ユニバーサルデザインなどという言葉が出来るずっと前から日本にあったものの中に、これは、という優れた道具がいくつもあるが、今回は少し視点を変えてUD今昔物語。
裁縫と料理は、つい半世紀ほど前まで日本女性が身につけなければならない、必須の技能であった。というか、そのどちらかが人並み以上に出来れば何とか食べてゆけたのだと思う。着物は縫ったり解いたりして体に合わせたり、洗ったり、染め直したりすることが出来る素晴らしいシステムデザインで、和裁はそのシステムを活用するための基本的な技術でありソフトウェアだったから、生活上どうしたって必要だった。戦後世代が着物を着なくなっても、自分の洋服を自分で作るのは当たり前だったから、どこの家庭にもミシンがあって、カタカタ、ブンブン動いていた。ボタン付けやちょっとした繕い物は相変わらず針と糸を使っての手縫い仕事だったし、こればかりは今でもそうだと思いたい。話はそれるが、近年のおびただしい数の放置自転車の中には、パンクしたり、空気が抜けてしまったタイヤを直すのが面倒だからとそのまま捨てられたものが少なくないというから、ボタンが取れてしまったからと捨てられるシャツがないとは言えないのだ。縁側の日なたに座って縫い物をする年配の女性は絵になるが、考えてみるとよく針の穴に糸が通せたものだ。
若い時はともかく、年とともに特に小さなものは見えにくく、指先だって安定しなくなるものだ。何か秘密の道具を使っていたに違いない。どうやらスレイダーという糸通しがそれらしい。しかし、実際に使ってみるとその細い針金を針穴に通したり、通した針金の隙間に糸を通したりする作業はやはりなかなか楽ではない。ところが、このらくらく糸通しなら、針を差し込んで糸を糸かけに掛けてレバーを押すだけ、正にワンプッシュで糸が針穴に通ってしまう。いつごろからあるものか不明だが、これがあれば針仕事に定年はなさそうだ。
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