ナビゲーションを読み飛ばすにはここでエンターキーを押してください。

一覧に戻る
COMZINE BACK NUMBER

特命捜査 第57号 スポーツをデータで楽しむ 「スポーツの楽しみを広げるデータ化の技術」

日本唯一のスポーツデータ・プロバイダー

データスタジアム社長_加藤さん

データスタジアム株式会社 代表取締役社長 加藤善彦さん。

サッカーの天皇杯やアジア大会、ラグビーの日本選手権などのボールゲームが目白押しのこの季節。
こうした競技の試合をテレビ観戦すると、チームの過去の成績に加え、選手ごとのこれまでの成績や記録など、さまざまなデータが表示される。こうした数字が昔に比べてずいぶん詳しくなっていることにお気づきだろうか。実はこのデータの多くは、競技団体やテレビ局が作っているのではなく、その委託を受けて、今回紹介するデータスタジアム株式会社が作っているのだ。

「データスタジアムは、野球、サッカー、ラグビーを中心としたスポーツのデータを、あらゆるメディアやチームに提供している企業です」
データスタジアム株式会社の社長・加藤善彦さんは語る。

データ配信サンプル

データスタジアムが配信するプロ野球速報の数々。リアルタイムのデータ配信も行っている。

同社は、日本におけるスポーツのデータ化、デジタル化を、先陣を切って進めてきた企業。各種競技に関わる詳細なデータを記録、分析し、テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどのメディアやプロチーム向けに情報提供しているスポーツ・コンテンツ・プロバイダーだ。しかも、こうしたスポーツデータ解析については、日本唯一の会社といってよい。
データスタジアム株式会社の設立は2001年。当初はプロ野球のデータ解析からスタートした。プロ野球が選ばれた理由は言わずもがなだが、日本のスポーツでもっとも市場が大きく、メディアやファンの要望も多かったからだ。ちょうどこの年、イチロー選手が米国のメジャーリーグに移籍し、メジャー流の詳細なデータを日本人も目にすることが多くなったこともあったかもしれない。

「我々がデータを公表する前は、三振の数、ヒットの数といった、日本野球機構(NPB)が記録する基本的なデータしか存在していませんでした」
日本のプロ野球の組織であるNPBは、1988年からNPB-BIS(BISは、Baseball Information Systemの略)というデータベースを運用しており、各球場に配置された公式記録員によって「プロ野球公式記録データ」として記録されている。公式記録員は、1球ごとにNPB-BISにつながったパソコンからストライク、ボール、ヒット、エラーなどを入力する。これは同時に、球場内のヒット、エラーといった表示にも使われている。これらの記録は、伝統的なスコアブックの記録と同じ内容だが、IT化されることによって、容易に検索できたり、累積が簡単になったりという効率化が大幅に図られたといえる。

だが、こうしたデータだけでは、相手投手の配球を読むといったことまではできない。「メディアにもチームにも、もっと詳細なデータが欲しいというニーズがありました」と加藤さんは語る。
従来、これ以上に詳細なデータが欲しい場合、各チームでは、熟練した「スコアラー」と呼ばれる人たちを雇って、データを収集してきた。相手チームの投手がどのような球種を持っているのか、配球のクセはあるのか、あるとすればどのような配球なのかといったことを分析し、それをチームの戦術に活かすわけだ。その報告書を「スカウティングレポート」と呼ぶが、こうした「スカウティング」が重要ということが、野球に限らず、昨今のスポーツではしばしば言われるようになった。
同時にメジャーリーグなどで詳細なデータを目にしたファンの中にも、同様のデータを求める声が上がっていた。こうした要望に応える形で、データスタジアムはスタートしたわけだ。



