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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

福井県鯖江市、日本のメガネのほとんどを作る「めがねのまち」である。その国内シェアは90%以上、世界シェアでも20%近いというから、押しも押されもしない大産地である。しかし、「これが鯖江のメガネだ」という商品を知っている人は何人いるだろう。
そうした無名のものづくりに飽き足らない若い経営者の中には、独自のブランドを立ち上げて世に問う動きも出て来ている。その代表格のBOSTON CLUBは8年ほど前から青山に、そして昨年銀座にGLOSSという直営店を出している。今回紹介するのは彼らのブランドの一つJAPONISMのなかの竹製メガネフレームである。
何よりも竹の質感が美しい。この素材が何世紀にも亘ってこの国で愛されてきた理由が分かる気がする。竹稈(ちっかん)の外皮のつややかな硬質感に包まれた肉部の優しい充実感。そしてさらりとした清潔感。素材としての軽くてしなやかで強靭な性質は、外皮が付いているからこそ保てるのである。ということは木のように削って形を作る訳にはいかない。外皮を残しているからには竹の表面に沿って形を切りだしているはずである。
素材の竹は京都のものだという。京都の竹工芸は平安時代以来の長い歴史と技を誇る。伝統の京銘竹の中に角竹という種類がある。まだ柔らかいタケノコのころから木枠をはめて育てるので断面が四角くなるのである。メガネのテンプルのしなやかなカーブ、人の顔に形に沿ったフレームの自然な曲面を、職人は竹稈の表面に読み取り、けがき、切り出してゆく。円筒では限界があると知れば時間をかけて竹そのものを思いどおりに造形するのだという。
竹は抗菌効果を持ち水にも強いので、あえて塗装をしなくても長く使える。愛用するうちにアメ色に変化し、風合いを増してゆくところも竹ならではの特徴である。写真の無垢の他に、独特の模様が入った紋竹、胡麻、そして燻したような焼亜麻などのバリエーションがある。
テンプルの内側にしっかりと埋め込まれたステンレスのバネ蝶番は、このメガネが竹という素材を活かす匠の技と、世界水準の眼鏡工学のコラボレーションであることを思い起こさせてくれる。

Vol.01 竹のメガネ 鯖江の眼鏡工学×京都の竹工芸

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年〜88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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