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ニッポン・ロングセラー考 Vol.74 ピーナッツ入り柿の種 亀田製菓 おやつにもビールのお供にも半世紀以上の歴史を持つ米菓の定番

日本を代表する米菓は偶然から生まれた

創業者・古泉榮治

創業者の古泉榮治氏(故人)。

馬場式袋詰機

自社開発した「馬場式袋詰機」にて柿の種を封入。作業効率は従来の3〜4倍になった。

サラダホープ

最初の大ヒット商品「サラダホープ」。社会の洋風化を先読みしていた。

ピリ辛の醤油味が効いた小さなあられと、香ばしいピーナッツ。この2つがほどよいバランスでミックスし、そこに独特のおいしさが生まれる──。おやつやおつまみとして、日本人には欠かせない存在になっている柿の種。子供もお年寄りも、男性も女性も、酒好きの人もそうでない人も、本当によく柿の種を食べている。これほど日本人に愛されているお菓子は、他にないかもしれない。
考えてみれば、柿の種は不思議な商品だ。商標登録されているわけではないので、いろいろなメーカーが作って販売している。かりんとうやポテトチップスと同様、お菓子のジャンルの一つなのだ。だが、多くの人は柿の種を固有の商品名だと思っているのではないか。たぶん頭の中にあるのは、黄色い表面に赤い帯がついたパッケージのイメージ。そう、亀田製菓が作っている「亀田の柿の種」だ。
なぜ、亀田の柿の種だけがこれほど有名になったのだろう? 疑問は他にもある。柿の種の形をしているのはあられだけなのに、なぜピーナッツが入っているのだろう? いったい誰が最初にピーナッツを入れたのだろう?

そもそも柿の種は、新潟県長岡市で生まれたあられ菓子(米菓)だった。時は1924(大正13)年。地元で米菓を作っていた浪花屋製菓の創業者が、誤って小判型の金型を踏んでしまった。それをそのまま使ったところ、取引先から柿の種に似ていると言われて商品化したのである。
味は今も変わらないピリ辛の醤油味。この柿の種は浪花屋製菓が製法を開示したため、戦前・戦中・戦後にかけて多くの会社が製造し、新潟ではすっかりポピュラーなお菓子になっていた。

一方の亀田製菓のルーツは、1946(昭和21)年に創業者の古泉榮治が始めた小さな町工場にまでさかのぼる。戦後間もないこの時期、日本では慢性的に甘みが不足していた。そのため、麦芽から水飴を加工し、菓子メーカーへ卸す商売などが全国各地で盛んに行われていたのである。
亀田製菓は前身である亀田郷農民組合委託加工所時代の50(昭和25)年から「柿の種」を製造販売していたが、榮治が仲間たち6人と一緒に始めたのも水飴の商売だった。ある時榮治は、麦芽からではなく、米から水飴を作る方法があることを聞きつける。新潟は米所だから原料には困らない。しかも生産効率も良いらしい。榮治らは大枚をはたいて設備や原料、技術者を用意した。ところが、これがうまくいかなかったのである。このままでは大量に購入した米が無駄になってしまう。そこで、仕方なく米菓を作ることとなった。その後は水飴をやめ、米菓専業へとシフトしていくのだが、背景には、東京の大メーカーが飴菓子に本格的に参入してきたという事情もあった。

柿の種などの米菓や焼菓子を生産するようになった榮治らの事業は軌道に乗り、1957(昭和32)年には亀田製菓株式会社を設立。既に100人以上の従業員を抱えるまでになっていた。亀田製菓は、米菓業界がまだ小規模なうちに地歩を固め、日本一のメーカーになることを目指す。問屋と衝突して新潟での販売から閉め出されたこともあったが、逆境を逆手にとって東京へと進出。また魅力ある商品を次々と生み出すため、60(昭和35)年には製造部に研究室を設置して、製造技術の開発、機械の改良、新製品開発などに力を注いだ。
その結果、61(昭和36)年には塩味の洋風菓子「サラダホープ」が大ヒット。64(昭和39)年には売上高も10億円を越えた。亀田製菓は県下有数の米菓メーカーとなっていく。


ビールのドライブームに乗り、売り上げが約3倍もアップ!