リアルタイム配信もできる野球分析ツール

野球入力画面

「ベースボールアナライザー」の入力画面。1球ごとに、バッター、コース、球種、球速、結果を入力。ゲームの流れが克明にデータ化される。

野球入力風景

リアルタイムに配信する際には、球場で入力することもある。

野球_分析1

「ベースボールアナライザー」は、カウントなどの状況別配球図、打球方向、打撃傾向など、さまざまな分析が可能。

野球_分析2

選手ごとにバッティングのウィークポイントや打球の飛ぶ方向などを分析することも簡単だ。

データスタジアムがプロ野球のデータ分析に使用しているツールは、同社が独自に開発した「ベースボールアナライザー」というソフトだ。スタッフがテレビ放送などの映像を見ながら、投手が投げる1球ごとに、パソコン上の入力画面に、バッター(選手名、右打ち、左打ちなど)、コース(内角高め、外角低めなど)、球種(ストレート、カーブ、チェンジアップなど)、球速、結果(ヒット、見逃し三振、ライトフライ、ファーストゴロ、ダブルプレイなど)をパソコンに入力。1球ごとにゲームの流れが克明にデータ化され、記録される。
記録されたデータは、試合終了後に勝利投手、敗戦投手、セーブ、更には失点、自責点などの記録を整理されると同時に、投球分析、カウント別投球分析、左右別打球分析、項目別成績表など、詳細な分析が行われ、1試合単位でも、複数試合の累積でも閲覧することが可能となる。
これを見れば、投手がどのような球種、コースでストライクを取ってくるのか、追い込んでからどんな球を投げてくるのかという配球パターンも、またある打者の苦手なコース、打球がどこに飛んでくる確率が高いのかなども解析することができる。またどのような場面で、ヒットエンドランなどの采配が行われるかという監督の特性も明らかになる。
同社では、テレビ放送映像を元に、プロ野球や高校生の甲子園大会の全試合を入力している。こうしたデータは試合と同時にリアルタイムで配信することもできる。

「プロ野球開催期間中に、Webサイトでリアルタイム配信されているもののほとんどは当社がデータを提供しています」
更に、テレビ放送などで、配球パターンが画面上に表示されるデータの多くは、同社のスタッフが入力しているという。こうしたデータの入力には、野球のルールに精通し、同時に、投手の球種やコースを見極める熟練の技が必要となる。

「スタッフは約3カ月のトレーニングを積んでから、データ入力を始めます」
更に、投手ごとにどんな球を投げるのかをあらかじめデータ化しておき、それを参考にしながら、球種を判断しているという。
「ベースボールアナライザー」は、NPBプロ9球団、高校から社会人までのアマチュア約150チームで利用されている。



Jリーグ公認データも作成

サッカー入力風景

「データストライカー」でのデータ入力。左のディスプレイに試合の動画を表示し、右のサッカーグラウンド図の上に、選手の位置とプレイ内容を一つずつ入力していく。

サッカー入力画面

「データストライカー」の入力画面。<Jリーグ公認データ>スタッツスタジアムの入力もこれで行われている。

サッカー_分析

エリアごとのプレー数表示や、シュート、クロスの位置表示も容易で、それぞれを映像で確認することもできる。

データスタジアムがサッカーの分析を本格的に始めたのは、2004年。Jリーグは2001年からイングランドプレミアリーグで使用されている「Optaシステム」を導入していたが、この入力作業にデータスタジアムが協力することになったのだ。
2008年からは、入力作業をすべて委託され、現在は同社がJリーグの公式データと、より詳細なJリーグ公認データ「スタッツスタジアム(Optaの後継システム)」の入力を担当している。
「スタッツスタジアム」は、試合中のボールに絡む動きを、約300項目に分解し、データ化することにより、選手のパフォーマンスを数値化。選手の状況、チームの状態、選手の評価、比較などを容易に行うことができる。自チームの分析はもちろん、相手チームの分析データを元に、戦術設計や選手の起用など、戦略立案の基礎データとして活用できるものだ。

入力されたデータは、同社が独自に開発した「データストライカー」というソフトによって分析が行われている。この分析ツールのユニークな点は、データと映像がリンクしていること。一旦データを入力すると、「シュート」や「選手名」などで映像を検索し、シュート場面だけを再生したり、特定の選手のプレイだけを検索して、見ることができる「データストライカー」では、数値化されたデータで選手やチームの評価ができるだけでなく、それを映像によって確認することができるのだ。更に、この検索機能を利用して、映像を簡単に編集し、選手に見せるための資料映像を作ることも簡単になった。

サッカーは、野球と異なり、1球ごとに記録するという方法がとれないため、選手がボールに触れた時点(オン・ザ・ボール)で行ったプレイを記録していく。二つのディスプレイを使用し、一方のディスプレイに試合の動画を表示し、選手とボールが触れた瞬間で動画をストップ。もう一つのディスプレイ上に表示されたサッカーグラウンド図の上に、選手の位置をポイントし、その選手が行ったプレイ(シュート、パス、ドリブル、タックルとクリア、ファウルとフリーキックなど)とその内容を一つずつ入力していく。
こうした作業を行うことで、1試合で何回パスが行われ、何回ミスがあったか、シュートが何本あって枠に飛んだのは何本かなど、詳細なデータが数値化される。

一方で、この方法ではボールに触れた選手の記録しかデータ化されないが、サッカーではボールに触れていない選手の動きも非常に大切だ。データと映像をリンクさせる理由はここにある。映像を見ることで他の選手の動きも把握することができるのだ。パソコンが数字と同じように動画も扱うことができるようになったことが、「データストライカー」の価値を一段と高めたといえるだろう。
ただし、この入力作業は非常に手間がかかり、野球の「ベースボールアナライザー」のようにリアルタイムで配信することはできない。

