ごみの分別効果を高めるために、プラスチックのごみ袋が黒や青から透明なものに変わったあたりから、中身を他人に見られるのではないかと、やたらに気を使うようになった。あそこのうちでは毎週ピザの出前を取っているなどと近所でうわさされるのも煩わしいが、分別し損ねた不燃ごみが混ざっていたと管理人に注意されたという話を聞いたりすると、どこまで見られているやら不安になるのである。まして、高齢者を狙った詐欺がはやるせいで、悪意を持って情報を集めている輩がいるかもしれないと疑いたくなるではないか。
そんなわけで、個人情報の管理には必要以上に気を使わなければならなくなった。特に住所氏名が記載されたDMや金額が記載されたレシートや請求書などは気軽にそのまま捨てられないので、処置に困る。だからと言って一枚一枚はさみで切り刻んだり、墨やインクで塗りつぶしたりするのは手間がかかってかなわない。
この問題は多くの人にとっての共通の悩みだと見えて、最近では、一度で何枚かの短冊のように切ってしまうはさみとか、穴をたくさん開ける器具とか、さまざまな道具が開発されている。しかし、力やコツが必要だったり、推測できるほどの情報が消え残ってしまったりして、一長一短である。
この「ケシポン」という個人情報保護専用に開発されたスタンプは、印刷された住所や氏名や金額の上から、ランダムに並べられたアルファベットのスタンプを押すことで文字や数字を読めなくしてしまう。文字と文字の間に隙間があるから隠し切れていないはずなのに、黒ベタのインクで消すより読みにくくなるから不思議だ。個人情報を消すための道具の中では今のところ最も手軽で効果的だろう。細かい文字が苦手な高齢者や細かい作業ができない子供でも、これなら実に簡単だ。ゴム印でいたずらするような感じで、ペタンペタンと不安の種を塗りつぶしてゆくのは痛快だ。
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