「ピーナッツ入り柿の種」

記念すべき最初の商品「ピーナッツ入り柿の種」。

「フレッシュパック柿の種」

個包装で新たな市場を開拓した「フレッシュパック柿の種」。

現行商品「スーパーフレッシュ柿の種6個装」

現在の主力商品「スーパーフレッシュ柿の種6個装」。菓子業界屈指のガリバー商品でもある。

さて、話の本題はここからである。柿の種が新潟で生まれ、やがて全国的な商品になったことは分かったが、ピーナッツを入れたのはいったい誰なのか?
これには諸説あるが、有力なのは次の2つ。一つは、帝国ホテルのバーが、それまで単品で提供していた柿の種とピーナッツを混ぜて出したという説。フランク・ロイド・ライトが設計した旧帝国ホテル時代の話で、西洋にならって酒のつまみにサービスナッツを提供する際、日本らしさを出そうとして柿の種が選ばれたという。
もう一つの説は、創業間もない亀田製菓の直売所が舞台。店番をしていた創業者の奥さんの前に、瓶詰めの柿の種とピーナッツが並んで置かれていた。この2つを一緒に食べてみたらどんな味がするだろうとふと思った奥さんは、さっそく実行。そのおいしさに驚き、店でも売ってみたところ、あまりに評判が良かったので商品化したという説である。
どちらの説が本当なのか、あるいは全く別の起源があるのかは不明だが、ピーナッツ入り柿の種を最初に発売した米菓メーカーが亀田製菓であることは間違いないようだ。

亀田製菓が「ピーナッツ入り柿の種」を発売したのは、1966(昭和41)年。だが発売当時から圧倒的な売り上げを誇っていたわけではなかった。
そんな状況が変わったのは、77(昭和52)年に発売した「フレッシュパック柿の種」がきっかけだった。これは、同社が食べきりサイズの個包装(43g×6袋)を採用した初めての製品。そもそもの狙いは鮮度の追求にあった。ピーナッツには油分が多く含まれるため、大きな袋詰めでは一度開封すると、どうしても酸化して味が落ちてしまう。それを避けるため、個包装にして窒素を充てんしたのである。
この製品は、柿の種をめぐる食のシーンを大きく変えた。個包装だから、自分が食べたい分だけをどこにでも持って行ける。それまでは一家だんらんで食べるスタイルが主流だったが、子供が自分の部屋で食べる個食スタイルや、家族が行楽へ持っていくアウトドアスタイルが誕生したのである。
この製品の登場により、「亀田の柿の種」の売り上げは大きく伸びた。「フレッシュパック柿の種」の製品仕様は、そのまま現在の主力商品「スーパーフレッシュ柿の種6個装」に受け継がれている。

「亀田の柿の種」の商品力が高かったことは間違いない。だが、それを一気に大ヒット商品へと成長させた大きな要因は他にあった。80年代後半から90年代前半にかけて起こった、ビールの“ドライ戦争”である。全く新しい味の登場に活気づいたビール業界は、この間に全体の消費量が約3割伸びたと言われている。だが、「亀田の柿の種」の伸び率はそんなものではなかった。なんと3倍弱も売り上げを伸ばしたのである。
それまでもロングセラーではあったが、それが一気にトップ商品へと躍り出たのである。もちろん、登場した時から柿の種はビールのおつまみとして食されてきた。それが完全に定着したのが、この時代だったと言えるだろう。

亀田製菓は流通面でも積極的に挑戦した。50年代末から登場し始めたスーパーマーケットの可能性に着目し、早くからスーパー経由の流通に重点を置いたのである。販売店での状況把握を主眼とした女性の専門部隊「婦人ヘルパー制度」を1967(昭和42)年に設けるなど、そのアプローチは独特かつ綿密なものだった。その結果、「亀田の柿の種」は全国のスーパーの菓子コーナーやビール売り場の隣で販売され、主婦層がこぞって購入する“家庭に置いておきたいお菓子”の一つとなった。
販促面では、69(昭和44)年からテレビCMを行っていたが、90(平成2)年から「亀田の柿の種」のテレビCMをスタート。タレントの武田鉄矢や内藤剛志などを起用し、積極的に若年層への浸透を図った。

