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IT大捜査線 特命捜査第014号実験段階から実用段階へ 遠隔授業の未来を探る 特命捜査第014号実験段階から実用段階へ 遠隔授業の未来を探る
 
  ボイスリンクからビデオリンクへ
 

政府のIT戦略本部が推し進めている国家レベルのIT化プロジェクト「e-Japan戦略」。その中の大きな柱のひとつに、文部科学省の肝いりで進められている教育のメディア化・情報化がある。既に学校や公的施設などを舞台に、高速インターネット回線への切り替えやネットワークのイントラネット化など、さまざまな施策が実施されている。なかでも今後ますます注目を集めそうなシステムが、衛星通信やインターネットを利用した遠隔授業だろう。いくつかの教育現場では既に実験レベルを終了し、実用化の段階に入っているという。

双方向のブロードバンド環境がここまで普及してくると、遠隔授業も夢ではないことはなんとなく分かる。しかし、現場はどうなっているのだろう? 問題はないのか? 学生の反応は?―さまざまな疑問を胸に、最先端のインテリジェントシステムを導入、IT化を推進する学校法人・東京工学院専門学校を訪ねた。

 

同校は理系・文系の学科を併せ持つ総合専門学校で、東京都小金井市にあるキャンパスでは2800名もの学生が在籍している。同校のIT化を推進する中心人物であり、遠隔授業の初期段階からさまざまなプロジェクトに携わってこられた中澤達彦先生にお話を伺った。

「今から10年ほど前になりますが、アメリカに行って現在の遠隔授業につながる教育システムを視察してきたんです。その頃のアメリカは、ちょうど音声を使った遠隔授業(ボイスリンク)から、映像を使った遠隔授業(ビデオリンク)へ移行するところでした。ボイスリンクは双方向ではありますが、声だけを通じた授業ですからコミュニケーションの手段としては不十分です。そこで、映像を伴ったビデオリンクが注目されていたんですね。私達も帰国後の1994(平成6)年、ビデオリンクの実験を行いました。それが、日米の高校生による座談会“Japan Today MCET”だったんです」。

 
お話を伺った東京工学院専門学校の中澤達彦先生。スポーツ健康学科を担当するほか、中央大学や産能大学などの兼任講師を務める。
45年の歴史を持つ東京工学院専門学校。地上9階、地下1階のメイン棟がシンボルだ。
 
 

これは、米マサチューセッツ州にある教育テレビ局と本校のクロスメディアスタジオをISDN(112kbps)国際回線で結び、米国内約1000校の学生と、スタジオに集まった高校生達が座談会を行うというものだった。米国側の学生は国内衛星を通じて日本からの映像を視聴。質問は電話を通じて行われた。
「この実験で重要なことは、シナリオがないということでした。衛星を使った放送局による国際通信の場合は、あらかじめシナリオが用意されています。しかしそれでは真の意味の文化交流は望めません。私達はこの実験で、日本のカラオケや回転寿司の映像を米国の高校生に見せました。彼らは好奇心いっぱいで、質問の電話が鳴り続けましたよ(笑)」
同校における遠隔授業の歴史は、このビデオリンクの実験から始まった。求められていたのは、対面授業と同じように、教える側も教えられる側も表情の変化が伝わるようなシステムを作ること。体験の素晴らしさがダイレクトに伝わるようなシステムにすること。遠隔授業はデジタル技術とネットワークシステムがあればすぐにできる、というものではないのだ。

 
 
 

  遠隔であることを意識させないシステム作りが重要
 

現在、東京工学院専門学校で遠隔授業が行われているのは、4年制大学コースの一部と工業専門課程のITプロフェッショナル科。4年制大学コースは本校独自のコースで、他大学とのダブルスクールを行っているのが特徴だ。卒業とともに学士と専門士の取得が可能で、現在は産能大学経営情報学部通信教育課程、中央大学法学部通信教育課程、さらに都内の大学の文学部通信教育課程と提携している。このうち遠隔授業が行われているのは、産業能率大学と中央大学の2校。特に中央大学の学生は大学に行かなくても、本校で大学の授業を受講することができるのだ。
一方のITプロフェッショナル科は、Javaスーパーライセンス取得を目指すプログラマー育成コース。全講義時間の約半分に、インターネットによる在宅学習が取り入れられている。

