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論理的に話すことは訓練で手に入れられる技術です。
第21回 コミュニケーション・スペシャリスト 照屋華子さん


「ロジカル・シンキング」は訓練で身につける共通言語

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「ロジカル・シンキング」という言葉からは、何か大変難しいものを想像しますが、まずは、そのコンセプトを伺えますか?

照屋

「ロジカル」というのは、理屈っぽく小難しいことと思われがちですが、全く反対です(笑)。「ロジカル・シンキング」というのは、文字通り、「論理的思考」ということですが、私は、これをコミュニケーションの手法に適用しています。自分が相手に伝えたいことを、分かり易く伝えるためのアプローチと考えていただければと思います。
今までも、提案など、伝える中身をどう作り上げていくのか、そこに「論理的思考」を適用するということは行われてきましたが、最近、コミュニケーションの場面でこのロジカル・シンキングに興味を持つ方が増えてきました。これは特にビジネスにおけるコミュニケーションの重要性が意識されつつあるからでしょう。
というのも、物事を進めていこうとする時、どういうことをやりたいのかといった方向性を考えることはもちろん大事ですが、最終的には、人に働きかけて理解をしてもらって、自分がこうして欲しいなと思う反応を返してもらわないと物事は前に進みません。そういう意味では、コミュニケーションをして人を動かすことの積み重ねこそ仕事だと言うこともできます。良いアイデアを持っていても相手に納得してもらえないのでは、結局、何も動きませんからね。つまり自分が何をしたいのか考え、良い提案の中身を考え、さらにそれを人に分かり易く伝えることが出来る説明の能力。これらがセットになって、初めて物事、つまりビジネスが動いていくのです。

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そうしたコミュニケーションの手法は訓練で身につけられるということですが…。私達は天性の素質と考えがちです。

照屋

話術はそうかもしれませんが、ここで言っているのは、相手に分かりやすく説明したり納得してもらったりする技術です。確かに今までは勘や個人技に頼る部分が大きかったと思います。
それを体系的化して、「こういう風に伝えましょう」という、コミュニケーションの共通言語にして、組織の中でも共有できるようにしたい。その一つの手法として、ロジカル・シンキングがあると思っています。

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確かに、最近の特にビジネスシーンでは、人の流動も多くなってさまざまな人と仕事をしなくてはならなくなりました。

照屋

なぜ、コミュニケーションの場面でロジカル・シンキングに興味を持つ方が増えているのか考えてみますと、どうも組織や社会における関係性の変化が影響しているようです。ご指摘のように、異なるバックグラウンドを持つ人同士が仕事を共にする場面が多く見られ、それぞれのメンバーが「なるほど」と納得して仕事をするためには、なぜなのかというきちんとした説明が必要になります。それがないために、スムースに物事が進まないという場面もありますね。
また、組織の中のコミュニケーションだけでなく、組織の外に発信していくことを考えた時にも、今までお客様との長年のリレーションシップを保っていれば商品を買ってもらえたところが、お客様も多くの情報をもって理論武装するなかで、そうはいかなくなってしまいました。自分達の考えていることをきちんと伝えることが重要になってきたのです。こうして、組織の内外へのコミュニケーションをいかに効果的に、かつ効率的にするかが、ビジネスそのものの効果、効率を高めることに深く結びついてきているのですね。

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いわば説明責任のようなものが重視されるようになってきたということですね。

テーマ出し→目標→検証

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効率的なコミュニケーションの助けとなるロジカル・シンキングとは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

照屋

まずロジカル・シンキングは、「MECE(ミッシー)」、「So What?」、「Why So?」という考え方が基本です。
あるテーマについて説明する時に、伝えたい事はたくさんありますが、それらを思いついたままに列挙するのでは相手に伝わりません。そこで、まず自分が言いたいことを、漏れなく重なりなくグループ化する。これが「MECE(ミッシー)」です。
例えば、お客様からいろいろなタイプのクレームが20件くらいあったとしましょう。このクレームをグループ分けするとしても、分け方は一つではありません。クレームが向かう対象毎に分けることも出来るし、それを改善するときの主体部門によって分けていくことも出来ます。あるいは、改善する時の経費や要する時間という視点からグループに分けることもできます。最終的に何を説明したいのかということに照らし合わせて分け方を考え、寄せられた諸々のクレームを漏れがなく重なりもないように実際にグループ化する。それによって自分が伝えたいことの全体像をつかみ、伝えるべき項目が、大まかにいくつあるのか、はっきりとイメージできるというわけです。

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自身が伝える項目を明確にするということですね。では「So What」は?