会社の規模も年を追って拡大。売上高は1974(昭和49)年に100億円になり、翌年にはついに米菓メーカーで日本一の座を獲得した。91(平成3)年には売上高700億円を達成。小さな「亀田の柿の種」が、会社躍進の大きな原動力になったのである。

 

おいしさの秘密は柿の種とピーナッツの混合比率にあり

わさび柿の種

1982年に一度発売された「わさび柿の種」。

現行の「スーパーフレッシュわさび柿の種」

シリーズで唯一定番化された味のバリエーション「スーパーフレッシュわさび柿の種」。

パッケージのブルーリボン

パッケージのブルーリボン。数ある亀田製品の中でも柿の種にしか付けられていない。

「亀田の柿の種」については、よく語られる話題がもう一つある。それは、柿の種とピーナッツの混合比率。よく食べるファンほど気になるようで、ネット上には実際に数えてみたとか、商品毎に調べてみたという声が上がっている。
本当のところはどうなのか。担当者の答えは、「(重量比で)発売当時は柿の種7に対しピーナッツが3だったが、途中で一度5対5になり、今は6対4に落ち着いている」というもの。5対5に変えた時期は不明だが、正確な記録が残っていないことから、かなり昔のことだと思われる。この時は「もっとピーナッツを食べたい」という消費者の声に応えて変更したが、実際にピーナッツを増やしてみたら、あまり評判がよくなかったらしい。亀田製菓はすぐに比率を見直し、さまざまな調査を行った末、現在の6対4に決定した。ちなみにこの混合比率は、消費者の70%が支持しているという。この比率の面白いところは、一人ひとりの消費者の食べ方が違ってくる点だ。先に柿の種だけを食べてしまう人や、自分好みの混合比率に変えてしまう人が多いのである。その意味では、最も許容度の大きい、消費者ライクな比率なのかもしれない。

肝心の味については、発売当時からほとんど変わっていない。柿の種はピリッとした辛さのある醤油をメインに砂糖や調味料などで味付けされ、バターピーナッツと混合される。
興味深いのは、2000(平成12)年まで味のバリエーションが登場しなかったことだろう。正確に言えば変わった味の柿の種が30品目ほど発売されているのだが、どれも定番化することはなかった。「亀田の柿の種」ラインナップに名を連ねることができたのは、この年に発売された「スーパーフレッシュわさび柿の種」が最初なのである。
柿の種とピーナッツの絶妙なバランスから生まれる、シンプルで奥深い味わい。この味があまりにも深く消費者に浸透しているので、新製品を根付かせるのが難しいのだ。むしろ、わさび味が例外的に受け入れられたと考える方が自然なのかもしれない。

大きく変わっていないのはパッケージも同様だ。伝統的に使われているのは、黄色をベースに赤の帯を袋の両端に入れるというデザイン。1994(平成6)年からはこのデザインに、青で描かれたリボンの上に亀田製菓の亀甲マークをあしらった図柄が加わっている。
このリボンが追加された背景にもちょっとした経緯がある。当時、ある大手スーパーが「亀田の柿の種」(店頭実勢価格298円)より100円も安いプライベートブランドの柿の種を発売した。亀田製菓は徹底したコストの見直しを図り、品質を維持しながら同じ価格で対抗。市場競争は仕方がないが、困ったことに亀田製菓に味や食感が違うというクレームが入るようになった。消費者が商品を間違えて購入していたのである。そこで同社は品質を証明するため、パッケージを思い切って目立たせることにした。食品のパッケージでは珍しい青色をあえて使ったのは、これならどこも真似できないだろうという、自信の表れなのである。