実際にはどのような仕組みで授業が行われているのだろうか。大学との授業が行われるプレゼンテーションルームを案内してもらった。

機能的にレイアウトされた円形のデスクが並ぶ中、まず目に付くのは何枚もの大型スクリーンと、部屋の隅に置かれた2つの不思議なカメラだ。いったいこれらをどのように使うのだろう。
「例えば、中央大学の多摩キャンパスで行われているメディア授業をここで受講しているとしましょう。スクリーンには教授の授業がリアルタイムで映し出されています。教授の動きは、先方のカメラが自動追尾します。一方、こちらの学生の様子は、この角突きのカメラが常時捉えています。角の部分に人間の声に反応するセンサーが付いており、学生が発言しようとするとカメラが瞬時にそちらを向き、ズームアップする仕掛けになっています。もうひとつのカメラは魚眼レンズを搭載しているのですが、電子的に歪みを補正して、常に見やすい映像を先方に提供しています。もちろん、これらのカメラはコンピュータによってコントロールされており、システム全体はネットワークサーバーによって集中管理されています」

なるほど。これなら対面授業を受けているのと感覚的にはほとんど変わらない。多摩にいる教授から見れば、目の前にいる学生と同じように、小金井で自分の授業を受けている学生の姿がスクリーン上に映し出されているわけだ。小金井の学生を指名して質問することも簡単にできる。こうなると物理的な距離も心理的にはゼロに等しい。

逆にこの教室から遠隔地に授業を発信する場合でも、先のカメラが自動追尾してくれるので、先生は自分の動きをまったく意識せずに済む。しかも、すべてのシステムはあらかじめプログラミングされており、先生が細かな調整を行う必要もない。授業の前にスイッチを入れるだけでいいのである。
「教える方、教えられる方の双方が体温を感じられるようなコミュニケーション環境を作りたいと考えています。そのためには特別な操作が必要なシステムであってはいけません」

ディーキューブルーム
遠隔授業が行われるプレゼンテーションルーム。もちろん、ここで遠隔地の授業を受けるだけでなく、他校に向けてここから授業を発信することもある。
テレビ会議システム  
本校が遠隔授業で使用しているのは、米国ポリコム社のテレビ会議システム。中央大学とはISDN3回線(384kbps)で結んでいる。  
パイプラインスピーカー   遠隔授業ではハウリングを起こさないスピーカーが求められる。このパイプラインスピーカーはハウリングを起こさないだけでなく、学生に対しダイレクトに先生の声が伝わるスグレモノ。
 
 
 
   

 
  授業の温度差をなくすために、レスポンスシステムを導入
 

中澤先生は「ただ単にビデオリンクを使って映像と音声の双方向システムを作っただけでは、遠隔授業とは言えない」と語る。つまり、そこに学生と先生のコミュニケーションを密にする工夫を取り入れて、初めて体温の感じられる遠隔授業になるのだと。

分かりやすい例を紹介しよう。遠隔授業の形態としては、ダブルスクールのように大学の授業を本校の学生が受けるだけでなく、逆に本校の授業を大学生が受講するケースもある。
「毎週月曜日、情報処理試験を受けるための授業を産業能率大学伊勢原キャンパスにいる学生さん達に配信しました。学生さん達には、あらかじめ私達がITメーカーと一緒に開発したCD-ROMを渡しておきました。そこには4択式の過去問題と解説集が入っていて、授業の最中に先生が問題を指定するんです。学生はインターネットを通して即座に答えを返してきます。先生はその正誤を分析し、学生が今、何を分かっていて何を分かっていないのかを判断することができます。それをリアルタイムの授業に反映するわけですね」

 
 

