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世界IT事情 ITを通じて世界の文化を見てみよう! 第12回 タイ、バンコク発
「携帯電話×テレビ=ITエンターテインメント」
携帯電話がないとにっちもさっちも行かない

10年ほど前のタイでは携帯電話を持っている人はごく少数派だったが、今では持っていない人を探すのが難しいほどだ。タイ人の生活必需品といっても過言ではないだろう。タイで携帯電話がこれほど普及したのにはいくつかの理由がある。まず、タイ人は長電話が大好きだということ。というのも、タイの固定電話は区域内通話であれば1通話が3バーツ(約10円)と、通話時間で課金されないため、料金を気にせずに延々と話すことができる。そのことが携帯を含め「電話好き」な文化を生んだのだろう。次に、インフラの整備が遅れているため、自宅に固定電話を引いていない世帯が多いということ。固定電話の料金が安価とはいえ、地方では固定電話を申し込むと半年とか1年待つという話は珍しくないし、首都バンコクでも回線が敷設されているエリアとそうでないエリアがあり、申し込んでも断られて、泣く泣くあきらめなくてはいけない場合がある。

携帯電話からのSMSでひいきのタレントの卵を応援。リアルタイムで得票に反映される。

携帯電話自体の価格や通話料も安くなった。出始めた頃は1分3バーツだった通話料金も、携帯キャリア各社の競争が激しくなるにつれてどんどん値下げされ、一定料金を払えば特定の時間帯はかけ放題などという料金設定も登場したし、何より電話本体が10年前の10分の1ほどの値段になったので、所得を問わず、老若男女の誰もが携帯を持つことができるようになった。
そして最後に、タイ人は負けず嫌いな国民であるということ。コンパクトに持ち運びができる携帯電話は、衣類や自家用車以外で自分のステイタスを示すことができる装飾品の一つなのだ。
固定電話が普及していないのでインターネットが利用できない地域もあるし、人口の約半数を占める、農業や漁業といった第一次産業従事者にとっては、コンピュータというツールはまだまだなじみが薄い。そこで必然的に、携帯電話が威力を発揮するというわけだ。

 

自分の「お気に入り」をSMSで応援

日本ではインターネットの普及につれてテレビの視聴時間が減少傾向にあるようだが、タイではテレビは無料で楽しめる娯楽の最たるものである。そのテレビと携帯電話を融合させた娯楽が、視聴者参加型のテレビ番組だ。視聴者がSMS(ショートメッセージ)と呼ばれる携帯メールを番組に送ることで、自分の意見や感想を述べたり、投票したりすることができる。特にこの2〜3年人気なのが、SMSで出場者へ投票する公開オーディション番組である。出場者はステージ上で歌やダンスを披露して、審査員評と視聴者投票の結果を合わせて、最終的に勝ち抜いた人には、本格的なデビューのチャンスが与えられるというものだ。このオーディション番組の特徴は、ステージ上の華やかな姿だけでなく、監視カメラが設置された宿舎で出場者がレッスンに励む姿や共同生活している様子を、ドキュメンタリー的に追っていくことだ。そこには、歌やダンスの技量といったスターの素質だけでなく、人間性も余すことなく映し出される。スターの卵たちの素顔に触れることで、視聴者は感情移入して、より一層、応援に熱が入るというわけだ。

生活必需品として、またテレビを存分に楽しむツールとして携帯はタイの人々の生活に浸透している。

オーディション自体は公開生放送なので、公式サイトからSMSで入場券を入手すれば、会場で自分のお気に入りの出場者を応援することもできる。もちろん、テレビの前からSMSで投票や応援メッセージを送っても良い。番組は「Season X」というように回ごとに出場者が入れ替わるのだが、出場者全員をユニットとして扱い、合同コンサートを開いたりCDを発売したりと、単なるオーディション番組に終わらないところがこの番組の画期的なところだろう。公式サイトでは、過去のオンエア分を視聴したり、携帯用の着メロや待ち受け画面などのコンテンツを無料でダウンロードすることができる。単なるアマチュアに過ぎない、未来のスターである出場者を、無名のうちから応援させることで、確実にファンを集めるという作戦なのかもしれない。
タイ語には、日本の「衣食住」に相当する「四依(パヂャイ4)」という言葉がある。衣食住に薬を加えた4つを指すのだが、最近ではそれに携帯電話を加えて、「五依(パヂャイ5)」と呼んだりするくらいだ。単なる電話を超えた使い方は、今後もどんどんと開発されていきそうな気配である。

特派員プロフィール

増成ヒトミ(ますなり・ひとみ)
1997年からタイの首都バンコク在住。バンコクを中心とするタイのさまざまな情報を、雑誌やインターネットを通して広く発信する他、タイ/日本語の実務翻訳や通訳も手がける。連載エッセー「タイ発バンコクな毎日

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