「1試合(90分)を入力するのに、熟練したオペレーターでも12〜13時間くらいかかります。ですから、1週間に2試合ある週などは非常に大変ですね」
数値化されたデータは、選手個々の数値を比較したり、フィールドのどの位置でどのようなプレイが多かったかを抽出し、シュートの位置、クロスの位置などを分析したりするのに使われる。
こうして入力されたデータは、すべてデータベース化されており、Jリーグの多くのチームでも選手の評価、作戦の立案などに活用されているという。

ちなみに、2010年に南アフリカで行われたサッカーワールドカップでの日本チームの活躍は記憶に新しいが、その際は日本サッカー協会の専門スタッフが数人がかりで相手チームの分析 や日本チームの各選手の評価などを行ったという。こうした地道なデータ分析が日本チームの好成績にもつながったと言えそうだ。


ラグビーのデータは競技経験者が入力

ラグビー_入力

「データスクラム」も、「データストライカー」と同様に、タイムコードで映像とリンクしながら、エリアとプレイを記録していく。

ラグビー_分析

アタック・ディフェンスなど選手のあらゆるプレイ情報を集計・検索することができ、相手チームのプレイ選択の頻度、ウィークポイントの抽出が可能。

ラグビー用のソフトは「データスクラム」といい、サッカーの「データストライカー」のノウハウがラグビー用に転用されている。
「データスクラム」も映像とデータがリンクしているため、数値化されたデータを分析するだけでなく、個々のプレイを映像で確認することが可能だ。ある特定の選手のタックルシーンやトライシーンだけを集めた映像集なども簡単に作ることができ、問題点を手軽に把握することもできる。

「データスクラム」はサッカーに比べて入力が難しいという。
「ラグビーの場合、トライ後の時間やスクラムなどで動きが止まるので、入力に要する時間は比較的短時間で済みます。ただし、ルールが複雑なので、データ入力はラグビー経験者しか行うことができません」

入力されたデータは、さまざまな角度から閲覧できるとともに、すぐに映像で確認することができる。エリアや状況、時間帯によってどのようなプレイ選択が行われているか、防御の弱い部分はどの選手のところかなど、詳細なデータが作られ、これを元に戦術を決めることも可能だ。また選手個々の練習メニューを作るのにもこうしたデータが一役買っている。
ある大学のラグビーの指導者は、「データを活用することで、選手への説得力が違う」と語る。経験に頼る指導よりも「データから判断して、君の課題はこうだ」と話した方が、最近の若い選手たちは納得して練習に励むそうだ。
ラグビーでデータを活用しているチームは、まだ多いとは言えないが、今後活用するチームが活躍していくにつれ、こうした手法が浸透していくだろう。
ラグビーは2019年に日本でワールドカップが行われることが決まっているが、欧米に比べ身体能力的に劣る日本代表が世界を相手に戦うためには、こうしたデータを活用した戦い方も必要になってくるだろう。データスタジアムのノウハウをぜひ、活かして欲しいものだ。


入力を自動化する最新「トラッキングシステム」

トラッキング_カメラ

トラッキングシステムで使われるカメラ。レンズを8つ搭載している。

トラッキング_イメージ

トラッキングシステムでは、2つのカメラでフィールド全体を俯瞰し、選手、レフェリー、ボールの動き、位置を記録する。

トラッキング_データ トラッキング_データ

カメラで記録した情報から、コンピューターがリアルタイムに各種データを生成する。

これまで見てきたように、野球、サッカー、ラグビーのプレイを数値化する手法は、映像を見ながら、人が判断し、入力するという手法がとられている。それぞれの競技に熟練したオペレーターが入力することが有用なデータを作成できる理由だが、一方でデータ作成に多くの時間が取られる。

そこでこうした作業を自動化し、効率化するために、データスタジアムが導入したのが「トラッキングシステム」だ。特に、サッカーに関しては昨年よりJリーグの試合等を通じてテスト運用を始めている。使用しているのはスウェーデンのトラキャブ社が開発したもので、8つのレンズのついたカメラ2台で、サッカーのフィールド全体を撮影し、その映像をコンピューターが解析して、フィールドにいるすべての選手、レフェリー、ボールの動きを記録。リアルタイムに位置、移動距離、スピードなどを表示するシステムだ。

