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新IT大捜査線 特命捜査 第24号 ネットワーク化する自販機 災害対応型「非常時に頼もしい飲料自動販売機!」
 
  大地震などの災害時に飲料自販機を活用する仕組み
 
災害対応型自動販売機

災害対応型自動販売機。本体上部の電光掲示板には、災害情報やニュース等を表示することができる。

災害対応型自動販売機

2007年4月の能登半島地震の際には、輪島市内2ヵ所でフリーベンド機能により飲料の無償提供が行われた。

「日本は地震が多い国」というのは、今さら言うまでもない常識だろう。震度3程度の揺れは頻繁に経験するし、テレビの緊急地震速報にも慣れっこになってしまう。地震の少ない国から来日した外国人が非常に驚く(中にはパニックになる人もいるとか)事柄の一つには、この地震の多さ(とそれに対する日本人のリアクションの薄さ)があるそうだ。
もう一つ、外国人が日本にやってきて驚く事柄としては、街中に設置された自動販売機の多さも挙げられるだろう。日本国内の自動販売機の普及台数(2006年末時点、日本自動販売機工業会調べ)は約550万台。飲料用だけに限っても、その半数近くの約265万台だという。総数では米国より少ないそうだが、人口や国土面積を考慮に入れると体感での設置数の多さは世界一だろう。しかし日本人には自動販売機の多さはそれほど気にならず、生活の中に当たり前にある景色の一つになっている。
さて、「唐突に関係のない話題を並べて、いったい何のつもりだ?」と思われたかもしれない。しかし「日本国内で遭遇する頻度が高いもの」という共通項目しか持たないように思われるこの二つの事柄をつなぐのが、今回のテーマである「災害対応型自動販売機(地域貢献型自動販売機)」なのだ。
災害対応型自動販売機というのは、日本コカ・コーラと全国12のボトラー社等からなる企業体コカ・コーラシステム(以下、コカ・コーラ社)が、設置先の自治体等との間に締結する災害支援協定に基づいて共同で設置しているもので、大地震などの大規模な災害が起こった時に遠隔地からの無線操作により自動販売機内の飲料を無償で提供できる機能(フリーベンド機能)が搭載されている。この機能が稼働すると、自動販売機のボタンを押せば、自動販売機内に残っている飲料がどれでも無料で入手できるようになるのだ。また電光掲示板機能も備えているため、災害時には災害情報を提供することが可能。この電光掲示板機能は、平常時にはニュースや時報、自治体からの地域のお知らせ等を配信するメッセージボードとして利用される事が多く、日常的に地域におけるインフラの一つとして機能している。
設置場所は、災害支援協定を締結している地域の役所庁舎を始めとして、市民体育館や自治体関連施設等、災害時に避難場所となり得る公共性の高い場所が中心となっている。全国で初めて設置されたのは埼玉県上尾市の市役所。これが2003年3月の事で、その後、設置台数は自動販売機の社会的な価値の高まりに合わせて伸張傾向を示している。全国の様々な地域に設置されており、2008年1月現在では約4000台だ。
災害時にフリーベンド機能が役立った事例も既にある。2004年10月の新潟県中越地震では新潟県長岡市役所に設置された災害対応型自動販売機のフリーベンド機能が実際に稼働した。また2007年4月の能登半島地震の際にも、輪島市内に設置された2ヵ所で稼働し、地域の住民に緊急時の飲料を提供して支持を得た。

 
 