照屋

大きくグループ分けしたいくつかの項目ごとに、「結局、言うべきことは何なのか」というエッセンスを抽出する作業が「So What?」です。
私達は、説明をするときにごく自然に「従って」「それによって」という言葉を使いますが、実際聞いていると、その前後が理論的に繋がらず、つじつまが合わない、話が飛んでいると感じることがあります。そうなると、せっかくの提案も相手に理解を得られなかったり、話が明後日の方向にずれてしまったりします。
さらに「So What?」の結果、自分がエッセンスだと思ったものに対して、なぜそう言えるのか検証することが必要です。たくさんある要素をまとめて、自分が言いたいことはこういうこと、と言うのは簡単です。しかし、ビジネスでは、これが結論だ、と抽出したエッセンスが、最終的に事実や検討結果で裏付けられなくてはなりません。手元にある事実や検討の結果から、本当にこれは言えることなのだろうかと、検証することが「Why So?」です。「Why So?」のステップを踏まなければ、伝える中身は伝え手の思いの丈であり、それを切々と語って「とにかく私を信じてほしい」というだけでは仕事の中で相手を説得できません。「Why So?」の検証が出来ない時には、自分の思いの丈をまとめているに過ぎないと思ったほうがいいでしょう。

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端的に言うと、多くの情報の中から言えることを抽出し、さらにその情報から本当にそんな内容が導き出せるのかを検証するという一連がロジカル・シンキングということですね。
でも、以心伝心の国では、分かりやすく話すことを苦手とする人も多いと思うのですが。

照屋

ロジカル・シンキングはコミュニケーションの道具です。たとえば、大工道具と同じで、使いこなすには、あぁこういう考え方があるのかと知るだけでなく、訓練が必要です。例えば新聞や雑誌を読む際に、大事なポイントを素早く的確に抽出し、検証するという訓練をするのも、手軽なよい訓練法です。MECE(ミッシー)」、「So What?」、「Why So?」の個々の考え方は、どれも本当にシンプルなことです。
ただし、分かりやすく話せないという人のケースを見てみると、そもそも論理の組み立て以前に、何について説明すればいいのか、また、説明したうえで相手に何をしてほしいのか、しっかり見極めていないということがしばしば見られます。上司への報告でも、部下への指示でも、お客様への提案の場面でも、与えられた指示、確認したい疑問、いただいたお題に対して、ずれていることをいくら組立てても、理屈をこねているようにしか見えません。答えるべき質問が何なのかを、常に見極める癖をつけることが大切です。
例えば、お客様からのクレームに対して、組織の中で今後これこれの対応をとるべきだ、と上司に報告したとします。でもそれは「やること」の説明。上司としては対応だけ報告されても、それが適切かどうかを判断することができませんから、どうしてそういうことが起きたのかを知りたいはず。上司は「その前にどうしてそんなことが起きたのか?」と聞いてくるでしょう。まずは答えるべき問題、質問、つまり命題設定、それを見極めることです。
また、報告した上で、「これでよし」とゴーサインを出してもらいたいのか、あるいは自分の考えた対応策にある観点からインプットが欲しいのかというように、どのような反応を引き出したいのかもはっきりさせる必要があります。このコミュニケーションの目的を伝え手自身がつかんでいなければ、相手にそれを説明することはできず、相手からみると「いったい、何のためのコミュニケーションなんだ?」ということになりがちです。
私が言っていることは、指摘されればほとんどの方が気づくことです。ただ、自分が伝える側になると見えなくなってしまいがちです。

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ゴールが分からないままには、相手も進めませんね。相手からどういう反応を引き出したいのか、ということを、常に念頭に置いておく、と。本当に、しごく当然のことですが、一方で忘れがちな点でもありますね。

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コミュニケーションの技術は、普段の生活にも役立つ部分があると思います。

