんメイト」に比べても、かなり思い切った価格設定と言えるだろう。
「セキュリティは高くつく、という先入観を払拭したかったんです。ビジネス的には厳しいのですが、警備会社の仕事には社会貢献という側面もありますから」(久保寺)

もう一つの特徴は、契約が簡単・迅速に行えること。具体的には、業界で初めて携帯電話での申し込み・解約を実現した。前例のないケースだったため、福田さんは監督官庁である警視庁の承諾を得るのに苦労したという。
「屋外セキュリティサービスを利用するきっかけは、実際に危険な目に遭ったからという方が多いんです。書面による契約だと、その日にでも契約したいというお客様を1週間も待たせることになってしまいます。それでは普及は望めません。『まもるっく』なら、申し込んだ時点で利用することが出来ます」

「まもるっく」を始めとする屋外セキュリティサービスの背後にあるITは、決して特別なものではない。GPSもパケット通信も、既に数多くの分野で幅広く活用されている。だが、ITを導入したサービスで、ここまで直接的に子供の安全に寄与する例はそう多くないはずだ。実数は不明だが、今までにも数多くの子供たちが、犯罪に巻き込まれる一歩手前で救われているのではないだろうか。
肝心なのはテクノロジーの新旧や優劣ではなく、それを最も効果的な形で私たちの生活に役立てる事。そして、誰もがそのメリットを享受出来るよう、サービス導入の敷居を下げる事。「まもるっく」は、ついつい忘れがちな、ITとビジネスの理想主義的な関係を思い出させてくれる。

 

取材協力:綜合警備保障株式会社(http://www.alsok.co.jp/

 
 
神山 恭子 0012 D.O.B 1966.7.3
調査報告書 ファイルナンバー 第35号 携帯電話を利用した個人向け通報システム「いざ、という時はケータイをワンプッシュ!」
イラスト/小湊好治 Top of the page

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