 
  内蔵の通信端末が無償提供機能と電光掲示板機能を実現
 
FOMA通信端末

災害対応型自動販売機に内蔵されているNTTドコモのFOMA通信端末。

仁科尚文さん

日本コカ・コーラ株式会社 カスタマー&コマーシャル本部 ベンディングチャネルリーダーシップ プラットフォーム開発グループ マネジャーの仁科尚文さん。

災害対応型自動販売機の仕組みを支えているのは、自動販売機に内蔵されているNTTドコモのFOMA通信端末だ。この端末を利用してFOMAネットワーク経由で専用サーバと通信を行えることが、フリーベンド機能と電光掲示板機能を可能にしているのだ。
遠隔地からの操作や災害情報の提供を実際に行うのは、自動販売機が設置されている場所を提供、管理している自治体などの担当者であることが多い。この担当者は、パソコンからインターネット経由で専用サーバにアクセスすることになる。操作のためのアプリケーションソフトは、サーバ上にインストールされたソフトを使用するASP(Application Service Provider)方式で提供されるため、自分のパソコンに専用ソフトをインストールする必要はない。つまり、ウェブブラウザでウェブサイトが閲覧できる環境さえあれば良いのだ。これは仕組みを普及させるうえで重要なポイントだろう。
もちろんセキュリティ面での配慮もなされている。まず、専用サーバにアクセスしてログインを行うためには、認証用USBキーが必要だ。これは小型のUSBメモリのようなデバイスで、操作を行うパソコンのUSBポートにこれを差し込まないとログインができないようになっている。第三者による不正アクセスを防ぐのに有効な物理的な仕組みというわけだ。また、担当者のログイン用ユーザIDはパワーユーザと一般ユーザに分けられ、アクセス権限はそれぞれ異なっている。つまり、ある担当者は平常時のニュースやお知らせの配信しかできないが、別の担当者はフリーベンド機能の稼働や災害情報の提供も行えるというような設定が可能になっているのだ。
ところで、担当者が現地の様子を確認しないで通信によってフリーベンド機能を稼働させてしまったら、たまたまその自動販売機の近くに一人でいた人物が全ての飲料を独り占めして持ち去ってしまうのでは、という懸念はないのだろうか。非日常の混乱状態でもあり、周囲に自分以外の人がいない状況だとしたら、そんな良からぬ考えに突き動かされてしまうかもしれない。担当者が現地に行って手動で自動販売機を開け、飲料を手渡しした方が良いのではないか。
「仕組みとしてはそのような事態が絶対に起こらないとは言えませんが、災害対応型自動販売機の設置場所は公共の施設が多いので、周囲には誰かしら人がいることがほとんどだと考えています。従ってそのようなリスクよりも、担当者が現地に辿り着くまでの時間を必要とせず、より迅速に飲料の提供を行えるという無線操作によるメリットを優先させた形です」(日本コカ・コーラ株式会社 カスタマー&コマーシャル本部 ベンディングチャネルリーダーシップ プラットフォーム開発グループ マネジャーの仁科尚文さん)
確かに、この仕組みの災害発生時における位置付けは、災害支援物資が到着するまでの一時的な「つなぎ」となる飲料を提供することだ。近年起こった大規模な災害の例を見ても、国や被災地以外の地方自治体、民間企業等が提供する災害支援物資は、ヘリコプター等を活用することで従来よりも迅速に現地に届くようになっている。災害対応型自動販売機の収納能力は、自動販売機の機種にもよるが合計でおよそ500本程度であり、大勢の住民に数日間提供できるという量ではない。人々が落ち着きを取り戻すのに必要な時間を持ちこたえられれば、それで十分なのだろう。

 

 
 
 
  出版社との協力関係をどう築いていくかが課題
 

さて、災害対応型自動販売機が登場した背景には、コカ・コーラ社がCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)活動の一環として、全国の自治体と結んでいる「災害支援協定」の存在がある。これはボトラー社が自治体と協議して、災害時における飲料の提供や情報伝達の協力体制等を定めたもので、2007年1月時点で全国211の自治体と締結されている。この数は2006年4月時点では122で、着実に数を増やしている。ただ、設置数を増やすことは目標ではない。
「企業の社会貢献活動の一つとして地域協定を結んでいく中で、飲料や情報提供の仕組みについての漠然とした要望が自治体側から寄せられました。その要望に対して私たちがご提供できる仕組みとして災害対応型自動販売機が開発され、その後、全国に設置されていくことになったのです。ですから今後も、ひたすらに災害対応型自動販売機の設置台数を増加させれば良いという姿勢にはなりません。『置いて意味のある場所』にちゃんと設置するというのが、一番大切な事だと考えています」(仁科さん)
つまりコカ・コーラ社にとっては、災害協定という包括的な「枠組み」がまず先にあるのであって、災害対応型自動販売機はあくまでもそれを充実させるための「要素」の一つとして捉えているのである。災害対応型自動販売機が「地域貢献型自動販売機」とも呼ばれるのは、このような理由からだ。
また、災害支援協定の内容は各自治体と個別に協議して決めるもののため、細かい点は各自治体によって異なっている。そのためフリーベンド機能や電光掲示板機能をどのように運用しているのかは、各自治体の状況によって異なっており、平常時に電光掲示板機能を使って表示するニュースや時報、自治体からのお知らせ等の内容についても、地域の事情に合わせて最適なものを選択できるようになっているそうだ。

 
 
