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◆ アメリカの移民パワーについて
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◆ シリコンバレーへの移民

シリコンバレーにベンチャー企業の設立が始まった頃から、ハイテク移民はかなり いたようで、その頃はスタンフォード大学などの留学生がそのまま地元で仕事につ いたケースが結構多かったようだ。1960年から1970年代にかけて、日本企業も争 って社員をスタンフォード大学に留学させていたのを覚えている。もっとも当時、私 のような新入社員で、たいした学歴もないものは指をくわえてみていただけであっ たが・・・。 今の米国企業に勤め始めてまもなく発見したのは、上司や仕事仲間でこいつはす ごく頭が良いとか、仕事のこなし方が尋常ではないと思った人のほとんどがスタン フォード大学のPhDであったことだ。その昔はカリフォルニア大のバークレイ校の化 学部門(Chemical Engineering)出身もかなり多かったようだが、今バークレイ校は ほとんどアジア系の人の学校になってしまって駄目になった、とバークレイCE出身 の友人が嘆いているのを聞いたことがある。
アメリカの会社で人を雇う時のひとつの決め手は、どこの大学の何学部で何教授 のところで勉強したかであるのはご存知だろうか?特に新卒の場合は、これしか ないと言ってよい。何だ日本と同じか、と思われるかもしれないが、日本と似てい て決定的に違う点は、有名大学有名学部有名教授の所の学生は、ほとんど例外 なく優秀だということである。大学のシステムが違い、卒業すること自体結構大変な ことらしい。私など日本の大学時代あまり勉強した記憶がないので、ある時上司の 一人から自分は大学時代4時間以上寝たことが無かったと言われて、こちらは恥 ずかしくてなにも言えなかった記憶がある。しかもこれはその人が日本に来ていた 時、新幹線の中で報告書をまとめてしまったのを見て、どうしてそんなことができる のか質問したから返事しただけで、本人は自慢していた訳ではない。この人がプリ ンストン大のPhD出身であることは、後で他の人と話していて知ったくらいだ。今い る会社では名詞にPhDと書いている人はほとんどいない(名詞の印刷用紙にそれ を記入するところがない)のをみても、 大学時代勉強に明け暮れたのは当たり前 で、特に自慢することではないという風習のようだ。日本の肩書きだけの博士とは 大違いではないか。なぜこんなことを話したかと言うとこれが移民パワーと関連し ているからだ。

今のシリコンバレーの移民は私から言わせれば第2世代である。第1世代は世界 各地から働きに来た人たち、そして第2世代は用意周到にアメリカの大学を卒業し て来た、あるいは高校からアメリカに渡って来た世代である。第1世代は中近東や インドそして台湾や香港の人が多い。このうち台湾の人は、半導体産業の発展と ともにかなり台湾に帰ってしまった場合が多いが、それなりに成功しているようだ。 日本の半導体各社も当初は台湾の半導体メーカーを馬鹿にしていたようであるが、 この事実を知らなかったのかとも思える。アメリカの企業で10年以上も勤めてその やり方を良く判っている人たちであったから、アメリカ人と話がよく通じるし、中国人 の特徴である金儲けの仕方を良く判っていたから、台湾半導体の今日があるの ではないか。台湾人を除けば第1世代の人達は、本国に帰ることもせず今もシリ コンバレーで働いているか、すでに退職して悠々自適の生活を送っている人も多 いと聞く。

◆ 中国系移民

第2世代で最近非常に増えてきたと思うのが中国人(本土)である。私がアメリカ の本社工場に移った時、部下10人の内8人が中国人の入社1-2年目の人達であ った。   みなアメリカの大学でPhDをとっていて、がむしゃらに働くし、なかなか 頭も良かった。広東出身の友人によると、中国内でアメリカ大学入試テストを受け て合格後、アメリカへ渡り、しばらく語学学校に通った後、大学へ入学、卒業後他 の大学に移り博士号取得、というのが一般的なケースのようだ。特徴は両親が 割合と金持ちであると言うことである。但し大学はミネソタ州とかテキサス州とか の出身で、東部や西部の有名大学を出ているケースは少ないようだ。そのためか 優秀ではあってもなかなかアメリカの会社になじめないケースも多々あり、前述8 人の内6年後の今、残っているのは1人だけである。これらの人達は他の会社に 勤めたり、あるいは中国に戻った人もいる。