照屋

そうですね。生活の中で大きな問題に出会ったとき、例えば、家族の中の誰かが介護が必要になったというような事態になったとします。その際、本人はもとより、家族や親戚も含めていろいろな想いや要望が出てきて、どうしたらよいかなかなか考えがまとまらない、といったことがあります。そんな時は、極力客観的に考えて「私たち家族が採り得る選択肢がいくつくらいあるのか」と「MECE」に考えてみる。次に、どういう選択をするか決める時に基準にしなければならないことは何なのか、自分たちの「物差し」は何なのかということをまた「MECE」に冷静に考えてみる。本人にとって大事なことは?周りの家族にとっては?というように。そして、複数の物差しがあるならば、その優先順位をどう考えるのか。さらに、その物差しで選択肢を測ってみると、いったいどうなのか「So What?」を考えてみます。大きな選択に直面したとき、こんな風に順序立てて客観的に考えたり、話しあうことが、進むべき道を見つけるきっかけになるのではと思います。

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ビジネスシーンにしろ、プライベートにしろ、一つの物事を進める際に、ロジカル・シンキングをフォーマットとし、それに要素を当てはめていく、というところからスタートできますね。

照屋

その通りです。誰でも使えるものなんですよ。私自身、試行錯誤のアプローチを重ねながら、後天的に身に付けたものです。分かり易く論理的に説明するという技術は、後天的に身に付けられるものなんです。

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日本の中では、コミュニケーションの重要性がちょっと低かったように感じます。きちんと説明することの大切さが分かりました。

照屋

何となく説明しているだけでは物事が動かないという時代なのではないでしょうか。私としては、こうした技術はビジネス・コミュニケーションにおいて一番ベースになるものではないかと感じています。
一方で「あ・うん」の呼吸というのも、大事なものです。一見、先に挙げたコミュニケーションの技術と相反するように思えるかもしれませんが、きちんと論理立って話を組み立てることが出来れば「あ・うん」の呼吸が成立しやすくなるはず。報告や提案の中身をしっかり組み立てることが出来れば、相手が聞きたい項目が、「MECE」に分けた中のどれか、また、その項目について、結局何なのか、という「So What?」したエッセンスを相手は語ってほしいのか、あるいは、もっと具体的な各論レベルの話してほしいのか、把握しやすいですね。相手がどの部分の情報を必要としているか察知して、それを提供しやすくなるのです。「MICE」、「So What?」、「Why So?」という技術は、自分が発信するときのアプローチでもありますが、人の話を読んだり聞いたりする時の、情報整理の道具でもあります。

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コミュニケーションに一つ道具を持つ。それがビジネスの面でも、生活の面でも役立つと。

照屋

そうです。もちろん道具の選択肢はたくさんあるわけです。そのたくさんある選択肢から、ご自分にととって使い勝手のよいものを見つけて、それを徹底的に使い込んで、自分のものにしていくことが大事だと思います。
話し方、書き方について、みなさん興味を持っていると感じますが、でもその前にどうやってそれを組立ていくか。そのときに道具として、何を使うか。「コミュニケーション」というのは、非常に幅の広い言葉です。人間性であるとか、持って生まれたその人の魅力であるとか、そういうものも大事ですが、そこを考えすぎてしまうと、自信がない人はどうすればいいのかと悩んでしまいますよね。ですが、仕事のコミュニケーションというのは、もう少しベーシックな部分から考えていいいいのではないかと思うんです。分かってもらうように伝える。そのための道具があるのだなと知っていただきたいと思いますね。

インタビュア 飯塚りえ
照屋華子(てるや・はなこ)
東京大学文学部社会学科卒業。(株)伊勢丹業務広報部担当を経て、1991年マッキンゼー・アンド・カンパニーにコミュニケーション・スペシャリストとして入社。現在、フリーランス。マッキンゼー社において顧客企業へのコンサルティング・レポートや提案書など各種ビジネス・ドキュメントを対象にしたエディティング・サービスに提供するほか、ビジネスマンを対象にしたロジカル・シンキングや、ライティングなどのセミナー、研修を企画・実施している。また、ロジカル・コミュニケーションの手法の開発にも取り組んでいる。
コミュニケーションに道具を一つ
撮影/海野惶世 イラスト/小湊好治 Top of the page

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