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かしこい生き方を考える COMZINE BACK NUMBER
かしこい生き方のススメ 第1回大島希巳江さん
営業成績とユーモアのセンスは比例する
 

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まずはコミュニケーションにおけるユーモアの役割は何だとお考えですか?

大島

一言で言うとやっぱり潤滑油ですね。コミュニケーションを一層スムーズにするものです。
ユーモアは、相手によりよく話を聞いてもらうためのスパイス、香りづけもできるごま油のようなものです。自分が笑った状態というのは記憶に残りやすいので、普通に言うよりはメッセージをより強烈に伝えることが出来ます。
そういう意味で、大事なことこそユーモアを交えて言ったほうが相手に伝わりやすいし覚えていてくれるという効果があります。それに、面白い話のほうが長時間聞いていられるし、質問もしやすいものです。
私は大学で90分の講義をしますが、学生がその時間ずっと集中するのは基本的に無理です。だから、授業では3回くらいは笑わせるように準備していきます。

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今、会社を辞めるときの一番の理由は「人間関係」だそうです。コミュニケーションの齟齬だけが原因というわけではありませんが、もっと意志の疎通ができたらと感じているビジネスマンは多いのではないでしょうか?

大島

海外でももちろんそういう人がいます。そんな風にコミュニケーションがうまく行かない人は、ユーモラスな小物を使ったりするんですね。
例えば、比較的地位が高く、普通にしていても仏頂面なので、部下からは話しかけにくいと思われている人がいました。それに悩んでいた本人は、自分の机の上に「猛犬注意」という札を貼ったそうです。それによって、周囲の人には「あの人はおっかない顔しているけれど、そう思われていると本人も分かっていて、それを残念がってるんだな。しかもあんな札を貼るところを見ると、そんなに堅物でもないんだな」というメッセージが伝わったわけです。こういうのはなかなか良いアイデアだと思います。
この「猛犬注意」のように自分をネタにした笑いは、日本人にも受け入れやすいはずです。馬鹿な話、例えば自分の失敗話をすると相手が安心してくれる。人間って対抗意識とかプライドのようなものがあるから、最初からあなたより上よと優位に立とうとすると、すごくタイトなコミュニケーションになってしまう。だけど笑える失敗話から始めると、気楽な気持ちになるんですね。

「笑われる」のではなく「笑わせる」

大島

でも実際には、自分の欠点や失敗話を言える人のほうが能力が高いんですよ。自分のだめなところを言えるというのは、欧米では自信の裏返しと見られている。どうぞ私の欠点を笑ってちょうだい、でも私は他にこんなに自信のあるところがありますよ、というわけです。
「人に笑われる」のと「人を笑わせる」のとはまったく違うことです。「笑わせる」というのはサービス精神の一つですから、すごく前向きなことで、欧米ではユーモアがないとサービス業は絶対に出来ないと言われています。サービス精神のある人には必ずユーモア精神が宿っている。

ユーモアを知っている営業マンは成績が良い

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ビジネスにおけるユーモアの効用を証明するようなリサーチをされたとのことですが、お聞かせいただけますか?

大島

ある生命保険の営業の方100人くらいに調査をしました。アンケートではお客さんを笑わせる努力をしているとか、お客さんと話す時に常に1回や2回は必ず笑わせているとか、そんなことはしない、とかを5段階で選んでもらいました。結果から言うと、お客さんを笑わせる努力をしている人のほうが圧倒的に営業成績が良い。はっきりとグラフに出ました。商品の知識があることや時間を守るというビジネスマンとしての基本を備えていることは大前提ですが、それにプラスして、笑わせようというサービス精神を持っていることが深く関係しているということです。
その中でも、ユーモアに関心がある何人かにインタビューしたら、例えば「自分通信」みたいなものを作っている人がいるんですよ。中身は、冬だったら風邪をひいたら生姜湯がオススメとか言ってレシピや手書きのイラストがあったり、居酒屋トークに使える雑学なんかがあるんです。それを毎月書いてお客さんに配っているんですって。それで、彼の印象というのはすごく強められる。今どき手書きなんですが、その方がアットホームな感じがするって評判が良いそうですよ。
こういう遊び心があることをやっている人の方が圧倒的に成績が良くて、ユーモアはビジネスに全く関係ない、という人は成績が低い。でも本人達はその関係に気付いていない。日本では今のところ、ユーモアの効果というものは良くも悪くも無意識なんですよね。逆に言えば、意識的にやることである程度の効果はあると思います。

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海外には「ユーモアコンサルティング」というビジネスが存在するという話を聞いたことがありますが、ということは、ユーモアというものはあとから意識して身につけることができるということですね。

