一覧に戻る
COMZINE BACK NUMBER
ITの逆説 パラドックス日記 久米信行 その11 「ゲームが進化すると筋肉痛になる」

皆さんの家庭には、次世代家庭用ゲーム機がお目見えしましたか? これまでのゲーム機との違いをもう体感されましたか? 家族で一緒に楽しく遊んでいますか? そして…筋肉痛にはなりませんでしたか?

昨冬のクリスマス目前、靴下の中に「Wiiというゲーム機をください」という子どもの手紙を見つけてから、わが家のサンタさんは大変な思いをしました。あらゆるおもちゃ屋さんをハシゴして、直前の週末には、早朝からトイザらスを取り囲む長蛇の列に並ぶことになったのです。
こうしてようやくゲットした「Wii」にハマったのは、サンタ、いや父親の私でした。元ゲームデザイナーということもあり、すっかりヤミつきになってしまったのです。
この家庭用ゲーム機は、ITの進化を「リアルな実像に近づける」ためにではなく、「人の肉体感覚に近づける」べく作られたもので、更に「個人的な世界に没入するツール」になりかけたゲーム機を「家族みんなで楽しめるゲーム」として復権させたのです。
ここに、家庭用ゲーム機のみならず、多くの情報機器の「ITの逆説」を覆すヒントがありそうです。

なぜ筋肉痛になるのか?

Wiiが発売になってすぐに、製品の不備が話題になりました。それは、コンピュータのバグではなく、「リモコンのストラップ部分が弱い」という想定外の不備でした。どうやらゲームをしているうちに、リモコンが吹っ飛んで、家具などを壊すといった「肉体派の事故」が頻発したようなのです。
なぜ、そんなことになるのか、私には理解できませんでした。しかし、私の周りでも、買ったばかりの液晶テレビをリモコンで破壊した友人が現れました。
なぜ?
ある友人はWiiをやりすぎて肩を壊したと話してくれました。
なぜ?

彼はボールを打てばリモコンに衝撃が走るし、そこから音が出るし、とにかくリアルだ、気がつくと本気になってしまうと言うのです。Wiiテニスのプレーヤーを描いたコンピュータグラフィックが、今時レゴブロックなみにデフォルメされているお子様モードだと知っている私は、そんな馬鹿な…と鼻で笑いました。
そして、私が笑っていられたのも、この恐るべきゲームを実体験するまででした。

コンピュータゲームで筋肉痛というパラドックス

何気なくボウリングを始めて、5歳の子どもに負けた時、私の中で何かが音を立てて崩れました。たかがゲーム、そうたかがゲームなのに、目は真剣そのもので怖いほどだったでしょう。ちゃんとボールいやリモコンを構えて、手を大きく振って助走をしながら、えいっとばかりに思い切り振り抜きます。
ところが…。あーれー。またも何ピンか残してしまいました。
続いて投げたのは5歳児です。おそらくは実際のボウリングなら、ボールさえ持てないはずでしょう。それなのに、ゆるゆるボールが真ん中に行って…。ああ、またもやストライク
その瞬間、頭に血が上り、アドレナリンが分泌されているのが、自分でも分かります。だんだんフォームも大げさになり、テレビに向かってリリースした右腕は…。あ、あぶない、テレビ画面に突き刺さりそうです。
こうなったらと、強烈なフックをかけるべく手首をこねくり回すと、おお、面白いように曲がります。何度か試して、ようやくストライク。勝てるまで、そう勝てるまでゲームを繰り返す、大人げない私。
そこまでして、ようやく勝利を収めた時に、右肩に鈍い痛みが…。うう、選手生命が….。

そうです。ゲームの進化はここにあり。攻略本必須の難しくなりすぎたゲームよりも、誰もがすぐに理屈なく楽しめるゲーム。コントローラのボタンをいくつも押すような頭を使うゲームよりも、スポーツそのままの自然な操作で体を動かすゲーム。高精細の3Dコンピュータグラフィックが視覚に訴えるゲームより、手のひらの皮膚感覚で音や振動を味わうゲーム。ひとりで個室の中で楽しむゲームよりも、みんなでリビングに集まって楽しむゲーム。
そんな「正常進化のゲーム」が出てきたおかげで、当分、体のあちらこちらが痛くなりそうです。しかし、痛みの分だけ、リビングには笑い声が絶えないことでしょう。

久米信行(くめ・のぶゆき)プロフィール

1963年

東京都墨田区生まれ

1987年

慶應義塾大学 経済学部卒業 イマジニア株式会社入社 ファミコンゲーム開発

1988年

日興證券(株)入社 資産運用・相続診断システム開発

1991年

久米繊維工業(株)代表取締役に就任

現在

久米繊維工業(株)代表

受賞歴に日経インターネットアワード、経済産業省IT経営百選。日経パソコン、経営者会報、日経IT-Pro等で連載中。

著書に「メール道」「ブログ道」(共にNTT出版)

イラスト/小湊好治 Top of the page

月刊誌スタイルで楽しめる『COMZINE』は、暮らしを支える身近なITや、人生を豊かにするヒントが詰まっています。

Copyright © NTT COMWARE CORPORATION 2003-2015

[サイトご利用条件]  [NTTコムウェアのサイトへ]