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ニッポン・ロングセラー考 Vol.39 ロッテ グリーンガム&クールミントガム 板ガムの定番となった“お口の恋人”

「天然チクル」にこだわり、板ガム市場に参入

創業当時の重光社長

創業当時の重光社長。数々のアイデアや販売の秘策を実行に移していった。

 
初期の風船ガム

初期の風船ガム。原材料の緩和もあり、子供市場に向けてユニークなガムが次々と発売された。

ちょっと気分をリフレッシュしたい、口臭が気になる、ドライブ中に眠くなってきた──そんなときに欠かせないのがチューインガム。風船ガム、板ガム、粒ガムなど、ガムの世界にも様々な種類があるが、ガム界のロングセラーと言えば、ロッテの「グリーンガム」と「クールミントガム」をおいてほかにない。共に誕生以来50年になろうかという、板ガムの代名詞的存在だ。
この2つのガム、どのような歴史を辿ってロングセラーになったのだろう?

ロッテ現社長の重光武雄が「ひかり特殊化学研究所」を設立したのは、戦後間もない1946(昭和21)年のこと。当初は石鹸やポマードを製造販売していたが、事業を拡大するため参入した新たな分野が、チューインガムだった。
この頃の日本は、生活のあらゆる面で急激に欧米化が進んだ時期。誰もが甘味に飢えていたこともあり、チューインガムは子供にも大人にも人気が高い嗜好品だった。
1948(昭和23)年、重光は株式会社ロッテを設立し、本格的なチューインガム事業に乗り出す。

当時、市場には多くのガムメーカーがあり、板ガムや風船ガムを作っていた。ロッテが参入したのは風船ガムの分野。参入当時、チューインガムの原料は砂糖をはじめ統制品が多く、どのメーカーの製品も似たような味と品質だった。
やがて原料事情は緩和され、チューインガム業界は自由競争の時代に突入する。50年代前半、ロッテはくじ付きの「ベースボールガム」や箱入りの「カーボーイ」など新企画の風船ガムを次々と発売し、売上げを伸ばしていく。同時に全国の小売店を積極的に開拓し、販路を拡大。
設立10年も経たないうちに、ロッテは風船ガム市場のNo.1メーカーになっていた。

次なる目標は、板ガム市場への進出だった。その頃、板ガム市場を独占していたのは関西の某メーカー。製造技術と販売網で遅れを取っていたロッテは、品質で勝負することにした。
重光は資材部員たちに、「天然チクルを早急に確保しろ」との号令をかける。天然チクルとは、中南米産の常緑樹「サポディラ」から取れる樹液のこと。ガムベース(ガムの基材)に使われる原料で、戦後普及した合成の酢酸ビニール樹脂に比べて噛み心地が良く、うま味の持続時間が長いという特徴があった。
ところが時代は統制経済下、天然チクルはまだ正式輸入が認められていなかった。ロッテは代行ルートを通じて天然チクルを入手し、1954(昭和29)年1月、国産初の天然チクル入り板ガム「バーブミントガム」を発売する。
これは国産ガムの歴史において、転換点となる製品だった。


世間を驚かせた「1000万円懸賞」キャンペーン

スペアミント

満を持して発売した「スペアミント」。6枚入りで20円だった。

 
初代「グリーンガム」

初代「グリーンガム」。深緑、赤、白の基本カラーはこの時から。6枚入り20円。

 
初代「クールミントガム」

初代「クールミントガム」。ペンギン、鯨、氷山のイラストがシンボル。6枚入り20円。

 
出荷されるガム

ロッテは全国の卸店、小売店ネットワークを作り、強力な販売網を確立した。

1954年(昭和29)10月、ロッテは板ガム研究の成果として「スペアミント」を発売。これは天然チクルと厳選した各種原料を配合したチューインガムで、スペアミントの清涼感を前面に打ち出していた。この新鮮な味と品質の高さが市場で大きく評価され、スペアミントはヒット商品に育っていく。
その後、ロッテは天然チクルを配合した板ガムの製造技術を確立し、工場を拡張。板ガムの大量生産を開始する。

スペアミントでミント系ガムの基礎を作ったロッテが次に送り出したのが、1957(昭和32)年4月発売の「グリーンガム」だった。
キャッチフレーズは「森林の緑の爽やかさとペパーミントの爽やかさ」。葉緑素(クロロフィル)を配合し、ガムの脱臭作用、殺菌作用をアピールするこのガムは、「お口のエチケットガム」として発売当初から人気を集める。男女のデートが盛んになってきたという時代背景もあるが、発売翌年に始まった玉置宏司会のテレビ番組「ロッテ歌のアルバム」による宣伝効果が大きかった。
ちなみに天然チクルの正式輸入が認められたのもこの頃。その後ロッテは天然チクルの入手ルートを商社経由から自社買い付けに変更し、より高品質なガムベースの生産を実現する。