大島

そうですね。コミュニケーションの一つの技術くらいに思っても構わないと思います。根本的に性格がおもしろい人間ではなくても、出来ることです。先ほどの「猛犬注意」の例でも、人格は変わっていないけれども、それを置くだけで周りの対応がすごく変わります。だから欧米の人は意識的にやるわけです。アメリカの大統領だって、スピーチのときには必ずユーモアの専門家をスタッフに入れている。ユーモアのコンサルタントはビジネスコンサルタントなんです。

こんな例があります。
車の修理屋さんで、男性のお客さんは修理する様子をずっと見たがるそうです。でも、修理屋さんは邪魔だからそれをすごく嫌がる。そこでユーモアコンサルタントが、料金表の看板を提案したんです。レギュラーは1時間45ドル、お客さんが見学する場合は1時間60ドル、いくつか続いて最後に、お客さんがお手伝いする場合は百何十ドルって高くなる。もちろん冗談ですが、そういう料金表を貼っておくと、お客さんは「邪魔だから帰ったほうがいいんだな」と察して出て行ってくれる。
もうひとつ。クレジット会社で支払いをしてくれない顧客がいる。何度督促状を送っても埒が明かない。そこで請求書にこんな一文を載せたそうです。
「僕はコンピュータです。あなたが支払いをしていないのは、今は僕しか知りません。でも10日以内に支払ってもらえない場合は、人間に言いつけます」。
このクレジット会社では支払い率が90%向上したそうです。
ご存じのように顧客対応っていうのは難しくて、クレームに対してうまく対処しないと怒らせてしまうことになりかねない。それをちょっとユーモラスに、お客さんが苦笑いして受け入れてくれるようなやり方をすれば、お客さんとの関係もうまく保ったまま、こちらは面倒を避けられるという効果があります。ユーモアがビジネスに役立つという分かりやすい例ですよね。

持ちネタを身につけろ!

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ただ、私達が今すぐにユーモアを取り入れるのはちょっとハードルが高いような気がします。こういうことからスタートしてみたら、というアドバイスをいただけませんか?

大島

そもそも話すことがあまり得意ではない人に、いきなりおかしなことは言えない。だから小物を使う、小物に工夫をすることは悪くないと思います。
例えば、私はアタッシェケース型の名刺入れを持っていて、それを出して名刺交換をするだけで、「それ、面白い形ですね」と話のきっかけが生まれます。
もう一つは、「持ちネタ」を用意しておくこと。自分が失敗したとかいった面白い話を用意しておいて、その話だったらとりあえずすらすら話せるように暗記してしまう。技だから多少誇張があってもいいんです。みんなが興味を持てるような、この話をすると必ずみんながエーッて言うような話、私はそれを「自分エピソード」と呼んでいるんですが、それをいくつか用意しておく、ということを第2ステップとして提案しています。

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大島先生は、英語で落語を演じるという活動をなさっていますが、どんなものか簡単にお話しいただけますか?

大島

英語落語は97年頃からやっています。コミュニケーションには笑いとユーモアがあったほうがいいというのを国際学会で発表しようとしたら「でも、そもそも日本人ってつまらない人種じゃない?」と周囲の外国人に言われたんですよ。それで、日本人の面白いところをガツンと見せてやらなければ、それには落語だ! と思ったのがきっかけです。
コミュニケーション研究の点から言うと、日本文化を伝えるのに非常に役立ちました。真面目くさって日本の習慣を解説しても外国人には「変な習慣」と反感を買うこともある。それを落語みたいな面白おかしい話でやるとゲラゲラ笑いながら、日本人ってそうなんだと覚えて帰ってくれます。しかも嫌悪感を持たないで聞いてくれるんですよね。例えば日本人がラーメンやうどんを音を立ててズルズル食べるのも、他の文化ではものすごく嫌がる。けれど落語でそれをやると、食べてもいないのによくそんな音が出るなとみんな大喜び。笑いながら聞いていると大らかになっていて受け入れ方が違うんですよね。
欧米ではユーモアとか笑いを持っていることが大事とされていて、それが日本人にはないと思われていたから、日本人は面白いし、ユーモアをないがしろにしていないんだ、ということを分かってもらえてすごくよかったと思っています。

インタビュア 飯塚りえ

大島希巳江(おおしま・きみえ)
1993年コロラド州立大学ボルダー校卒業。国際コミュニケーション修士。教育学(社会言語学)博士。現在は文京学院大学外国語学部英語コミュニケーション学科講師。
専門分野は、異文化コミュニケーション、ユーモア学。NHK国際放送局で「Hello From Tokyo」にレギュラー出演中。著書に「世界を笑わそ!Rakugo in English」(研究社)、「知ってる単語で英会話!」(ジャパンタイムズ)など。
1997年より英語落語のプロデュースを手掛け、以来現役の落語家とともに毎年国内外で英語落語を「巡業」公演している。
撮影/海野惶世 イラスト/小湊好治 Top of the page

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