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ニッポン・ロングセラー考 Vol.40 山田照明 Zライト 50余年の歴史を持つアームスタンドの代名詞

原型は工場などで使われる作業灯だった

創業者・山田繁雄

創業者の山田繁雄。オリジナリティを重視する、照明業界のパイオニアだった。

 
山田式Z型作業スタンド

「山田式Z型作業スタンド(型番ABC NO.3000)」。スプリングではなくハンドルで固定する「Y型」と、蛍光灯を使った「F型」も発売されていた。

 
Z型の工場内での使用例

Z型の工場内での使用例。作業の手元が移動する時には特に重宝した。

スプリングがむき出しのメカニカルなデザイン、"Z"の字に折れ曲がったアーム、シンプルな半球型のセード(笠)。
子供の目から見たその照明器具は、いかにも"大人が使う道具"然としていた。あんなライトを使えば自分も勉強ができるようになるかもしれない……そんな妄想を抱かせるくらいに、カッコよく見えた。
山田照明の「Zライト」。誕生から、今年でもう52年になる。

家庭用アームスタンドの代名詞ともいえるZライトだが、そもそもの原型は工場などで使われる作業灯だったという。
アメリカに視察旅行に出かけた初代社長の山田繁夫が、現地で見た作業灯を輸入して研究。さまざまな改良を施し、いくつかの特許を取って1954(昭和29)年に発売したのが、「山田式Z型作業スタンド(型番ABC NO.3000)」だった。
工場や作業場などでは、全般照明のほかに局部照明が求められる。当時の作業スタンドは卓上用、壁付用、天井用と用途別に分かれていたが、現場では照度不足に起因する事故がよく起きていた。手元をしっかり照らして、作業能率を上げるスタンドがなかったのである。
光源の位置が自在に変えられ、丈夫で壊れにくく、操作が簡単な作業スタンドが求められていた。

山田式Z型作業スタンドは、現場の要求をすべて満たす画期的な製品だった。
5本のスチール製角パイプを組み合わせた主軸と4本のパントグラフ式スプリングにより、全体は360度自由自在に動き、好きな位置で止められる。光源自体も上下左右に幅広く回転可能。電源コードがパイプの中を通っているので安全性も高い。さらにクランプ(取付座)を変更することによって、机の上や壁面など様々な場所で利用することができた。
価格が比較的安かったこともあり、山田式Z型作業スタンドは、製図、精密機械加工、組み立て、検査などの作業用ライトとして、瞬く間に人気商品となった。

ここで止まっていたら、Zライトは誕生していなかったかもしれない。
「工場や作業場で評価される製品なら、家庭用としても優れているはずだ」──繁夫はそう考えたのだろう。すぐさまこの製品を学習スタンドとして売り出すことに決めた。
名称は、Zライト。もちろん、アルファベットのZはアームの形状に由来する。同時にそれは、「究極のスタンドに育てたい」という繁夫の願いを込めたZでもあった。


キャッチコピーは「30分以上勉強する方のスタンド」

Zライト使用例
Zライト使用例
Zライト使用例
初期のカタログ

1970年のカタログから。既に10種類近い製品がラインナップされていた。

Zライト使用例
Zライト使用例
カタログに掲載されたZライトの使用例。学習、軽作業、事務仕事など、幅広い用途を謳っていた。

1950年代後半に使われていた一般的な学習スタンドは、小型の卓上ライトだった。小振りな台座から半固定式の首が伸びており、その先に小さな白熱灯が付いている。そこには、まだ"手元を自由自在に照らす照明"という発想はなかった。
調節機能がほとんどないので、照明の角度や範囲はいつも同じ。場合によっては光源が直接目に入ってしまうこともあった。この頃の学習スタンドは、"手元が明るくなればそれでいい"的なものが多かったのだ。

誰もがこうした環境にあったわけだから、Zライトの登場は衝撃的だった。
販売時のキャッチコピーは、「30分以上勉強する方のスタンド」。使用者にとって最適な明るさを提供することができるので、30分以上継続して使っても目が疲れない点を強くアピールした。
当時の価格はデータが残っていないので不明だが、1970(昭和45)年の標準的なモデル「Z45」が3,000円前後(球別)。他社の学習スタンドに比べると、かなり割高だったという。