 
日本食ブームと健康志向を背景にアメリカへ進出

「Kameda Crisps」

アメリカで販売している「Kameda Crisps」。パッケージのデザインが日本仕様とは異なる。

中国で販売している「亀田の柿の種」

中国で販売している「亀田の柿の種」。パッケージのデザインは日本とそっくり。

50年以上にわたって日本人に愛されてきた「亀田の柿の種」。数ある柿の種の中でもその存在感は圧倒的で、柿の種と言えば「亀田の〜」という形容詞が付くほど知名度は高い。実際の売れ行きも驚くほどで、柿の種の市場規模が250億円程度のところ、その半分以上を亀田が占めているのだという。ちなみに2007(平成19)年のデータでは、「亀田の柿の種」はお菓子全体の中でもNo.1の売り上げを記録している。想像以上のガリバー商品なのである。
生産量は公表されていないが、工場で一日に生産される量を縦に並べると、日本からハワイまで届く距離になるのだとか。ここまで売れているなら、日本だけで販売するのはもったいなく思えてくる。

という理由からではないが、亀田製菓は2008(平成20)年5月から柿の種をアメリカで試験販売している。背景にあるのは、アメリカにおける日本食文化の浸透と健康志向の高まり。肥満が社会問題になっているアメリカでは、油で揚げていないローファットなスナックが求められているのである。

アメリカで販売している柿の種の商品名は「Kameda Crisps」で、種類はオリジナルとわさびの2種類。当初は和名をそのままアルファベットに置き換えて「kakinotane」としていたが、アメリカ人には発音が難しいため途中で変更した。
柿の種自体は日本で生産した味付けが全く同じものを輸出。ピーナッツはイリノイ産の大きめのものを使っている。味もアメリカ人の嗜好に合わせてあり、日本の製品よりやや塩味を効かせているのが特徴だ。
値段は3ドルと、日本で買うよりやや高め。当初はアメリカ西海岸南カリフォルニアのアジアンマーケットを中心にテストを続け、現在はアッパークラスの消費者が利用するスペシャリティストアや有機系食品を扱うスーパーにまで広がっている。

更に今年の1月からは、中国での販売を開始。日系のスーパーやコンビニを販路としたテスト販売なのでまだ小規模なビジネスだが、いずれはこちらでも大きな市場を獲得したいと考えているようだ。柿の種は亀田製菓の世界的戦略商品なのである。そう遠くない将来、人々が「亀田の柿の種」をつまみながらビールを飲んでいる光景が、世界中で見られるようになるかもしれない。

この7月からは、全国に向けて久しぶりのテレビCMが始まる。ロングセラーにしてベストセラーでもある「亀田の柿の種」。国内に向けても海外に向けても、その勢いは止まらない。

 
取材協力:亀田製菓株式会社(http://www.kamedaseika.co.jp/
     
こんなユニークな柿の種が!──要注目の期間限定商品
「スーパーフレッシュ塩だれ柿の種」
「豆板醤」「チョコ」「しょうゆマヨネーズ」
復活なった「スーパーフレッシュ塩だれ柿の種」。チキンの旨みとピリ辛の黒胡椒が効いている。 2003年に発売された「スーパーフレッシュ豆板醤柿の種」、2005年に発売された「チョコ柿の種」の「ミルクチョコ」と「きなこチョコ」、2007年に発売された「しょうゆマヨネーズ柿の種」。

米菓の消費者は、その大半が中年以上の女性が占めているという。「亀田の柿の種」がユニークなのは、その傾向が当てはまらないことだろう。もともと性別や年齢層を問わない商品だが、それだけではない。2001(平成13)年以降、毎年のように期間限定の「亀田の柿の種」を発売し、新規ユーザー、それも若年を重視した新規需要の開拓に努めているのである。主なラインナップは、「キムチ」(2001年)、「コチュジャン」(2002年)、「豆板醤」(2003年)、「チョコ柿の種」(2005年)「マヨネーズ」(2006年)、「ペッパー&マヨネーズ」(2008年)など。確かに若者受けしそうな味が選ばれている。ちなみに最も好評だったのは5年前に発売した「塩だれ」。ファンからの復活希望が多かったため、今年3月から8月末まで期間限定で復活販売されている。

 
タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 取材編集/バーズネスト Top of the page

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