寝たままの人に水などを飲ませるのに使う、注ぎ口の細長いを持った「吸い飲み」と呼ばれる容器がある。あれが枕元に置いてあるだけで、だいぶ病人らしく見えるものだ。お茶でも、牛乳でも、あの容器に移し替えた途端に病人食になるから不思議だ。あの道具がいつ頃作られたものか知らないが、私の知る限り、その形は昔から基本的に変わっていない。
一方、世の中は気がつけばペットボトル全盛期。そのおかげで、ちょっと前までは決して褒められた姿ではなかったラッパ飲みがすっかり定着してしまった。講演会や会議などでも水やお茶のペットボトルが配られるので、講師も議長も参加者もペットボトルをくわえて飲んでいる。それなら、寝ている人もペットボトルで水を飲めばよさそうなものだが、実際にやってみるとこれが結構難しい。上体をある程度起こさない限り、シーツも枕も着ているものも、びしょびしょになるのがオチだ。
ところが、このシリコン製キャップを使うとそれが難無くできる。ペットボトルの口にはめると逆さにしても中身が出ないから、無事に口まで持ってこられる。軟らかいシリコン製の吸い口を優しくかむようにすると、注ぎ口が開いて少しずつ口に飲み物が入ってくる。一気に流れ込むことがないのでむせることもない。
ペットボトル時代の新しいスイノミともいえるこの道具、今までの吸い飲みのような暗いイメージがないのが良い。元気なお年寄りがウォーキングしながらスポーツ飲料を飲むのにも便利だし、ふたを開ける必要がないので、渋滞中のドライバーの気分転換にも安全だ。夜間の水分補給のために枕もとに置いておくなら、コップにはめるタイプもある。うっかり倒しても中身がこぼれる心配がない。
しかし、いくら便利だと言っても会議の席上、皆でチュウチュウ吸っているというような風景は勘弁してほしい。 |