その3年後の1960(昭和35)年6月に登場したのが、「クールミントガム」だ。こちらは「大人の辛口、南極の爽やかさ」がキャッチフレーズで、当時としては珍しいくらいに強烈なミント味を特徴としていた。
お口のエチケットを訴求するグリーンガムに対し、クールミントガムはリフレッシュメントを訴求。これもまた発売当初から大きな話題を呼び、好調な売れ行きをした。
ちなみに、当時のクールミントガムのパッケージには、南極を想起させるペンギン、鯨、氷山のイラストが描かれていた。これは56(昭和31)年、ロッテが南極観測隊用の栄養ガムを納入したことを背景にしているという。強烈なミントの爽やかさを、南極のイメージで表現したわけだ。

グリーンガム、クールミントガムという2種類の看板商品を持つようになったロッテは、販売面でも常識を破る流通戦略を実施していく。
その具体例が、末端の小売店を直接把握するための販売促進制度だった。ロッテは特約店向け、仲卸店向け、卸店店員向けに組織を作り、それぞれに専任の販売促進スタッフを対応させた。販売促進スタッフの合い言葉は「常全多前」。意味するところは、「ロッテの製品は、常時、全種、多量に、しかも前方に陳列されていなければならない」だった。
彼らの尽力により、ロッテのチューインガムは全国津々浦々の小売店に置かれるようになる。

販売に寄与したもうひとつの施策は宣伝だった。「天然チクルのロッテ」を流通だけでなく一般消費者にも浸透させようと考えたロッテは、1961(昭和36)年、世間をアッと驚かせるキャンペーンを打ち出す。
それが、特賞1000万円という懸賞企画だった。公務員の初任給が1万4200円だった時代の1000万円だから、今なら1億円以上の価値になる。過去に類を見ない大型懸賞に、日本中が騒然となった。
「天然チクルのロッテガム50円で特賞壱千万円ズバリ当る」──この広告を見て寄せられたハガキの総数は、なんと760万通。あまりに過熱化しすぎたため、翌年には景品表示法が制定され、このような大型懸賞は姿を消すことになった。
この懸賞をきっかけに、ロッテはガム業界で、ついに売上げトップの座を獲得する。

1000万円懸賞
 
1000万円懸賞

世間を驚かせた「1000万円懸賞」。当選発表は有楽町の日劇で行われた(当選者は1人)。


ペンギンが手を挙げている? パッケージデザインの変遷

パッケージ遍歴

グリーンガムとクールミントガムは、その優れたパッケージデザインがよく話題になる。
誕生から49年経つグリーンガムは、森林の深緑をイメージしたベースカラーに、赤と白でロゴを飾るのが基本パターン。同じく46年を経たクールミントガムは、すべての世代に渡って三日月をあしらったロゴタイプを守り続けている。またスタンダードパッケージ以外にも、限定パッケージの商品もいくつか発売されている。
世代によって馴染みのあるパッケージは異なるが、40代以上なら1970(昭和45)年のパッケージをよく覚えているのではないだろうか。

このパッケージが大きく変わったのが1993(平成5)年。この年、ロッテは板ガムを全面的にリニューアルした。パッケージデザインの変更は、なんと23年ぶりのこと。
この時コンペで採用されたのが、グラフィックデザインをはじめ多彩な分野で活躍する佐藤卓によるデザイン案だった。
佐藤は伝統的なベースカラーを踏襲しながらも、製品の2面にロゴタイプと絵柄(グリーンガムは木、クールミントガムはペンギン)を振り分けるという、まったく新しい見せ方を提案した。細部を見るとずいぶん変わっているのに、全体を見るとどこか昔の製品の印象を漂わせる巧妙なデザイン。このパッケージは、消費者からも「若々しくなった」と好評を得た。

巨大チューインガム

1993年、東京・西新宿に突如現れた巨大なチューインガム。当時はマスコミで盛んに報道された。

この新世代ガムを訴求するため、ロッテは前代未聞の屋外広告を実施する。
なんと、東京・西新宿の自社ビルを巨大チューインガムに変えてしまったのだ。高さ約40m、幅約26m、奥行き約10mのビル全面を、ガムのデザインでラッピング。普通のガムのサイズにすれば約3億個分にも相当するこの巨大なチューインガムは、新宿の高層ビル群や山手線の中からもよく見え、ライトアップされた夜間はさらに人目を引いたという。
このビル広告は93年の6月、約2週間にわたって行われ、マスコミも大きく取り上げた。「新しくなったグリーンガム&クールミントガム」のデザインは、しっかりと消費者の心に印象づけられた。

佐藤卓デザインによる現在のパッケージは、ベースカラーがメタリック調の明るいものに代わっている。面白いのは、デザインに様々な遊び心が盛り込まれていること。例えばクールミントの場合、5匹並んだペンギンのうち、右から2匹目だけが左手を挙げている(タイトル部画像参照)。ロッテの広報によると、これはペンギンが、いなくなってしまったクジラに対する感謝の念を表しているのだとか。
通常版のパッケージだけでなく、期間限定のパッケージがあるのも特徴だ。ちなみに現在のグリーンガムは、並んだ木のうち1本が椰子の木だったり、小鳥が木に乗っていたりする。クールミントガムの場合はペンギンが……これは買ってみてのお楽しみにしておこう。
またパッケージだけでなく、ガムの内包装紙にも工夫がある。通常のパッケージの絵柄と違うペンギンのイラストが入っているものもあるのだ。これを使ってその日の運試しをするのも面白い。


