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良い仕事は自分の仕事をすることから始まります 第7回 西村佳哲さん 働き方研究家


良い成果は目的ではない
 

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「働き方研究家」とはユニークな肩書きですね。西村さんが働き方の研究を始めようと思われたきっかけとは?

西村

「働き方研究家」と名乗ったのは、1995年に『アクシス』という雑誌で「Let's work」と題した連載を始めてからです。
僕はもともとデザイン畑の人間なんですが、それまで日本は、住宅にしても衣服にしても外国にあるものをとても上手に模倣して、「ここのパーツとあっちの部品」という形で取り込んでやってきました。でも、今それが飽和点に達していて、いよいよオリジナルを作らなくてはいけないという時期にきたわけです。
それで、さてデザインの参考にしようと手に取った、いわゆる「デザイン誌」には「デザインされ終わったもの」しか載っていない。ですが、そういう時に必要なのは、素晴らしい作品なり最終成果物が、どういったプロセスを経て生まれてきたのか、つまり「どういった働き方から生まれてきたのか」を知ることだと思ったのです。それで、いろいろな方の所に行っては「働き方」についてお話を伺うようになりました。

 

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皆さんにインタビューされている中で、どのようなことが見えてきましたか。

西村

二つあります。一つは「やり方が違うから結果が違う」ということです。例えばグラフィックデザイナーの八木 保さん(*1)の場合は、スタッフに色の指定をする時の方法が違います。普通は、印刷用の色見本の中から「この色を使おう」と考えるのですが、彼のスタジオでは、外に出かけて拾ってきたものを参照しながらデザインするので、当然アウトプットされるものも違います。スタジオの外に、無限のカラーパレットを持っているような感じです。
柳 宗理さん(*2)からはスケッチを描かないと伺って、インタビューの最中に面食らいました(笑)。スケッチというのは、デザインする上でアイデアを固めるためのものでもあるわけですから。
そしたら手近にあった紙をいじりながら「こうやって作るんだよ、その場で」とおっしゃって。最初に形、つまり模型を作りながらイメージを固めていくということなんです。なるほど、そういうものかと思いました。 
「やり方が違うと結果も違ってくる」というのは、インタビューの前から自分でも分かっていました。恥ずかしい話ですが、僕が美大生だったころ、制作の課題がありました。何か作らなくてはいけないけれどできない。提出日直前に徹夜しながら作業をするわけですが、夜中に煮詰まって台所に行っては、お腹が空いているわけでも、のどが渇いているわけでもないのに冷蔵庫を開けている。自分でも「ああ、また台所に来ちゃった」なんて思ったりして。その時に「こんなやり方の中から、美しいものや、人の背筋がすっと伸びるものが生まれてくるはずないな」とは気付いていました。

もう一つこんな事もありました。ある本に「良い成果というのは目的ではないし、目的になり得ない」って書かれていたんです。「えっ?」と思いました。良い成果は、うーんって唸って出すものではなくて、良いやり方をした結果、自然と生まれるものなのだと書いてありました。つまり、「やり方が違うから結果が違う」の別バージョンです。そんなこともあって、いろいろな方の働き方についてお話を伺ったんです。行ってみたら本当に違いました(笑)。


二つ目に見えてきたのは、良い仕事をしている方々が「他人事の仕事」をしていない、「自分の仕事」をしている、ということです。工業社会、なかでも日本は特に、個人や国の仕事をどんどん外に出していった歴史があると思います。個人なら外食したり衣服をクリーニングに出すといったこと。国ならインフラ整備とか、今なら郵政民営化の動きもそうです。それら両方にあった多くの仕事をその枠の外に出して、それを企業がこなしているわけです。つまり企業には「よそさま」の仕事が集まってきたという構造があります。では仕事を外に出したはずの個人は、余った時間で何をしているかというと、会社に行って他の人のための仕事をしている。あくまでも一般論としてですが、顔の見えないどこかの誰かのための、もしくは自分にとって必要性や差し迫った感覚がないものを「仕事だから」という流れの中で行わなくてはいけない状況があると思うんです。

(*1)八木 保:ファッションブランド『エスプリ』のデザインディレクターを経て海外でも広く活躍するグラフィックデザイナー
(*2)柳 宗理:工業デザイナー。代表作に「バタフライツール」。東京湾横断道路のゲートデザインなども手がける。

自分を位置付けるメディア
 

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会社の中にいながら他人事の仕事をしないためには、どうしたらいいと思われますか?

西村

自分が社会に存在している意味がある、価値がある、そういうことを実感できないままに生きていることはつらいことですから、皆それをいつも感じられるチャネルを探していると思いますが、「仕事」はそうした人とのつながりや社会の中での役割といったものを与えてくれる重要なメディアなんです。
そういったものが満ちている空間がオフィスだから皆、会社に行く。しかし会社側の売り手市場になってしまうと、そこには一種の依存関係が生まれてしまう。多くの人は会社に能力を売っていると思っているかもしれませんが、実は仕事が必要なのは社会とのメディアを必要としている自分なのだ、会社には自分を満たすための仕事を「買いに」行っているのだと思います。
そうした中で自分の能力をはっきりさせて、依存性があるという構造に意識的であることが、まずは大事なことではないでしょうか。

 

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実際、企業の中で素晴らしい仕事をしている方は多くおられます。

西村

彼らは自失していないと思います。自失している人としてない人との間には、大きな違いがあります。分かりやすい例を挙げれば、自失している人は「そういう決まりです」とか、「そういったことは前例がないんで」とか、その人自身の考えを全く言いません。それでいて、国や会社の文句は言う。文句を言うってことは、それに対して期待しているということですが、本来期待すべきは、国でも企業でもなく、自分自身だと思います。

 
答えは自分の中にある

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マネージメントという側面になってくると思いますが、結局は皆が「自分の仕事」と考えてできるようなモチベーションが大切だということですね。

西村

日本では、小さいころから「あなたの知らない正解が、あなたの外にあります。その答えをちゃんと出せるようになって下さい」と言われてきた側面があります。学校でも12年以上、その反復練習がなされます。そうした思考習慣が大人になっても残っていて「正解は自分の外にある」と思ってしまうのかもしれません。今、読まなくちゃいけない本はどこにあるのか、今のトレンドは、などなど、全部自分の外に正解があると思っていますが、そんな自分を意識化して、個人が自分の「間尺」で動くことができれば「答えは自分の中にある」と分かると思います。
それは企業も同様です。無我夢中で何かをやっていればいいだけの時代は既に終わって、これまでの方法を0(ゼロ)リセットして、今までとは違うところでやり方を考えなくちゃいけないところにきています。
企業が、商圏やマーケットはもちろん、それをどうやって作るのかといった働き方のレベルを含め、自分の足元を見直すことにエネルギーを使えるようにならなくては、と思いますね。

 

インタビュア 飯塚りえ
西村佳哲(にしむら・よしあき)
1964年東京生まれ。プランニング・ディレクター。武蔵野美術大学卒業。つくる・書く・教える、3種類の仕事。建築分野を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物など、各種デザインプロジェクトの企画・制作を重ねる。多摩美術大学などいくつかの教育機関で、デザインプランニングの講義やワークショップを担当。リビングワールド代表。全国教育系ワークショップフォーラム実行委員長(2002年〜)。働き方研究家。
撮影/海野惶世 イラスト/小湊好治 Top of the page

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