対面授業なら学生の顔色を直接見て先生が授業の理解度を判断することもできるが、微妙な体温が伝わりにくい遠隔授業ではそれが難しい。従来の遠隔授業では、テストでしか学生の理解度を測ることができなかったが、インターネットを活用したこのようなレスポンスシステムなら、学生の理解度を瞬時に判断することができ、それぞれの学生に対してその場で適格な指示を与えることもできる。レスポンスシステムは、遠隔授業と対面授業の温度差を吸収する優れた工夫なのだ。

遠隔授業教室B
遠隔授業を行う教室は、特に決まっているわけではない。システムを持ち込めば、どの教室からで遠隔授業を行える。
 
 

  先生とのコミュニケーションが取れると学生には好評

 日本で最も遠隔授業が進んでいると思われる東京工学院専門学校。既に10年以上にわたって膨大なノウハウを蓄積しており、中央大学や産業能率大学と連携したシステム作りは、今も日々進化している。基本的には1対1の授業がメインだが、講義の内容によっては4つの拠点を結んで遠隔授業が行われることもあるという。対面授業とほとんど変わらない授業が、ISDNあるいはIP(インターネット・プロトコル)ベースで可能となることには驚きを禁じ得ない。

 

さて、それでは授業を受ける学生は、遠隔授業をどのように受け止めているのだろう。日々学生と接し、自ら遠隔授業の教壇に立つこともある中澤先生はこう語る。
「さまざまな声がありますが、最も多いのは先生とのやりとりが即座に行えて良かった、という声ですね。レスポンスシステムが学生にも評価されているのだと思います。逆に、遠隔でありながら先生との距離が感じられないので緊張する、という声もありますが(笑)」。
中澤先生は、対面授業では教師は自分で気付かないうちに特定の学生に合わせて授業を進めてしまうことがあるという。ひょっとしたら目立たない受講生を置き去りにしたまま授業を進めてしまっているかもしれない。でもレスポンスシステムを導入した遠隔授業なら、少なくともその心配はない。

遠隔授業が注目されている背景には、今後ますます進行する少子化のなかで、学校側がいかに魅力的な授業を提案できるかという切実な問題がある。東京工学院専門学校が推進する遠隔授業のスタイルは、インターネット世代、メール世代の若者気質を考慮しながら、新たな教育のあり方を模索したものだと言えるだろう。ITの導入は理想の教育を実現するための有効な道具立てになっているのである。

取材協力:東京工学院専門学校(http://www.root1.ac.jp/

情報学科教室
許可を得れば誰でもが自由に使用できる実習室。各テーブルにノートパソコンが常備されている。
ロボット君   学生の共同プロジェクトで改造されたロボット、「メタぞう」君。さまざまなイベントに活用される人気者。
 
   

 
  次なるEZシリーズは「歌う!トランペット」「光るウクレレ」
 

学校のIT化はここまで進んでいる!
東京工学院専門学校のIT環境は、何も遠隔授業だけにあるのではない。本校オリジナルの総合情報ネットワークシステム「MUSASY(通称ムサシ)」が、学園内はもちろん、学園外や海外までをも結んだ巨大なIT空間を構築しているのだ。

●ICカード
入学するとまず渡されるこのカードが学生証となる。JR東日本のsuicaと同じ非接触式ICカードで、登下校のチェック、各種証明書の発行依頼、図書の貸出・返却、キャンパス内での食事や買い物など幅広い用途に使える。

●きくすけ
ウェブ機能や電子メール機能を持つ携帯電話を使ったコミュニケーション・ラーニング。授業の確認テストや資格試験問題などを学習できるほか、学科掲示板への書き込みや、学科や先生を選んでメールで質問することもできる。

●ネットワーク対応型電子表示システム
学内情報がいつでも見ることができるモニターが設置されており、必要な時に情報をチェックできる。緊急時の画像情報や文字情報も割り込み表示で対応。CATVや一般TV放送の表示も可能。

●テクノビジョン
コミュニティ広場に設置された大画面モニター。音楽プロモーションビデオや海外ニュース、CMなどが次々と映し出され、学校とは思えないほど楽しい雰囲気を演出してくれる。

   
  特命捜査第014号 調査報告:安田邦夫捜査員 特命捜査第014号 調査報告
写真/海野惶世 イラスト/小湊好治 Top of the page
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