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◆ アメリカのビジネスITについて
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今回はアメリカでのITがビジネスのどんな場面で使われているのかを中心に、そも
そもITとは誰のためか、ということについてお話したい。
◆ 会社のためのMISから個人のためのITへ
私の記憶ではITなる言葉を最初に聞いたのは、今勤めている会社のMIS (Management Inf
ormation System) 部門の評判が悪くて、トップが技術者出身の女性に変わった時であり
、10年近く前だったと思う。この時 部門名もInformation Technologyに変わった。
ITとは何かよく判らなかったこの時期だが、変化がすぐに会社全員にはっきりとわかる
ようになった。その頃はデスクトップPCならWindowsNT、ノートPCならWindows95 ネッ
トワークはもとより、パソコン自体しょっちゅうフリーズする時代で、MIS の主たる業
務はフリーズしたPCのレスキューとネットワークの復旧であったといえる。何が変わっ
たのかというと、まずヘルプデスクが世界中どこからでもいつでも電話をかけられるよ
うになり、相談に乗ってくれるようになった。電話番号もだれでも覚えられる簡単な番
号になった。その上、ヘルプデスクに電話した場合、直っても直らなくても、翌日くら
いにその上司から電話があり、問題は直ったのか、担当者の応答はどうであったか、
また結果に満足しているのか、などについて質問されるようになった。 ここで初めて
情報システム部門とは社員へのサービス部門であることが明らかにされた、画期的な出
来事であった。
なぜこんな話をしたのかというと、日本ではIT部門とか、いま、流行のCIOなどの話
を伝え聞くと、どうもITが会社の為にあるようで、個人のためにでは無いように思え
たからである。日本はいわゆる失った90年代に(かつてアメリカから恐れられた)
KAISHAをいまだに捨てられず、その体制をずるずると維持しているように見受けら
れる。もちろんすぐに変化に応答して、ビジネスプランを変更し事業部制から分社
化して成功しつつある会社も何社かはあるようだが。
◆ 個人の生産性に依存する米国企業
アメリカはいまだになぜ強いかというと、個人が主体の国であり個人あっての会社で
あるからだと私は思っている。それが証拠に生産性、特に間接部門のそれはいまだに
日本など足元にも及ばないだろう。会社を動かしているのは間接部門の個人であり、
この個人の生産性を極限まで上げられるのがIT技術であり、IT部門の役割であると言
える。これがアメリカにおけるITの定義ではないかとさえ思ってしまう。eラーニン
グ、eマニファクチャリング、 eパーチェシング、そしてパソコン、ネットワーク
等、すべては個人の生産性を向上させるためにあるのであって会社のためが第一目的
ではない。私もかつて16年間、日本で某大手電気メーカーに勤務していたが、毎日残
業なしには仕事がこなせなかったし、他の部門に何か物を頼みたい時は、あらかじめ担
当者に話をつけた後、上司経由で正式に依頼しなくてはいけなかった。このためタ
イミングを逸することもしばしばあった。今いるアメリカの会社では、仕事量は残業
などせずとも日本の時の2倍以上出来る。他の部門に物を頼む時でも、まずその部門
のサイトを見て、欲しい情報がすでに載っているかどうか確かめてからでも遅くは無い。
◆ シリコンバレーでの仕事の仕方
夕方頃、急に明日の朝までという仕事依頼はアメリカでも多い。しかしこれは家に
帰ってからやればよい。家からでも会社とほとんど同じネットワーク環境を使用で
きるので、会社に残って仕事をする必要が無い。必要な書類、工場の生産状況、
過去のデータなどはすべてサーバーにあり、オフラインモードにしておけば、いつで
も最新のデータがノートPCにダウンロードされている。必要最小限のメールや書類、
会議日程のアップデートなら世界中に張り巡らされたダイアルアップ・ネットワークで
十分だ。家に帰る直前にノートPCをスタンバイにして車にほうりこみ、家に帰って時
間が出来たらスタンバイを解除すればほとんど瞬時に家に帰る前の状態に戻る。
更に、今ではかなりの人が個人的にはDSLかCATVで接続しているので、これにつ
なぎ、VPNで会社のサーバーに接続すれば、更に快適なオフィス環境が自宅にで
きあがる。シリコンバレーに通う人が多く住んでいるサンノゼ市の南方面は、元々
電話交換機が古くダイアルアップでは十分な速度が出ないらしく、DSLやケーブル
の普及が進んでいるとも聞く。何か日本とよく似ているではないか。 もし自宅では
どうも仕事がやりずらいのであれば、近くのサテライト・オフィスに行く手もある。こ
ういう形態の仕事で第一に必要なのがサポート体制である。現状Windows2000で
もフリーズすることもあり、ネットワークやサーバーの状況確認も必要になる。個人
のためにあるITとヘルプデスクがあるので、安心してどこでも仕事ができる。
◆ 「失われた10年」の後、21世紀は「消え去った日本」?