「データストライカー」の分析と同じことができるわけではないが、人の手を介さずに、選手の動きが数値化できるとともに、これまではボールに触れた選手のプレイだけが記録されていたのに対し、トラッキングシステムでは、ボールに触れていない選手の動きも記録することが可能だ。
ボールに絡まないものの、相手選手を翻弄するような動きなども記録することができるため、これまで評価が難しかったボールに触れないプレイも数値化することができる。
加えて、リアルタイムでデータが集計できるので、テレビ放送を行いながら、同時にデータを画面表示することができ、テレビの視聴者にはメリットの大きいシステムといえる。

このシステムは、2010年の南アフリカ、サッカーワールドカップのテレビ中継でも利用され、個々の選手が1試合で走った距離や最高スピードなどが公表された。日本ではデータスタジアムが独占契約し、今後は、日本でもJリーグ中継などに活用されていくことが想定されている(2010年12月に1試合、テスト的に中継された)。

更に、決定的な場面ではこのデータを元に3次元CGと実画像を合成してプレイを再現し、テレビ画面に映っていない選手の動きを見ることができるので、選手たちが組織として連動しながらプレイしていることがテレビを通じても理解しやすい。
これまで、サッカーやラグビーのテレビ中継では、どうしてもカメラがボールに寄ってしまうため、チーム全体の動きを楽しむためには競技場にいく必要があった。だが、こうしたデータをリアルタイムで見ることができるとすると、現場で見るのとはまた違ったテレビの楽しみも増えてきそうだ。

「2011年7月にアナログ放送が停波し、日本も本格的なデジタル放送の時代に突入するわけですが、デジタル放送の一番のメリットはチャンネルが増え、同時に文字放送などの情報量が格段に増えることです。文字放送を利用したデータ配信によって、データを見ながら試合予想をするといった、新しいスポーツ観戦のスタイルができたら面白いと思います」
データ入力を効率化するとともに、テレビの視聴者にも新しい楽しみを与えてくれるシステムとして、これからの日本での活用にも期待したい。


スポーツデータを活用した娯楽も提供

iPhoneアプリ

2010年シーズンには、iPhoneのプロ野球速報で2社にデータ協力した。

日本のスポーツでは従来、データよりもコーチたちの経験値で指導が行われてきたといってよい。データが欲しくともデータを取ることが困難か、その方法が確立されていなかったからだ。データスタジアムの映像とコンピューターを使った数値化の手法は、こうした日本のスポーツ界にまさに風穴を開けたと言っていいだろう。
あるプロ野球球団では選手にスマートフォンを配布し、相手チームに関する詳細なデータをいつでも見られるようにしている。実際に相手投手の配球を読んで、実績を上げている選手もおり、その評価は確実に高まっている。
観客も、勝ち負け、打率、得点といった結果だけを楽しむのではなく、データを元に次の展開を予想しながら試合を楽しんだり、戦略的にゲームを見るという、より深い楽しみ方が可能になってきた。

スポニチプロ野球速報2010

「スポニチプロ野球速報2010」の画面サンプル。1球ごとのコース表示も見られるので、配球を読みながら観戦する楽しみも得られる。


ミクサカ

mixi上の「ミク☆サカ」というサッカーのファンタジーゲームにも協力している。

今後、どのような展開があるのだろう。
「一つは競技種目を増やしていきたいと考えています。具体的には、バスケットボールを考えています。もう一つは、メディアやチーム関係者だけでなく、一般の観客の人たちにも、データを活用したスポーツの楽しみ方をいろいろな形で提供していきたいということです」
同社は新聞社がiPhone用に提供しているプロ野球のリアルタイム配信アプリにデータ協力しているほか、SNSのmixi上で展開されている「ミク☆サカ」というサッカーのファンタジーゲームにも協力している。


ファンタジーゲームというのは、参加者がリアルなプロ選手をセレクトして、バーチャルなチームを作り、リアルな選手のデータを活用しながら、架空のリーグで対戦させるものだ。リアルな試合毎に、選手の活躍に応じて対戦成績が変化していくため、参加者はバーチャルな対戦とともに、リアルな対戦にも興味が深まるというわけだ。
スポーツを数値化し、科学的な戦術立案やトレーニングに有効な情報を提供すると同時に、観客にも新しいスポーツの楽しみを提案するというデータスタジアムの活動が、日本のスポーツ文化の深化と拡大に貢献していくだろう。

取材協力:データスタジアム株式会社(http://datastadium.com/


坂本 剛 0007 D.O.B 1971.10.28調査報告書 ファイルナンバー057号 スポーツをデータで楽しむ 「スポーツの楽しみを広げるデータ化の技術」
イラスト/小湊好治
Top of the page

月刊誌スタイルで楽しめる『COMZINE』は、暮らしを支える身近なITや、人生を豊かにするヒントが詰まっています。

Copyright © NTT COMWARE CORPORATION 2003-2015

[サイトご利用条件]  [NTTコムウェアのサイトへ]