 
  自販機の通信機能がもたらす更なる便利と快適
 
Cmode対応自動販売機

携帯電話によるキャッシュレス決済が可能な「Cmode対応自動販売機」。その他のキャッシュレス決済への対応も推進中だ。

ところで、災害対応型自動販売機が登場した背景としては自動販売機の「ネットワーク化」もある。これは別の言い方をすると自動販売機への「通信機能の搭載」となり、日本コカ・コーラでは1980年代後半から取り組み始めたのだという。想像以上に早くから始めていた印象だが、当初は「情報化」と呼んで有線(ケーブル経由)のネットワーク構築を想定していたのだそうだ。しかし、その後の携帯電話の技術発展に伴って有線から無線(携帯電話の通信網経由)に進化し、現在に至っている。そして、ネットワーク化によってもたらされるメリットとしては、災害対応型自動販売機の他に、オペレーション作業の効率化とキャッシュレス決済機能の搭載が挙げられる。
オペレーション作業の効率化でまず考えられるのは、通信機能を利用して作業担当者が各自動販売機の在庫状況を確認できることにより、製品補充が迅速に行えたり手間が軽減されることだ。具体的にはスポーツ飲料の売り上げが目立つ自動販売機ではその品揃えを充実させるというように、売り上げデータを元に販売製品のラインナップを決定するという活用方法も考えられる。コンビニエンスストアやスーパー等で使われているPOS(Point of Sale:販売時点情報管理)システムを思い浮かべるとイメージしやすいかもしれない。また、今年の1月から東京等の都市圏を中心に導入を始めたコカ・コーラ自販機の「1往復オペレーションシステム」では、ネットワーク機能を活用して製品の補充等を担当するルートセールスマンの作業負担を軽減し、サービスクオリティの向上を目指すもので、自動販売機オペレーションに新しい可能性を提供している。
キャッシュレス決済機能は現在、街の自動販売機でも利用できるものが増えている。既にその快適さを実感している人も多いかもしれない。携帯電話やICカードに搭載された電子マネーやクレジットカード機能を使って飲料を購入できるもので、日本コカ・コーラでは業界に先駆けて2002年に携帯電話によるキャッシュレス決済に対応した「Cmode対応自動販売機」(愛称:シーモ)を導入。その後も、ケータイクレジットの「iD」や「おサイフケータイ」、電子マネーの「Edy」や「Suica」への対応を推進している。これらのキャッシュレス決済サービスに対応した自動販売機の数は、2008年度末までに7万台に拡充される予定だという。

 
 
 
  自動販売機の進化の先にあるエコとユニバーサルデザイン
 
e-40

次世代自動販売機の新機種「e-40」(イーフォーティ)。既存機に比べて約40%もの省エネを実現している。

happiness cafe

次世代自動販売機の新機種「happiness cafe」(ハピネス カフェ)は、既存機では販売できなかった1Lペットボトルやパウチパックにも対応。

最後に、自動販売機がこれからどのように進化していくかを見ていこう。
「業界全体の進化の方向は、環境への配慮とユニバーサルデザイン対応があります。これは世界全体の流れでもありますし、社会貢献という意味でも重要なポイントだと考えています。日本コカ・コーラでも、新しい自動販売機を開発する上で特に力を入れている部分の一つです」(仁科さん)
日本コカ・コーラでは2008年に入って、次世代自動販売機の新機種「e-40」(イーフォーティ)を投入。この機種は既存機に比べて約40%もの省エネを実現しており、オゾン層破壊防止と地球温暖化防止に貢献するノンフロンガスを冷媒として採用している。また、誰でも楽に製品を取り出すことができるように、本体中段に取り出し口が設置されている事も特徴だ。正しく環境への配慮とユニバーサルデザイン対応を具現化した機種だと言える。
また、進化はエコとユニバーサルデザインの面だけではない。e-40と同時に投入開始された次世代自動販売機の新機種「happiness cafe」(ハピネス カフェ)は、既存機では販売できなかった1Lペットボトルやパウチパックにも対応している。こうなってくるともう、小規模の店舗と言えるくらいの品揃えが可能だ。こちらも省エネとユニバーサルデザインに対応しており、両機種ともキャッシュレス決済機能も搭載している。
今後も、このような進化への努力は続けられていくだろう。自動販売機は日本人にとって身近なものであり続けるし、社会的なインフラとして生活の中に溶け込んでいるものだからこそ、より便利で快適な機能と性能を求められるからだ。自動販売機のネットワーク機能の新たな活用方法が考案される事も十分に考えられることだ。誰もが驚嘆するような機能が搭載された飲料自動販売機の登場を楽しみに待ちたいところだ。

 

取材協力:日本コカ・コーラ株式会社(http://cocacola.co.jp/

 
 
坂本 剛 0007 D.O.B 1971.10.28
特命捜査 第24号 ネットワーク化する自販機 災害対応型「非常時に頼もしい飲料自動販売機!」
イラスト/小湊好治 Top of the page

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