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第36回 タイ、バンコク発

「国民が慕う国王陛下はネットでも人気者」

どこの家にもある写真」は国王陛下だった
国王陛下のお写真の入ったモニュメント

道路の中央分離帯に建てられた国王陛下のお写真の入ったモニュメント。このお写真は汗を流しながらご公務をされている様子で、国民のために尽くされた国王陛下を象徴するお写真である。

タイの国民的人気歌手、バード・トンチャイの歌に『どこの家にもある写真』というものがある。プロモーション・ビデオには、農村に暮らす幼い少女が登場する。少女の住む古びた木造家屋の壁には、その人の写真が額に入れて掛けてある。祖母は写真に向かって両手を合わせてお祈りをする。

その人の写真は他の家にも飾ってあった。ある家ではカレンダーとなって、ある家ではその人の妻や子どもと一緒に写った写真となって。少女は、その人がカメラを見つめてポーズを取ったものよりも、戸外で仕事をしている様子を撮ったものが多いことに気がつく。その人は手元に紙を広げて何かを書き込んでいたり、首から大きな一眼レフカメラを下げて歩いている。そしてその人の前には、両手を合わせて座り、その人の話に真剣に耳を傾けている人々の姿がある。

「その人」とは、タイのプミポン国王陛下。1946年に即位し、現在存命する国王の中では世界最長の在位期間を誇る。今年の12月で83歳を迎えられるため、今ではご公務に出ることはぐっと少なくなったが、若い頃は地方の農村振興を目的とする王室プロジェクトのために、精力的にご公務に取り組まれた。国王として君臨するのではなく、国民の目線に立って彼らの抱える問題を少しでも改善していこうと努力された国王陛下の姿勢は、タイ国民に感動を与えた。そんな国王陛下を、タイ国民は親しみを込めて「ポー(お父さん)」と呼び、深く敬愛している。国王陛下はタイ国民すべてにとって、進むべき道を指南し、窮すれば手を差し伸べ、そして自らも手本となるように行動で示すといった、素晴らしいお父さんなのである。

お見舞いの記帳を受け付ける専用サイトが開設
お見舞いの記帳サイト

国王陛下へのお見舞いの記帳サイト。「国王陛下の末永きご繁栄を」「いつまでもタイ国民の心の拠りどころでありますよう」などの言葉が並ぶ。

だが、そんな「ポー」も、ここ数年はご体調を崩され長期のご入院をされることが多くなった。80歳を超えるご高齢を考えれば無理もない話なのだが、タイ国民にとっては一大事である。ご入院中はその日の王室ニュースで詳しいご病状が毎日のように発表されるのだが、家でテレビを見ながら案じるだけでは気が済まないという人たちは、ご入院先の病院へ駆けつけお見舞いの記帳をする。だが、お見舞いの記帳に行きたくても、距離的に、あるいは時間的、経済的に無理という人も決して少なくない。そこで、昨年9月に国王陛下がご入院した時、首相府は直接お見舞いが出来ないという国民のために、記帳を受け付ける専用サイトを開設した。実際にご入院先の病院で記帳をする場合は自分の名前しか残せないのだが、このサイトでは「国王陛下の早期のご回復を祈ります」といったメッセージも書き込むことができる。他にも「いつまでもタイ国民の心の拠り所であられますよう」といった、タイ国民の願いを集約したようなメッセージも並んでいる。

タイでも一般家庭にPCが普及して、「どこの家にもある写真」はアナログではなく、デジタル化していっている。壁紙や画像といった無料素材を扱うサイトには、必ず国王陛下のお写真があり、国民はダウンロードしてPCの壁紙にしたり、携帯の待ち受け画面に使っている。敬愛する国王陛下のお写真を常に身近に置いておきたいからだ。

国王陛下はタイ国民の生活にコンピュータが普及する以前から、コンピュータをお使いになっていたようで、書斎なのか、いくつかのPCモニタが並ぶ部屋で国王陛下がコンピュータに向かっている写真も存在している。恐らくインターネットも利用されていることだろう。ご自分のお写真が並ぶサイトをどんなお気持ちでご覧になっているのか、ちょっと気になるところ。お見舞い記帳サイトも、王宮の職員が国民のお見舞いの言葉を届けるのではなく、国王陛下自身が直接ご覧になっているのではないかと私は想像しているのだが……。

特派員プロフィール

増成ヒトミ(ますなり・ひとみ)
1997年からタイの首都バンコク在住。バンコクを中心とするタイのさまざまな情報を、雑誌やインターネットを通して発信する他、タイ語和訳の翻訳、通訳、現地調査も行っている。連載エッセー「タイ発バンコクな毎日」。

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