特に最近は、シリコンバレーの不景気のせいで、私の周りでも2人の中国人の 友人が真剣に中国に戻って(特に上海)そちらの新しい会社に入りたいと色々と つてを探しているのを知っている。上海あたりの新興会社はアメリカ育ちの中国 人か興したものがほとんどで、会社の仕組みがアメリカ方式(ゼロ・ストックオプ ションなど)、マネジメントは中国人なので安心できるのが魅力らしい。一方、高 校入学時にアメリカに渡って来て、その後アメリカの東部(MIT)か、西部(スタン フォード)などの有名大学に入り、会社就職後、両親もアメリカに渡ってきている ケースも少なからずある。このような場合はもちろんアメリカの会社に馴染むのも 早く、語学の問題も少ないので、出世のチャンスも高い。そのせいか中国に戻る 意思は無いようである。

日本も何か手を打たないと、中国が第2の経済大国になるのは時間の問題かと さえ思われる。もちろん韓国や日本の例で判るように一本調子で経済拡大が出 来るわけでは無く、その途上で金融問題や貧富格差やストライキなどが起こり、 これが命取りになることも有り得る。だが中国は、シンガポールみたいに先行し ている韓国や日本をお手本にすれば良く、これらの克服に韓国や日本ほど時間 が掛かる、ということも防げるわけだ。最大の問題は政治体制の変革であろうか? ロシアの例を見ても、なかなかこれは大変なことのようだ。日本はもっと簡単かと 思っていたのだが、なかなか政治体制を変えるというのは大変なことのようだ。

◆ インド系移民

シリコンバレーで一番多いのは何と言ってもインド人である。料理店の数を数え れば一番多いのがインド料理、そして次が中国料理である。シリコンバレーの目 抜き通りと言っても良いエル・カミーノ・リアル通り沿いのインド料理店は、私が 冗談で言っている「インディアン・コーナー」(ローレンス通りとの交差点)に4軒あ るのを始めとして、ちょっと車で走っただけで10軒は下らないだろう。私もインド料 理は大好きなのでこれだけあると、好みでいろいろなインド料理が食べられて、 インドに行く必要がないほどだ。   サンフランシスコにはこれだけの数のインド 料理店は無い。インド人の場合、ほとんどがインドの大学で学位をとってアメリカ に来るケースが多いみたいだ。しかしインドに将来帰るという願望は無く、持ち前 の算数に強く、人によっては記憶力が抜群(Photographic Memoryという)と言う 人が多いので出世も早い。インド人は大きく分けて北インドの人と南インドの人 では性格がかなり違うし、お金持ち出身かそうでないかでもかなり違う。私個人 の趣味では北インド人そして北インド料理の方がどちらかと言えば好きだが、南 インド人の友人もいるし南インド料理で好物のものもある。

◆ 日本人は?

残念なことに、今の会社には、日本人は日系人を含めて片手で数えるほどしか いない。もちろん日本法人には何百人もいるのだが・・・。アメリカに来て本社で 頑張ってみるということは、もはや何の意味も無くなっているのか、日本に何でも あるからわざわざアメリカに行く必要はない(観光旅行を除いて)と思っているのか、 私のような古い人間には理解しにくい国・日本人になりつつある。私からすれば、 何とも嘆かわしい次第だ。一体全体アメリカ無しで日本が成り立っていくのか、考 えたことがあるのだろうか。第二次大戦での教訓のひとつではなかったのか?