日本のKAISHAが個人重視のアメリカ型になるのか、更なるKAIZENを経て新しいKAISHA
となるのか、(ちなみにKAISHA とKAIZENは英語として通用する) 日本でも議論が出
ているようであるが、日本以外はアジア圏でも個人重視の会社そして社会を目指して
いる旨報道されており、議論も大事だが今何か始めないと、21世紀は失ったどころか
消え去った日本になってしまうかもしれないと杞憂する。
最近読んだ本で、東大の坂村教授が非常に興味深い事を話されていたのでここに紹介
したい。いわく;もう少し失敗を見つめる文化を日本で育てなければいけない。
何のためにITを使うのかまず言わないと。
日本は米国に学ぼうとしても実は形しか真似していない。
などなど。
第二次大戦後、いまだに反省していないために、アジア諸国から嫌がられても尊敬さ
れる存在になれないのも、日本にこの失敗を見つめる文化が無いからではないか。
私も昔のことは忘れて将来に希望を持ちましょう、などと言われると、すぐにはいと
言ってしまいがちで、後になって反省するのだが・・・
◆ 失敗への対応の違い
その点ドイツは第二次大戦の反省、ナチスの反省、ユダヤ虐殺の反省等、着実に行っ
ているようだ。先日もDWテレビ番組で(ちなみにサンフランシスコではあらゆる国の
テレビ番組、ニュースが毎日みられる)、ユダヤ人の強制労働に対してドイツの民間
会社が賠償金を支払うという報道があり、やはりドイツは本当に反省し、罪の償いを
しているのかと考えさせられた。
以前に、かの大橋巨泉氏がコラムで日本の戦後は終わっていない、政治も世の中の仕
組みも戦前と同じままだ、と嘆いておられたが、うなずけることが多い。失敗を見つ
めるということは又、突き詰めていくと個人の問題になってくる。その逆が、今話題
に事欠かない、失敗を隠す日本の KAISHA ということになろうか。
アメリカでは個人レベルでの破産が非常に多いが、あまり恥ずかしいという意識は感
じられないし、破産したときの手助けも、かなり良くできているようだ。破産しない
にしても、突然解雇された時などクレジットカードの支払いが出来なくなるが、カード
の契約時、解雇された時の支払い猶予を選択することもできる。つまり、個人・独創
性重視となると当然失敗はつきものであり、社会的に葬り去られるのではなく、むし
ろ正常な生活に早く戻れるような文化と社会の仕組みの両方が必要なのである。
幸い、日本のケータイは完全に個人の文化である。 この事を認識してその文化を
育て上げられれば、案外日本の将来も消えることは無いのかもしれない。
◆ 結果を重視する米国企業とプロセスを管理する日本企業
日本のサイトで、会社のパソコンを仕事以外に使って良いかとか、仕事以外のサイト
を見るのは昼休みだけなのか、などのアンケートをよくみるので、日本では一般的に
これらは禁止されているのかと思うが、少なくともシリコンバレーでは、これらはOK
な会社が多い。
私の会社のノートPCには、DVDドライブが標準でついており、Sビデオアウトもついてい
る。あとはブロックバスターに寄ってDVDを借りて家に帰るだけである。すべてのノート
PC所有者は管理者権限でログインしている。ほとんどのビジネス用ソフトウエアは、
会社のサーバーにありここから直接インストールできる。ファイヤウォールの制限は
あるが、ほとんどのウエブサイトは閲覧できるし、ほとんど何でもダウンロードできる。これらを禁止している会社は個人を重視していないのではないか、と疑いたくなる。
個人個人がその仕事の結果で評価されていれば、日ごろウェブサーフィンしてようが、
誰も文句を言う人はいないはずだが。
◆ 個人重視のアメリカの教育と雇用
個人の力という面でアメリカを見ると、やはりアメリカの教育システムがこの個人の力、そして独創性を引き出す源泉と考えられる。アメリカで育った人間とそれ以外の人との
差は非常に大きい。特に自分の主張を貫くことにかけては絶対的な力を感じる。
この点、日本も教育改革が言われて久しいが何も変わっていないようである。
しかし、個人重視で最近良い例が少しずつだが目に付くようになった。例えば、日産の
ゴーン社長、日本の(そして韓国の)サッカーの外国人監督などがそうであると思う。
これを機会に、他の大手会社や、また政府省庁などでも優秀な外国人をどんどん雇用し
て行くことに期待したい。
アメリカでは、元々優秀であればアメリカ市民でなくてもどんどん雇用する。ITブーム
では西海岸にロシア人とインド人がたくさん入ってきたが、この不況でインド人の一部
はドイツに移ったとも聞く。ドイツでは最近移民法が改正になり、ハイテク関連の就労
ビザが、とても簡単に取れるようになったのがきっかけらしい。日本ではどうなのだろ
うか?相変わらず社内(省内)内部の人材ですべて処理しようとしているのかと、ひと
ごとながら心配される。
ちなみに多くのアメリカ企業では、基本的には人事部なるものは存在せず、HR(Human
Resource)部門しか無い。HRは日本語にすれば人材部とでも言うべきもので、人材情報
の一括管理を行い、採用・評価・報酬・昇進などのガイドラインを決めて実施を監査す
るだけである。日常の仕事は、マネージャー達にアドバイスをしたり、相談に乗った
り、採用関連の手伝いをしたりするだけで人事権は無い。採用は、各部門、たとえば日
本でいえば主任、係長レベルの人が仕事の内容や量に応じた年間予算で必要な人を雇っ
ているのであって、これも個人重視と結果重視の現われともいえよう。つまりその部門
の実行責任者に人事権があるわけだ。いま流行の分社化をしたら、ますます個人の力、
独創性、そして高い生産性が試されると思うのだが日本のKAISHAはその点、大丈夫なの
だろうか?
次回は、アメリカでの無線LANについて。
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