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ニッポン・ロングセラー考 Vol.84 マ・マースパゲティ マ・マーマカロニ(日清製粉グループ) パスタ普及のきっかけを作った国産スパゲティの代表選手

連続式自動量産機を導入し、スパゲティの製造を開始

発売当時の「マ・マーマカロニ」

発売当時の「マ・マーマカロニ」。マ・マー人形が大きく描かれている。

発売当時の「マ・マースパゲティ」

こちらは発売当時の「マ・マースパゲティ」。英文ロゴのスパゲティがハイカラなイメージ。

カレーライス、コロッケ、ハンバーグ…戦後になって普及が進み、今ではすっかり大衆化した洋食メニューの数々。中でもパスタ料理は種類が多く、誰もが週に何度かは必ず口にしているのではないだろうか。
乾麺の国産スパゲティは戦前からあったが、本格的な大量生産が始まったのは1956(昭和31)年から。この年に誕生したのが、今回取り上げるパスタ界のロングセラー、日清製粉グループのマ・マーマカロニ(株)が製造している「マ・マースパゲティ」だ。

マ・マーマカロニ(株)は既にその前年、イタリアからショートパスタ自動製造機を輸入しマカロニを発売していた。「マ・マー」というユニークな商品名は、家族の中心にいるママのように、台所の主役になることを願って付けられたという。日本におけるパスタの大量生産はここから始まったため、1955(昭和30)年は“パスタ元年”と呼ばれている。
すぐにスパゲティを追加した理由は、「古くからうどんや蕎麦などの麺類に親しんできた日本人には、ロングパスタの方が好まれるに違いない」という判断からだった。同社は新たにイタリアからロングパスタ自動製造機を輸入し、いち早くスパゲティの量産化を推進。この時輸入した機械は、国内で稼働した連続式自動量産機の第一号となった。

発売当時の人々の反応はどうだったか。マカロニもスパゲティも、多くの人にとってはほとんどなじみがない食べ物。案の定、反応は芳しくなく、食品店の店頭でサンプルを配っても生のまま食べて怒り出す人や、マカロニを見て「変わった形のローソクね」と言って、不思議がる人もいたという。
スパゲティには日本の食文化を変える大きな可能性があると考えていたマ・マーマカロニ(株)は、スパゲティの普及を目指し、独自の方策を次々と打ち出してゆく。


料理研究所や講習会を通じてスパゲティの普及を促進

初期の頃の販売風景

登場初期の販売風景。商品を説明するため、店頭での実演販売を行っていた。

初期の宣伝カー

初期に活躍した宣伝カー。全国を走り回り、随所で出張講習会を行っていた。

有楽町店の内部

パイロット店として話題になった有楽町店。若い女性に大人気だったという。

同社が最初に手掛けたのが、「マ・マー料理研究所」。これはパスタ普及を目的に社内に作った独自の研究施設で、ナポリタンのように、主にケチャップを使ったメニューの開発に取り組んだ。そのレシピ開発力は目覚ましく、100種類程度のメニューがここから誕生したという。
メニューを開発しても、実際に料理を作ってもらわなければスパゲティの普及にはつながらない。同社は栄養士を交えた料理講習会を全国各地で開催し、パスタの普及に努めた。見たこともないパスタから生み出される、お洒落で美味しい料理の数々。講習会は各地で人気を呼び、毎回多くの主婦が集まったという。

研究所や講習会と共に「マ・マースパゲティ」の販売を後押ししたのが、ユニークな宣伝活動だった。発売初期には自社のトラックに「マ・マー」の看板を付けて走らせたほか、同じく看板を付けた宣伝カーを全国の営業拠点に配置。店舗や卸を訪問するだけでなく、フライパンと七輪を積んで出張講習会を開催したりした。
また、ラジオの公開番組のスポンサーになり、その中の実演コーナーで直接「マ・マースパゲティ」を宣伝するなど、マスメディアを通じた宣伝活動も積極的に行った。

「マ・マースパゲティ」の知名度アップに貢献したもうひとつの要素は、直営レストランの経営だろう。1966(昭和41)年、東京の有楽町に店舗をオープン。当時としては最先端のトレンドを体験できるお洒落なスペースで、若い女性を中心に大勢のお客が詰め掛けたという。これは商品に対する反応をリサーチするパイロット店舗であり、来客の口コミ効果を狙う販促拠点としての役割も担っていた。

メーカー側からだけでなく、意外なところからの後押しもあった。1962(昭和37)年から、学校給食にマカロニやスパゲティが採用されたのだ。40歳代前後の世代には、アルミの皿に盛られたナポリタンやマカロニサラダの記憶があることだろう。
これ以降、学校でも家庭でも、スパゲティは次第に日常的なメニューになってゆく。


パスタの原料と 「マ・マー人形」はどう変わった?