そのアメリカはどんどん変わっていく極めて動的な国であって、もしこの動きに付 いて行けないと、日本はこの世界最大のマーケットから撤退せざるをえなくなって しまう。ホンダやソニーなどはこの点をかなり前から理解していたようで、アメリカ の拠点は日本とほとんど同じ規模で、アメリカに本社を移すというような噂はアメ リカでも何度も出ているほどだ。日本企業のアメリカ支社の場合(逆も同じだが)、 会社の仕組みがアメリカ的な皮を被った日本式である場合が多く、アメリカ人には 馴染めないし、日本人派遣社員も何だかよくわからず、いわゆる総務部任せにな ってしまっている場合が多いと聞く。このどちら付かずは、極めて日本的であり、 はっきりさせないと優秀なアメリカ人ほど辞めて行ってしまい、会社によっては非 常に高い給料を払って雇う必要があったり、極端な場合、アジア系の従業員がほ とんどになってしまうというケースを、よく聞いたものだ。元日本企業のアメリカ人 社員がこの内幕を書いた本が結構なベストセラーになったことがある。
会社のウエブサイトが一般化するのに連れて、日本の会社でも企業文化(Corp orate Culture)をはっきり謳いだしたのは、非常に良いことだとは思うが、会社の Core Competencyについて打ち出しているところはまだ見たことがない。日本 の会社に入った30数年前、私のみならずほとんどの新入社員が疑問に思った のは、当時その会社は親銀行からの膨大な借入金を抱え、1%にも満たない利 益率であったことだ。当時の日本は高度成長期であって、売上の拡大のみが至 上目標であって、役員からも、利益率は問題外、借り入れは親銀行からなので 返済の問題は全く無いとの説明を受けて、何となく納得させられてしまって、そ の後モーレツに仕事をさせられる羽目になったわけである。つい最近、この会社 の、私が元いた事業部を分社化した。新社長の談話では、利益率の上がる体 質にしないと借入金無しには設備投資ができない、よって分社化して特定部門 に集中し、利益の上がる体質にするというものだった。私はこれを聞いて、唖然 とした気持ちであった。そして16年前この会社を辞めたのは、やはり正解であっ たと改めて思った次第である。

◆ アメリカ企業での雇用

話が少し逸れたが、アメリカで人を雇うのは日本とはかなり違うことは一部すで にお話したが、その選考過程もかなり違う。まず履歴書がぜんぜん違う。履歴書 (Resume)のトップには本人が何をやりたいか明確に書いてある。そして本人の 仕事の履歴だが、会社名だけでなくどの分野でどのような仕事をしたのか書い てある。そして参照(Reference)として本人の事について尋ねることのできる人 の名前(元の上司とか大学の教授など)が書いてある。選考の第一歩は、まず この履歴書を見て求人理由に適したと思われる人を電話でインタビューする事 から始める。この時アメリカ人かどうかわからない場合も多い。しかし何国人な のかとか、年はいくつかとか、家族はいるかとかの質問はできない。機会均等 (Equal Employment Opportunity)にひっかかるし、もし採用しなかったとき、 訴訟のネタにされる恐れもあるからだ。次に、実際に会って面接を行うが、面接 には部門内の同僚や関連部門の同僚を参加させ、普通は1対1の面接となる。 上司は普通参加しない。

面接の際は、あらかじめ質問内容が求人理由(具体的な業務の内容と責任範 囲が書いてある)を基に、各インタビューワーに手渡されており、かなり具体的な 業務に関連した質問をする。この質問に対する回答と各インタビューワーの感想 を基に雇用する人を最終決定する。給料は職務によって決まっていることが多い が、私が雇ったテクニシャンの時は、ボーナスとして1ヶ月分を渡すことで合意を 得た。もうお分かりの様に、ここでアメリカ人かどうか(ビザやグリーンカードは必 要だが)は採用の前提にはならない。もっぱら職務遂行能力を聞かれているだけ である。学歴は先に述べたように新入社員では非常に重要だがそれ以外では 職歴の方が重要視される。アメリカではこれ以外に一定比率で身体障害者やマイ ノリティーを雇う必要があるので、これに当てはまった部署では、これらの人が優 先的に採用される。又、政府が今後の各職種で不足すると思われる分野を認定 して、優先的にビザを発給して優先採用させることは古くから行われて来た。古く は医者が大量に移民して来たり、近くはハイテク関連の大学生や経験者に優先 ビザを発給したケースがある。このようにアメリカでは社会を構成する一員や業 界の必要度に応じて移民を奨励しているために、その分野の発展がそがれるこ とが少ないわけだ。

次回は語学力について


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