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「お役に立てたという精神的満足は現役時代には味わったことのないものです」 第8回 大貫義昭さん 経営支援NPOクラブ理事


自分が持っていたもの、経験したものを社会に還元したい
 

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こちらの活動を知って、素敵だなと思って今日伺った次第です。まずは、会の設立のきっかけを伺えればと思います。

大貫

この会の設立は、2002年6月25日、三井物産のOBが中心となり設立しました。
三井物産の23階には、卒業、つまり退職間近の人が集まる部屋がありまして、そこで卒業後はどうしようかと、現副理事長の戸田さん含め、4、5人と話していました。ベンチャー企業を興すことも考えなくはなかったんですが、それでは今までと同じ営業会社を作るだけです。それよりも何か社会に役立つことができないか、我々の中に蓄積されたものを生かして中小企業などのお手伝いができないかというわけで、経営支援のNPOをスタートしたんです。

 

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基本的に、支援には交通費など、実費以外取らないと伺っているのですが、そのスタイルは現在も同じでしょうか。

大貫

そうです。支援活動は、NPO精神に基づいて無料で行っています。メディアなどから情報を得て、飛び込みで来られる方が、これまでの約1年間で100社くらいになったでしょうか。こういう方々からはもちろんお金はいただきません。
それとは別に、中小企業を支援しようという取り組みを行っている行政関係から依頼があります。我々はそうした官公庁と委託契約をして、中小企業支援を行っています。
財源としては、このほか、会員が払う会費とさまざまな企業からなる賛助会員(現在35社)からの援助です。

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会社時代と今とで、大きな違いはどのようなことでしょう?

戸田

基本的に、会社勤めをしていたころは、収入を得るために仕事をしていたわけです。今は、それとは、完全に離れた環境です。
NPOに参加したのは、自分の収入を得るためではなくて、自分が持っていたもの、経験したものを少しでも社会に還元できればという思いがあったからです。そうしたものが、少しでも誰かのお役に立てれば良いと思ったのです。私どもの会員は、そういう動機を持っている人達ばかりです。

 

大貫

カッコいい言い方かもしれませんが、奉仕の精神がないと成り立たない組織です。働いたものに対する見返り、つまり精神的満足が大きく占めているわけです。

 
お役に立てたという達成感
 

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現役時代には、そうした満足感はあまりなかったものなのでしょうか。

戸田

私の場合は、あまりありませんでした。そういうことよりも、注文が取れた、今月はこれだけ儲かったといったことが満足でした。それが今は「ああ、お役に立てた」という達成感があるんです。

 

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メンバーの方々は、どんな方が多いのでしょうか。

大貫

立ち上げ当初は、三井物産の出身者が大半でした。スタート当初のメンバーは18人ですが、その後、参加者が増えて現在は96名。うち、三井物産出身者が40%くらい。それ以外の方々はあらゆる業界から集まっておられます。

 

戸田

面白いのは、一人で考えるよりも、会員が5人で集まって考える方が、ものすごい知恵が出ること。皆、現役時代に手に入れたいろいろなポケットを持っているので、妙案が出てきます。
活動当初は、相談内容によって、会員の中から専門家を1名選ぼうとしていたんですが、いろいろな角度から検討した方が効果的だということが分かりました。

 

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最近の相談事例を教えていただけますか。

高橋

例えば栃木県が、県下から100社のフロンティア企業を選出し、冊子を作って県内外に配布するという事業を行っています。その際、我々にその審査をしてほしいと連絡があったんです。
簡単に考えていたのですが、いざ書類がきたら各企業ごとに数十ページの資料がある。コピーを取るだけでも大変でした。それにランク付けをしようというのですから、てんやわんやでしたが、12、3人程度会員を集めて、10日くらいで全部にA、B、Cのランクを付けてしまったんです。この時は「これはすごい会だ」と思いましたね。

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メンバーの方の専門分野は主にどのあたりが多いのでしょう?