パッケージの変遷

上から1962年頃、1970年頃、現行(1.6mm、300g)の各パッケージ。

今でこそ乾燥スパゲティにはさまざまな太さと容量があるが、発売当時はどうだったのだろう? 発売当時は恐らく2mm近くもある太い麺だったようだ。
今でこそパスタの原料はデュラム小麦のセモリナ(パスタ専用のデュラム小麦を粗挽きしたもの)100%が普通になっているが、初期の「マ・マースパゲティ」は、製パン用の強力小麦粉を使用していた。これは、デュラム小麦の絶対量が少なく価格が割高だったことと、発売当時の日本人の味覚がソフトな食感を求めていたためとか。

「マ・マースパゲティ」は1965(昭和40)年に、初めてデュラムセモリナを強力小麦粉と混合して使用。以降は3割、5割と、徐々にその混合比率を上げていった。
デュラムセモリナ100%使用の製品を発売したのは、1986(昭和61)年。この頃、外食業界ではイタリアン・パスタのブームが起こり、本場物に対するニーズが高まっていた。デュラムセモリナは弾力性に富んでおり、生地の形成がしやすく、茹でても強いコシが残る。もともと麺にこだわりがある日本人だから、デュラムセモリナへの移行も早かった。「マ・マースパゲティ」を筆頭に、市販の乾燥スパゲティは次々とデュラムセモリナ100%へとスイッチしてゆく。

ここで、パッケージの変遷に目を向けてみよう。「マ・マースパゲティ」と言えば、まずあの特徴的なキャラクター「マ・マー人形」をイメージする人も多いはず。現在のデザインは、頭にヘアバンドをして首を少し傾げ、胸にはエプロンを掛けて、右手をやや上に差し出しているというもの。
実は発売当時のパッケージに描かれた「マ・マー人形」はかなり違っていて、顔には目と口だけのデフォルメされたデザインが採用されていた。ヘアバンドもエプロンもなく、持ち上げた右手には、スパゲティを盛りつけたお皿が載っている。これが1970(昭和45)年頃には、顔に鼻が描かれ、エプロンを着用する姿に変わった。
細部は変わっているのに、ママの優しいイメージは全く変わっていない。印象の強さを含め、秀逸なキャラクターデザインと言えるだろう。

商品パッケージの変更も何度か行われている。発売当時は幾何学的な模様を前面に押し出していたが、1970(昭和45)年からは、「マ・マースパゲティ」デザインの大きな特徴となっている緑、白、赤の3色のイタリアンカラーを使用したデザインを採用。2008(平成20)年からは麺の太さとゆで時間を今までよりさらに大きく表示し、合わせて「軽めのソースがよく合う、細めのスパゲティ」といった分かりやすい特徴を併記。消費者視点に立った、使い勝手を考えたデザイン変更を行った。


“本場物志向を経て、今は細めの麺と冷凍パスタが人気

密封チャック付結束スパゲティ1.6mm 600g

密封チャック付結束スパゲティ1.6mm(600g)。いちいち計量しなくて済む。

プロントスパゲティ1.5mm 300g

プロントスパゲティ1.5mm(300g)。ゆで時間はわずか3分!