 
常に高品質化を推し進め、トップを走り続ける

「グリーンガム クラシックタイプ」「クールミントガム クラシックタイプ」

(左)「クールミントガム クラシックタイプ」。ペンギン、鯨、氷山のシンボルマークも復活。9枚入り100円(税抜)。(右)懐かしの深緑・赤・白パッケージで再登場した「グリーンガム クラシックタイプ」。9枚入り100円(税抜)。

食べ物の場合、やはり味の品質が重要。グリーンガムとクールミントガムも、基本的な品質の向上や、消費者の嗜好に合わせた味の変更を度々実施している。
昔の製品と今の製品とでは、どれだけ味に違いがあるのだろう?
それを比較できるユニークな製品が、今年6月に発売された。名付けて「グリーンガム クラシックタイプ」と「クールミントガム クラシックタイプ」。ともに80年代のパッケージと味を復活させた、ファンには嬉しい企画商品だ。菓子業界で、パッケージはともかく味まで復活させる例は珍しい。

それぞれを噛み比べてみると、時代を経た味の変化が良く分かる。
グリーンガムは現行製品がスッキリ・マイルドな清涼感と甘さを抑えたクリアな味わいなのに対し、クラシックタイプはペパーミントにコクがあり、全体的によりマイルド。甘さも充分にある。
一方のクールミントガムは、現行製品がペパーミント+メントールのシャープな清涼感を打ち出しているのに対し、メントールを抑えたクラシックタイプはかなりおとなしい印象。現行製品のように、口の中のひんやり感は控えめ。昔はクールミントガムの刺激に驚いていたのだから、日本人の嗜好はかなり変わってきたということなのだろう。

80年代以降になると、ロッテは1990(平成2年)と93(平成5)年の2回、大きな味の変更を行っている。90年には消費者のヘルシー嗜好を考慮して、天然甘味料パラチノースオリゴ糖を配合。同時にミントの清涼感をよりアップさせている。93年にはペパーミントの精製方法を変更し、より上品なミント感へと改良。メントール成分には新品種のハッカを使用し、透明度の高い清涼感に仕上げている。
パッケージをメタリック調に変えた2004年にも、ガムベースのソフト化を図ってスムーズな噛み心地を実現したり、葉緑素の精製度アップ(グリーンガム)やクーリング素材の新配合(クールミントガム)を行っている。
グリーンガムとクールミントガム、見た目以上に中身は変化しているのだ。

現在、チューインガムの市場は、板ガムに代わって粒ガムのシェアが拡大しつつある。
ロッテでも、ガムの主力製品は既に粒ガムの「キシリトールガム」に移行しているという。かといって、板ガムの中心的存在であるグリーンガムとクールミントガムの販売量がそれほど落ちているわけでもない。
その理由としては、早くから市場(ミント系板ガム)を席巻したため、競合製品がほとんど存在しないこと。そして、「やっぱりガムはこれでなくちゃ」という固定ファンが多いこと。この2つが挙げられるだろう。
もちろんその背景には、誕生から現在に至るまで品質にこだわり続ける、メーカーとしての高い志がある。もし創業者の重光があれほど天然チクルに執着していなかったら、この2つのガムは存在していなかったはずだから。

取材協力:株式会社ロッテ(http://www.lotte.co.jp/

次世代のロングセラー候補「キシリトールガム」

現在、ロッテガムの中で最も売れているのは、この「キシリトールガム」シリーズだ。
キシリトールとは、虫歯の原因になる酸を作らない糖アルコールの一種。1997(平成9)年、当時の厚生省から食品添加物に指定されている。その20数年前から砂糖に代わる甘味料としてキシリトールの研究を重ねていたロッテは、事前に商標登録を済ませ、指定直後からキシリトールガムの板ガムと粒ガムを発売した。
キシリトールガムには、成熟段階に入っていた板ガム市場に代わる、新たな市場開拓の期待も込められていた。実際、「歯を丈夫で健康に保つ」というコンセプトが消費者に支持され、キシリトールガムは予想を越えたヒットを記録。今では単なる菓子や嗜好品を越えて、一種の健康ツールとしても認識されている。
現行商品も、板ガム、粒ガム、ボトル入り粒ガムなど、ラインアップは豊富に揃っている。

   
「キシリトールガム(粒)〈ライムミント〉」。14粒入り120円(税抜)。   「キシリトールガム(板)〈クールハーブ〉」。8枚入り120円(税抜)。   「キシリトールガム ファミリーボトル〈ライムミント〉」。内容量150g、800円(税抜)。
 
撮影/海野惶世(タイトル部) タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 Top of the page

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