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無線LAN、有線LANとの技術比較。HD-PLCはそれらの弱点を補う新しいネットワークだといえる。 |
それにしても、なぜパソコンの情報データが電力線に乗るのだろう? 素人考えでは電気と情報信号が互いに干渉し合って、うまくいかないような気がするのだが。
簡単に説明すると、PLCアダプターの親機(マスター)が情報データを高周波の電気信号(4MHz〜28MHz)に変換して電力線に乗せる。もともとの電力の波は大きくて信号の変化が遅く、周波数の高い情報データは小さくて信号の変化が早い。大きさも速さも異なる2つの波はPLCの技術によって一緒に送られ、PLCアダプターの子機(ターミナル)によって情報信号だけが取り出される。考え方としては、電話のアナログ加入回線に高周波の情報信号を乗せるADSLに近い。
「PLCは欧米では2000年前後から実用化されています。ただ商用がメインで、家庭用としてはほとんど普及していません。日本でも研究が進んでいたのですが、電波法の制限があって実用化できませんでした。06年10月に総務省が省令を改正し、屋内用に限って電力線通信が解禁になったのです」と中川さん。
ちなみにPLCにはHD-PLC、UPA、HomePlugという3つの方式がある。HD-PLCは松下電器が提唱している通信方式だ。
「この方式は効率良く高速通信が行えるのと同時に、既存の電波に影響を与えないよう、特定の周波数だけをカットする事ができます。また、ハードではなくソフトウエアで信号処理を行うので、小型化・内蔵化しやすいのです。家庭用としてベストな方式だと考えています」との事。
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増設用アダプターの設定も、親機(マスター)と同じ電源コンセントに差してボタンを同時に押すだけ。 |
では、PLCによって家庭内ネットワークが具体的にどう変わるのだろう?
PCCが最もアピールしているのは、乱雑になりがちなケーブルの引き回しが最小限で済み、設定が簡単という点だ。前者は有線LANに対するメリット、後者は無線LANに対するメリットになる。
有線LANの場合、パソコンの数が増えれば当然ケーブルの本数も増え、パソコン間の距離が広がればケーブルも長くなる。1階と2階のパソコンをつなぐ事も可能だが、それにはとんでもなく長いケーブルが必要だ。結果として、パソコン周辺をケーブルが這い回る事になる。部屋の美観を損ねるし、足を引っかける危険も残る。
PLCは最初から各部屋を通っている電力線を使うので、長いケーブルを引き回す必要がない。使うのはPLCアダプターとパソコンをつなぐ、ごく短いケーブルだけ。部屋の中はかなりスッキリする。
「無線LANならもっとスッキリするよ」と言われそうだが、パソコン上で行うネットワークの設定が難題だ。以前に比べると最近の無線LAN製品の設定はかなり簡略化されつつあるが、それでもある程度の知識がなければ難しい。PLCの場合、設定はアダプターを電源コンセントに差し込み、ボタンを押すだけ。設定済みのBL-PA100KTなら、ボタンを押す必要すらない。
加えて無線LANには、障害物や縦方向の通信に弱いという弱点がある。2階はともかく、3階以上ではうまくつながらないというケースも珍しくない。電波で情報をやりとりするので、通信内容が傍受される心配もある。電力線を利用するPLCは同じ分電盤を使っている限り、2階でも3階でも通信は可能だ。米国の商務省が選定した次世代の暗号化技術「AES128bit」を採用しているので、セキュリティ面の安心度も高い。
もうひとつネットワークで重要なのは、データ通信の速度。ネットワーク内の理論上の通信速度は、一般的な有線LAN(100BASE-T)で100Mbps、無線LAN(802.11a/g)なら54Mbpsだが、これらに対しPCCのHD-PLCは190Mbps(LANポートの仕様から実質的には100Mbps)もある。さすがに実効最大速度は55〜80Mbpsくらいに落ちるが、それでも有線LANに迫るくらいの高スピードといえるだろう。環境の影響を受けやすい無線LANに比べると遙かに速い。
セキュリティ面でちょっと不安なのは、電力線が他の家とも物理的につながっている事。だが配電盤が異なれば通信情報は大幅に減衰し、万一伝わったとしても高度な暗号化技術を採用しているため傍受される事はない。 |