冷凍専用パスタCool'sスパゲティ1.3mm 300g

冷製専用Cool'sスパゲティ1.3mm(300g)。ひんやり弾む食感が魅力。

(冷凍の)明太子といか

冷凍パスタの新製品「明太子といか」。電子レンジで温めるだけでOK。

「マ・マースパゲティ」の販売量は、発売からほぼ一貫して右肩上がりに上昇してきた。ここ3、4年はやや伸びが鈍化しているが、それでも常に国内トップブランドであり続けている。
日本パスタ協会のデータによると、昨年度のスパゲティ国内生産量は約12万4000トン。この数字はここ5年ほどあまり変わっていないが、一方でスパゲティの輸入量は増えている。昨年度の輸入量は約10万6000トン。近年の円高もあり、日本に入ってくるスパゲティは徐々に増えているのだ。ちなみにその約7割はイタリア産だという。
スパゲティ人気の背景に、不景気を背景にした内食化傾向があることは確かだろう。
スパゲティは単価が安く、昼食にも夕食にもと食シーンが幅広い。子供から大人まで、どの世代にも好まれる。メニューのバラエティは和・洋・中と驚くほど多彩で、頻繁に食べても飽きることがない。しかも、作るのが非常に簡単だ 。

「マ・マースパゲティ」の強味は、消費者のニーズをいち早く取り入れた、多彩なバリエーション展開にある。乾燥タイプはもちろん、冷凍タイプ、パスタソースに至るまで、他社を圧倒するラインアップを揃えているのだ。
乾燥タイプで最も売れているのは、1.6mmの300g入りパッケージ。スパゲティ1食分の目安は約100gだが、最近は計量の手間が省ける結束タイプの商品がよく売れているという。また、「マ・マー プロントスパゲティ」も販売好調だ。これは麺に切れ込みを入れ、ゆで上がると丸くなる早ゆでを実現したタイプ。太さ1.5mmなら、わずか3分でゆで上がる。
もう一つの人気ジャンルは、冷凍食品の一人前スパゲティ。外袋から取り出し、内袋ごと電子レンジで温めるだけで食べられるのが特徴。食感も乾燥タイプに近く、ソースもかかっているので一人前にはとても便利だ。

「マ・マースパゲティ」の人気商品を見てみると、最近の消費者ニーズがはっきりと見えてくる。それは、「ゆで時間は短く、価格は安く、豊富な種類から選べて、もちろん味は美味しく」というもの。価格に対する節約志向は昨今の不況の影響が大きいが、少しでもゆで時間を短くしたいのは、料理以外に生活の時間を使いたい人が増えているせいかもしれない。
実際、早ゆでタイプの乾燥スパゲティとパスタソースを使えば、お湯を沸かしてから3分で美味しいスパゲティメニューが完成する。大きなお鍋で太目のスパゲティを10分以上もゆで上げ、ソースを最初から手作りしていた発売当時から比べると、その進化・発展ぶりには驚くしかない。

安価な輸入スパゲティやプライベートブランドの台頭など、国産スパゲティの代表選手「マ・マースパゲティ」にとっても、競争は年々厳しくなっている。それでも常に業界をリードする存在であり続けているのは、会社の根本に、日本にスパゲティを根付かせようとしたチャレンジ精神が息づいているからだろう。
家族の中心にいるママのように、台所の主役になることを願って名付けられた「マ・マー」ブランドは、消費者によって大きく育てられ、国産スパゲティの主役になった。

取材協力:日清フーズ(http://www.nisshin.com/
もうひとつのブランド「青の洞窟」も新メニューに

日清フーズは今年の春夏製品として、新製品26品目、リニューアル19品目を発売した。中でも注目を集めているのが、発売15周年を迎えブランドリニューアルした「青の洞窟」ブランド。近年、家族や友人を交えたホームパーティなど特別な日に、家族で食事を楽しむ人が増えている。そこで今回のリニューアルでは“欲深い大人の濃厚イタリアン”をキーワードに、イタリアンの基本に立ち返り本場の味わいを追求。本格イタリアンを家庭で手軽に楽しむことが出来るよう“アンティパスト(前菜)”“プリモピアット(パスタなど)”“セコンドピアット(メインディッシュ)”というイタリアンメニューをフルラインナップで揃えている。更に具材は勿論、パスタもこだわったブランド初の冷凍スパゲティが登場。冷凍ならではの特性を生かした2品を新発売した。家庭で手軽に楽しむことができる、本格的なイタリアンの商品展開をすることで、家庭内でのイタリアンの喫食頻度向上とメニューの認知促進をはかり、イタリアン商品市場のさらなる拡大を目指していく。

青の洞窟

写真上から時計回りに「青の洞窟」のバーニャカウダ、クアトロフォルマッジ、カチャトーラソース。

タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 取材編集/バーズネスト
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