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世界IT事情

第1回 インド、ニューデリー発 「IT大国は、ネット発展途上?」

道具は同じでも、使う人が違えば、その反応も違うもの。今月から登場した「世界IT事情」では、世界各国のお国柄をご紹介しつつ、人々のITとの関わり方を、生活者の視点でご紹介していきます。 今月はIT大国と言われるインド、ニューデリーからです。

「IT大国は、ネット発展途上?」
窓からケーブルが伸びてきた!

インドで生活をする私だが、ことあるごとに日本の友人などから「インドはIT大国だからそのヘンは進んでいるんでしょ」という、お決まりの勘違い発言をされる。そのヘンとは、主にネット事情の事。どうやら「IT大国」と聞いて漠然と「=ネット事情が進んでいる、快適」と思うらしいのだ。現実はというと、インドのネット環境は本当にひどい。首都に住む私のネットの速度は60kbps(mbではない)に満たないのだ。日本では「ちょっとあり得ない速度」であろう。娯楽の少ないインドでの生活を日本の友達にグチったりすると「最近『YouTube』にハマってるの。面白いよ、ヒマなら見てみて」と言われるのだが、こんなネット環境では『YouTube』なんか見られたもんではないのだ。5分程の動画に20分くらいの時間をかけてダウンロードしたあげく、エラーになったりするのがオチなのだから。

写真1

ケーブルだかツタだか何がなにやら!

そんなお粗末なネット事情の上、インドの仕事文化というのは、非常に大らかというか大ざっぱというか、日本人の几帳面さを実感させてくれる国なのである。ほとんどのプロバイダは、個人宅にインターネット配線など行わず、タコ足配線状態。日本の読者には想像がつかないかもしれないが、「専用配線をしてくれなければあなたの会社のネットは使わない!」と強く言い張らない限りは、どこからかLANケーブルが延びに延びてきてモジュラージャックがいきなり窓から差し込まれるのが、インターネットの「配線工事」である。つまり、縁もゆかりもない5人くらいのユーザが、どこかにある1台のモデムをいつのまにか共有させられているのだ。

インドでは日本と違って固定IPアドレスが一般だが、プロバイダが同じIPアドレスを複数のユーザに配布する事も「普通」。繋ぐと切れる、繋ぐと切れる、この繰り返しで最近ではすぐに「あ、同じIPアドレスの人が今、どこかでネット繋いでいるな」と分かるのである。私がネットを繋ぐとどこかの誰かのネットが切れ、その誰かがネットを繋ぐと私のネットが切れるのだ。大げさでなく、私は平均して5日に一度はプロバイダに文句の電話をしている。ちなみに電話して文句を言うとどうなるかと言うと、違うIPアドレスをくれるのだが、それもまた、「今現在はネットに繋いでいない」他の誰かのIPアドレスである事は言わずもがなである。そんな状況なので、私のIPアドレスも頻繁に変わっている。その他、「誰かがケーブルを200mも切断してしまった(その目的は読者のご想像にお任せしよう)」などという理由でネットが1日繋がらないなど日常茶飯事であるし、そこらへんの樹木の枝にバサっと掛けてあるだけだったりするケーブルにカラスがとまっていたりと、何かにつけ些細な原因でいとも簡単にネットが繋がらなくなる。

IT大国は電気なくしてはならず

そして、これらの事情に更なる追い討ちをかけている物事がある。それは電気不足。特に首都ニューデリーでは深刻な問題で、夏ともなれば毎日である。いつでも停電を覚悟しておかなければならず、酷暑期には一日8時間の停電などというのも珍しくない。当然、停電中はネットも繋がらないため、元来ズボラであったはずの私に、「締切りの最低一日前までには原稿を送信する」クセがついてしまった。去年インドのバンガロールで行われた、サッカーのインド対日本戦での停電事件を覚えておられる方も多いだろう。

写真2

電力よりもまだまだ人力?

電車のチケット予約には数年前にコンピュータシステムが導入されたのだが、これについても、「今、停電中だから」と長蛇の列のまま待たされた事が何度もある。電気なくしては、ITどころではないのである。

インドが「IT大国」と言われるのは、ソフト開発が盛んで、経済的に急成長を遂げているためである。「ハイテク都市」と呼ばれるエリアにしても、「ハイテク機能満載」なのではなく、IT企業が集まっているというだけに過ぎない。国民の多くは、まだまだITとはあまり縁のない生活を送っているのが実状なのである。
インドが急激な変化を遂げているのは確かで、インターネットをめぐる状況も刻々と変化していくだろう。ただ「IT大国」と言われてイメージされるような、充実したITの環境が整うまでには、まだそれなりの時間を要するだろう。

プロバイダの仕事ぶりにしても設備環境にしても、インドのこんな状況は日本のユーザには許されないだろう。だが一息置いて考えてみると、論理的思考が得意で理数系に強いインド人の頭脳が、一方では大変にのん気で日本では考えられないような「ゆるさ」を容認しているというのは何とも人間的で魅力と思えるのだが、いかがだろう。ああ、私としては日本から離れて暮らすにあたって、せめてスムーズなネット環境が欲しいのである。

特派員プロフィール

冬野花(ふゆの・はな)
2004年夏よりニューデリーに単身在住のフリーライター。インド国内を旅行して、ヒンディー語を使っての現地の暮らしで体験する事、感じる事を、ブログ「心の暴風警報 in INDIA」にて発信中。

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