「鉄の女」と異名をとったマーガレット・サッチャー政権後期1986年から90年にかけてイギリスでは、それまで国営だった水道、ガス、電気などの公共事業の民営化が進んだ。現在でも、スコットランドと北アイルランドのみ上下水道事業は国営であるが、その他の事業はすべて民間企業によって営まれている。
ガス、電力会社は全国に20社ほどの会社が競合しており、ほとんどの会社が電気とガスの両方を供給している。イギリスでは、別の鉄道会社の電車が同じ線路上を運行している場合があるのだが、ガスや電気も、どの会社から購入しても同じ電線やガス管を使って送られてくる。
そんなイギリスの住宅街では、会社の身分証明書を首からぶら下げたガス、電力会社のセールスマンの姿を見かけることが珍しくない。同じガス管や電線から、同じガスや電気が送られてくるのだから、品質を売りにすることは難しい。だから各社はガス、電気両方の購入者には料金割引の特典をつけたり、セールスマンは、他社に比べ自社の新料金がいかに安いかを各戸に営業しているのだ。
けれども消費者だって賢い。ガス、電気料金の比較サイトで各社の最新料金を比較し、より安い料金を出している会社に乗り換えている。
近年は、ガス、電力会社の方も、料金の割引を条件に顧客に自己申告のメーター読みを依頼し、インターネットの専用サイトで入力してもらうという試みを始めた。これによって検針を減らし、コスト削減ができるというわけだ。
一方、水道会社は各地方に一社の独占なので、現在も水道事業が国営で、水道料金が無料という北アイルランド以外では、居住地の会社と契約を交わさねばならない。
北アイルランド以外の地方でも、水道料金を割安に上げる方法がないわけではない。家のサイズにもよるが、イギリスの水道料金は水の使用量にかかわらず一家庭にいくらという固定料金なのである。つまり、使えば使うほど水は割安になる。大きな庭のある家や風呂好きの大家族も水を使い惜しみする必要はない。
ところが、近年、水道会社各社は水の使用量を自動で測定するメーターの取り付けを奨励し始めた。その場合、使用量に応じた水道料金を支払うことになる。メーターの取り付けは強制ではないので、水の使用量の多い大家族の家庭は従来通り、水の使用量の少ない小家族の場合にはメーターを取り付けると水道料金は割安になるはず。ただし、事前に自分の家で使っている水道使用量を的確に把握し、水道料金を試算してみる必要がある。なぜなら、一旦、取り付けられたメーターは取り外すことができないからだ。
ちなみに、電気・ガスの使用料を自己申告制に変更した我が家は、検針係に土足でキッチンに踏み込まれ、足跡を掃除する回数が減ったので、その点でもとても助かっている。
ギブソンみやこ(ぎぶそん・みやこ)
在英20年。イギリス暮らし、教育、観光情報などを現地から発信するフリーライター。
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