それでも、Zライトは売れに売れた。
注文はどんどん入ってくる。が、生産が追いつかなかった。自社工場をフルに稼働し、日産数千台というオーダーで出荷していったが、それでも追いつかない。
「問い合わせの電話がひっきりなしにかかってきましたし、工場にはいつもトラックが待機していましたし。あんなことは初めてでしたね」と語るのは、同社企画室室長の小峰勉さん。小峰さんはZライトの開発にも携わっている。

販売に関しても、Zライトはユニークな手法が取られた。名付けて、"巡回販売"。現在のように家電大型量販店のない時代で、営業マンが販売代理店(問屋)の担当者と常に一緒に行動し、全国の小売店をひとつひとつ巡回していく、という売り方だった。
「照明器具というのはカタログ商売なんです。販売店は実際の商品を見ることなく、カタログの写真を見て注文する。ところが巡回販売は全く違っていて、我々が車にZライトを積み込んで小売店を訪問し、店頭展示をして直接売っていく。実際に商品に触れるわけだから、小売店にもメリットがあるんです」(小峰)
8台のZライトを1箱に梱包してトラックの荷台に満載する。日帰りできるのはまだ良い方で、地方の場合は連泊も当たり前だった。小売店では販売だけでなく、展示されたZライトの掃除や、増え始めた類似製品に付けられたZライトの札を外したりしたという。
この巡回販売によって、小売店とのパイプは確実に太くなった。


高い実用性とオリジナリティ豊かなデザインを両立

Zライトは60年以降の高度経済成長と共に、着実に販売数を伸ばしていった。
学習スタンドとしての新たな需要を掘り起こしたこともあるが、それ以上に大きかったのが、工場用、オフィス用としての需要がさらに拡大したこと。景気が良くなれば、会社は設備投資に資金を回す。ピーク時、Zライトは年間約20万台あまりを販売したという。
山田照明は、1970年代半ばにテレビCMを打っている。俳優を起用し、「X、Y、Z……みんな持ってるZラーイト!」というキャッチフレーズで、Zライトの知名度アップを図ったのだ。続いて、当時まだ無名のタレントだったタモリやマリアンをイメージキャラクターに起用した印象的なCMをオンエアし、さらなる告知効果を狙った。
今では学習スタンドのテレビCMはまず考えられないから、ちょっと不思議な気がする。ここまでコストをかけて宣伝するのには、次々と出てくる類似品対策という目的もあった。
「見た目はいかにもシンプルですからね。簡単に作れると思うんでしょう。似たような製品がどんどん出てきました。困ったことに"く"の字になったライトすべてがZライトだというイメージが浸透していったんです」(小峰)

一見似たような形であっても、Zライトはそうした類似品とはまったく違っていた。まず、部品点数が圧倒的に多い。例えば、現行の主力モデル「Z-999」の部品は約50点。他メーカーの似たような製品は、その半分くらいしかないという。
Zライトは堅牢に出来ているので、耐用年数が違うのだ。なかには、30年以上も前に製造したモデルの修理を依頼する人もいるという。

Zライトのもうひとつの大きな特徴は、その独創的なデザインにある。
オリジナルが工業用ライトということもあり、Zライトの基本デザインは極めてシンプルだ。大きな構成要素はセード、アーム、ランプの3つ、ランプは白熱灯か蛍光灯の2つしかない。ここから、いかにオリジナリティ豊かなデザインを生み出すか。
小峰さんは、「アームスタンドの違いは、大雑把に言うとスプリングを表に出すか出さないか。あとはそれをどう美しく見せるかなんです」と語る。
70年代以降、Zライトは通産省グッドデザイン認定をはじめ、世界的に最も権威あるデザイン賞のひとつである、ドイツの「iFデザイン賞」を次々と受賞する。製品に対する評価は、揺るぎないものとなっていった。

Z-101
 
Z-301
 
Zランペン-210

1974(昭和49)年の通産省グッドデザイン認定、翌年にはif賞を受賞した「Z-101」。プロユースの製図用ライトとして開発された製品だった。

 

70年代に発売されていた「Z-301」。一段アームを採用した学習用のジュニアタイプで、オレンジ色と青があった。

 

