殺菌包装時代から無菌化包装時代へと移行してきた包装餅の歴史。製造技術的には現在の形でほぼ完成したと考えられており、ここ20年ほど大胆な変革は起こっていない。
それでも消費者にとって包装餅が“いいもの”であり続けるためには、さらに新しい魅力が必要となる。
同社開発陣が出した結論は、食べやすさ、使いやすさ、上手に焼けるといった“機能の追求”だった。包装餅は付加価値を競う時代に入ったのである。
その第1弾が、1993(平成5)年に発売した「サトウの鏡餅」。それまでの鏡餅は成型容器につきたての餅を詰め込んで包装した殺菌餅がほとんどで、飾るのはいいが、非常に食べづらいものだった。「サトウの鏡餅」は、中身の餅を丸餅のシングルパックに変更。外から見るときれいな鏡餅だが、中を開けると食べやすく切り分けられた餅が入っているという、実用本位の製品に生まれ変わった。
発売当時は業界内からの批判もあったらしいが、結局、この製品は消費者の圧倒的な支持を獲得。今ではこのタイプの鏡餅が市場の主力となっている。
機能追求型包装餅の第2弾は、2003(平成15)年に発売した「サトウの切り餅・パリッとスリット」。これは従来の「サトウの切り餅・つきたてシングルパック」のひとつひとつの餅に切れ目を入れ、焼いた時にふっくら焼けるよう加工した製品。また、調理前に切れ目から手で簡単に割ることができるので、小分けして料理に使うのが便利な餅に仕上がっている。「ふっくらうまく焼きたい」「パリッともっちりと食べたい」「もっと割りやすくしてほしい」という消費者ニーズを巧みに吸い上げて開発した。消費者の反応も良好という。
現在、同社の包装餅の生産量は年間5〜6万トン前後。売上げも増減が激しい市場全体に比べると、極めて安定している。包装餅市場におけるシェアは約25%。もちろん、業界トップの地位にある。
ひと昔前まで、私たちは「餅はお正月に食べるもの」と思っていた。「餅にはカビが生えて当たり前」だと諦めていた。しかし今では、「餅はいつでもスーパーで売っている」と信じ、「カビが生えたらクレームもの」だと考えている。
私たちの餅に対するイメージは、包装餅の革命児「サトウの切り餅」の出現によって大きく変わった。変わっていないのは、つきたてのおいしさを今でも味わえるということくらいだろうか。
そう、それが消費者にとって最大の“いいもの”なのだから。 |