戸田

まず全部ですね。ITから生活産業、金融、科学技術などなど、カバーしてない分野はほとんどないでしょう。

大貫

管理部門に関しても、財務・経理・法律・人事など、すべて専門家がいますから。先の企業選定の時も、講評会に出席して思ったのですが、全部の分野をカバーしている人間というのはいないんですよね。私は、会員の方から伺っていて知恵が付いていたので、何かと意見を言わなくてはならず、大変でした(笑)。

 
 

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そういう集まりというのは、普通の会社の組織にはなかなか難しいあり方ですね。

戸田

メーカー出身の人がいて、新聞の論説員をしていた人がいて……、なんて、そうそうたる経歴を持った人達が、一度現役を退いて、新しい生き方で社会に参画している。そういった集まりなんです。

 

大貫

NPOが生き続けるためには、結局、会員がどれだけビビッドに生きていくかどうかということです。参加しているのに、一度も声が掛からず出動率がないと、自然脱会してしまいます。他のNPOでもそういった問題はあるのではないでしょうか。

 
社会の役に立つとともに、自分も迷わずに生きられる

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現役を退いて、悠々自適な生活を送るためのいろいろな条件が整っている方でも「じゃあこれから何をしたらいいだろう?」 と考え込んでしまう方もいらっしゃると思います。自分のあり方と社会とのかかわりというのは、大きな意味を持ちますね。

戸田

まさにその通りです。この会の平均年齢は65歳くらい。この世代というのは、高度経済成長期を経て、会社人間として猛烈な時代を過ごしてきました。だから、家庭人としてのあり方が分からないんですよね。私など本当にそうです。
この会は経営支援を目的としていますが、もう一つリタイヤードした方がこの会に参加することで、もう一度社会に参画するという目的があります。
リタイアした後、粗大ごみになってしまう人もいるでしょうし、何かの形で社会に参画する人もいる。それが私達にとっては経営支援ということだったのです。報酬は伴わないが、参画することに意味があるのだと思います。

 

大貫

私はよく「リタイアした時に、精神的に路頭に迷ったらだめだ」と言っています。そのためには、生き甲斐を何か持たなくてはいけない。そういうものがないと、路頭に迷ってしまう。そうはならないようにと、自分自身も肝に銘じていました。

 

戸田

これから年寄りになる団塊の世代の方々も、やはり将来、会社を卒業するわけです。その時に、何をやるかを今のうちから考えておいた方がいいぞ、とアドバイスしています。ただ漠然と卒業しても、応用問題が解けなくなってしまいます。

 
 

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今後の会のあり方をどのようにお考えですか?

大貫

どのように組織を継続させていくか、また、会員の方々の新陳代謝がどう行われるかということが課題だと思っています。だから会社の卒業生を勧誘するばかりでなく、2、3年後に卒業する人達にもメッセージを届けたいと思っています。
もう一つが、個人的な理想ですが、事務局を運営する人達には、妥当な生活費を出せるようにしたいと思っています。そうすれば、雇用問題にも貢献するわけですから。アメリカのNPOなどは、失業率改善のために、州とNPOが協力して人を雇っています。寄付金の制度と税制の問題が違うからできることではあるのですが。

 

戸田

もう一つ活動を通じて期待しているのが、社会復帰という点です。例えば能力のある会員の方がいらして、ある企業とその人と、個別にコンサルタント契約を結びたいというお話があります。これは、実際にいくつか事例がありますし、人材の活性化にもつながります。
会員が人のお役に立てていることと、会員が社会に参加すること、これが両輪となって回っていかなければいけないと思います。最近、ようやく回り出した感じがします。
まだ結論は出ていませんが、当初予定していたより繁忙を極めているというのは、経営や事業のご相談という仕事について、やはり社会的ニーズがあるということなんだろうと思います。「かゆいところに手が届く」という慣用句がありますが、私達は一人相談にお見えになったら、3、4人が輪になってがやがややってますし、後ろからも手を入れてかくくらいですから(笑)。

 

大貫

今後、NPO同士の提携なども考えていきたいですね。最大公約数的な価値観というのがあって、それに一緒に向かっていけたら……。細かなところはもちろん異なるでしょうが、こうした活動の輪を広げていきたいですね

 

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ご家族の皆さんは何とおっしゃっていますか?

大貫

非常に喜んでいます。今は、忙しくなりすぎたことをちょっと懸念しているようですが。家の用事もないことはないですからね(笑)。
でも、こうして社会に参加しているから、皆元気でしょう? それは評価していると思います。顔色が違うんだと思います。頭の回転も良くなるし、有酸素運動もできている(笑)。きっと、長生きしますよ。

 

左から大貫氏、戸田氏、高橋氏

 

インタビュア 飯塚りえ
大貫義昭(おおぬき・よしあき)
元三井物産副社長、同投融資委員長、同専務取締役欧州三井物産社長、同常務取締役業務部長。
撮影/海野惶世 イラスト/小湊好治 Top of the page

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