こちらも70年代の傑作スタンド「Zランペン-210」。伸縮式の斬新なデザインが高く評価された。


 
本物が求められる時代だからこそ、Zライトが注目される

Z-999
「Z-999」(16,590円)。現代のZライトを代表するベストセラー。デザインはイタリアで活躍する浅原重明。色は黒とライトグレーがある。
Z-999トランスルーセント
「Z-999トランスルーセント」(16,275円)。ビビッドなスケルトンカラーで人気を集めるモデル。初代iMacが出た頃もずいぶん売れたという。
Z-107
歴代Zライトの中でも、最もシンプルなデザインといえる「Z-107」(7,140円)。誰もが一度は目にしたことがあるはずだ。色は黒と白の2色。

現在、山田照明は1年に1作の割合でZライトの新型モデルを登場させている。もちろん消えてゆくモデルもあるので、常時製造されているモデルはだいたい10〜20種類ほど。現行Zライトのカタログには、蛍光灯タイプ、白熱灯タイプ、コンパクトスタンド、スペシャルタイプ(プロ用)合わせて、計24種類がラインナップされている。
中でもベストセラーとなっているのが、1994(平成6)年に発売された「Z-999」と、その2年後に発売された「Z-107」の2モデルだ。

Z-999は楕円断面のメインアームとテンションロッドを組み合わせたパラアームを採用した初めてのパーソナルユース・モデル。蛍光灯は短めの細管を使っている。セードの傾斜角度や上下左右の動きが、より滑らかになっているのが特徴だ。ここ数年のスケルトンブームから、最近はトランスルーセントタイプが売れているという。
Z-107は伝統の5本アームを継承する白熱灯タイプ。洗練を極めたといった印象のシンプルデザインが特徴で、これを会社で使っているという人も多いのではないだろうか。実際、今でもデザイン事務所や建築事務所ではよく見かける。

Zライトが最もよく売れていたのは、70〜80年代にかけて。バブル後の90年代以降は、競合他社の参入が増え、販売数がピーク時の6〜7割くらいになったという。工業用の需要が大きいため、やはり景気の動向に左右されやすい商品なのだ。
それでも去年から今年にかけては、それまでの倍近い数のZライトが売れている。
「Zライトは毎年10〜4月が需要期なんです。それが今年は8月に入ってもまだ売れている。照明自体の市場性が変わったような気がします」(小峰)
最近は、小学校に上がったばかりの子供に、親がトランスルーセントのZ-999を買い与えることも珍しくないらしい。子供だから安い学習スタンドでいいという時代ではないのだ。本物志向が強まり、多くの人が(目の)健康に気を配るようになった現代だからこそ、再びZライトが注目され出したのかもしれない。

現在、学習スタンドの市場は、アジアで生産される安価な製品がその中心を占めている。Zライトのように1台1〜2万円前後の製品は、全体からすれば少数派だ。逆にこれ以上の価格帯になると、インテリア性を重視した輸入品の分野になってしまう。
Zライトは高度な実用性と優れたデザインを武器に、学習スタンドの世界で独自のポジションを守り続けてきた。そこにあるのは、真似されることはあっても、真似することは決してない──オリジナリティに徹するという姿勢。
誕生から50余年……創業者が願ったように、Zライトは「究極のスタンド」に一歩一歩近づいている。

取材協力:山田照明株式会社(http://www.yamada-shomei.co.jp

新村出の居宅、新村出記念財団(重山文庫【ちょうざんぶんこ】)
MANON
「MANON」(4,179円)。色はライトブルー/ホワイト/ブラック/レッドの4色。
Zライトと聞くと、どうしてもアームスタンドを連想してしまうが、現行ラインナップにはコンパクトスタンドと呼ばれる、"く"の字ではない製品もある。
中でも1983(昭和58)年に発売された「MANON」は、20年以上に渡る隠れたロングセラー商品だ。全体が二つ折りになる独特のデザインが特徴で、セードを約45度以上開くと点灯し、それ以下にすると消灯する仕組み。また、センサーの働きによって、設定温度以上になると自動的に消灯する安全設計がなされている。ソリッドカラーのほかに、ブルー/オレンジ/ダークグレーのトランスルーセントタイプもある。
プライベートな書斎やオフィスで使ってもいいし、ベッドサイドにも似合いそう。価格が手頃なので、贈答用としても人気がある。

撮影/海野惶世(タイトル部) タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 Top of the page

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