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かしこい生き方 ウェディングプランナー 有賀明美さん 結婚式は、培った絆をつなぎ合わせたり結び直したりするための大切な一日ですね


名前を呼んでありがとうと言われたい仕事のDNAは柊

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プランナーになられたのはお父様の影響と伺いました。

有賀

ええ。人から名前を呼んで「ありがとう」と言われるような仕事に就きたい。そういう思いを持ちながら、就職活動をしていた時に出会ったのがウェディングプランナーでした。

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お父様はどんなお仕事を?

有賀

クリスマスケーキの上に、小さな柊が飾られていますよね? 父は、その柊を作る仕事をしているんです。春先に、柊の葉と木の実とリボンとを並べて「今年は、どういうデザインにしようか」というところから始まります。小さな柊の飾りですが、リボン一つにも本当にいろいろな柄があるし、その組合せを変えたり、葉っぱを曲げてみたり、ベルを2つ付けてみたりとアレンジをするわけです。1個あたりの金額は、10円、20円の世界ですが、いろいろなケーキ屋さんにサンプルを持っていて営業して、受注をとってきて、夏頃からクリスマスに向けて家族全員で柊を作り始めました。

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楽しそうですね。

有賀

小さい頃から、テレビを観ながらでも、何かしら作っていました(笑)。家の中が工場みたいな感じでしたね。母が葉っぱを作り、私が木の実を付けて、リボン付けと最後の手直しは父の役目。そうやって、何万個という数の柊を秋までにひたすら作り、クリスマス直前に一個一個きれいに箱詰めして出荷するんです。クリスマスには、家族3人で自分たちの作った柊をケーキ屋さんに見に行く(笑)。そのケーキを買っていく家族の姿を「今年も一年間頑張ったね」「私たちの作った柊を、捨てずにとっておいてくれたら嬉しいね」などと言いながら見ていました。年が明けると、有り難いことにケーキ屋さんからお礼の電話を頂くんです。父は「有賀さんじゃなきゃ、こうはならなかった。有賀さんの柊が一番だって言われたぞ」と嬉しそうでした。それが、私が物心ついた時の「働く」というイメージでした。バラバラの物があって、それを自分の手で組み立てて、営業して、注文をとってきて、作り、出荷し、誰の手に渡ったか、どういう表情をしていたかまで自分の目で見て、最後に「ありがとう」という言葉が返ってきて、お金をいただく。仕事のDNAみたいなもの、それは私にとって父の柊なんです。

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それが結婚式のプランナーにどのようにつながったのですか。

有賀

就職活動にあたって改めて通信簿を見返してみたら「時間を守れない」「忘れ物が多い」「落ち着きがない」(笑)。一方で、美術の先生に「君の描く絵は独創性があって面白いね」なんてほめられてもいました。それで、経理とか秘書とかいった仕事はできないだろう。何かを作っていく仕事が良いだろうと考えていた矢先に、就職情報誌の「結婚式を創りませんか?」のコピーに惹かれて、今の会社の門をたたいたというわけです。

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飾りの柊は、全体のごく一部の物かもしれませんが、それらが一つひとつきちんと出来ていてこそ、ケーキに美しいハーモニーが生まれる。プランナーというのも同じように表には出ず、自分で考えたことを一つひとつ実現していく、そこに魅力を見出したということですね。

有賀

そうですね。父の柊作りを見てきた事で、例えばガードレールの留め金一つを見ても「これを作った人はどんな人なんだろう」と考えますね。その留め金だけを、ひたすら作っている人がこの世の中にいて、更にこのネジを留める人がいる。そして留めた人には、留めた人のプライドがあるはず。そういう興味をもって世の中を見ると、すごく面白くて。例えば電車の中吊り広告って定期的に変わりますよね? どんな人が替えているのだろうと思っていたら、ある時、替える瞬間を目にしたんです。そうしたら、やはり彼は自分なりの工夫をしている。そこに彼なりのプライドみたいなものを見た気持ちになりました。そうやって見ると、本当に面白い事がたくさんあります。

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モノや人に対するそうした想像力も、プランナーという、かなり突っ込んでお付き合いをするようなお仕事にも役立っているんでしょうね。

有賀

どうでしょう? 私、プランナーの仕事をするまで、自分でも大丈夫か?と思うくらい泣くことのない人間でした。多分、物事をちゃんと心で感じていなかったから、何も見えていなかったんでしょうね。それが、この職に就いて多くの方に出会って、結婚式をお手伝いすることで変わりました。「人って深いな」と痛感したんです。実際、どんな方にも語るべき人生がありました。就職して、これから親孝行しようと思っていた矢先に、事故で唐突にご両親を亡くしてしまったことを悔いているご新郎様がいらっしゃいました。だからご新婦様のご両親を自分の両親と思って大切にしたいとおっしゃるんですね。そのお話を伺った時は、思わず両親に電話しました。私は、親なんているのが当たり前くらいに思っていたのに、と。そういう想像力がついたせいか、最近は、ニュースを観ても、スポーツ中継を観ても、その背景を思うと、すぐに泣けてしまいます(笑)。



言えなかったこと、言いたかったことが言える 大切なことに気づく瞬間がある

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今では結婚式の定番ともなっている「サプライズ」という演出ですが、これは有賀さんの発案だそうですね。

有賀

サプライズとは、ご新郎様やご新婦様、親族などに知らせずにビデオ映像やオリジナルの歌などを披露するというものです。きっかけは、別のプランナーが担当していた式に、お手伝いで参加していた時の出来事でした。式当日、会場内を回っていたら、レストランのシェフから「今日の結婚式のウェディングケーキはお父さんが作るんだよ。ご新婦様のお父様はケーキ屋さんなんだ」と聞かされたんです。バックヤードをのぞいたら、モーニングを着たお父様が何度もケーキをチェックされている。声をおかけしたら「気が気じゃなくて、披露宴どころじゃないんだ」とおっしゃる。その姿がすごく印象的でした。
その後、式は進んで、いよいよお父様が作ったケーキが運ばれてきました。お父様はケーキの一番前でカメラを構えていて「嬉しそうだな」なんて思って見ていた時、新婦のお母様と思われる方とご親戚と思われる方の「○○ちゃんにはもう話したの?」「まだ言えてないのよ」という会話が耳に入ってきたんです。
どうやら、何年も前から店を閉めようかと考えていたらしいのですが、お父様は娘のウェディングケーキを作るまでは、と頑張っていらした。昨晩は徹夜して夢だったウェディングケーキを作り上げたんだそうです。そして「これで悔いはないから」と、このケーキを最後にお店を閉めることを決心した。けれどもその事を、どうしても娘さんに伝えられないまま、式の日を迎えてしまったんですね。
それを聞いた時に、私は結婚するお二人と面識はありませんでしたが、さっきバックヤードでケーキを見ていたお父様の姿と親族の方の会話がリンクして、頭より先に体が動いて、今、正にケーキカットを終えようとしているところで、責任は自分がとるからと、司会者さんに頼んで新婦に声をかけてもらったんです。「せっかくですので、ご新婦様。ケーキをお父様に食べさせて下さい」と。

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何かが有賀さんの肩を押したんでしょうね。

有賀

ええ。最後に自分が作ったケーキを愛する娘の手で食べさせてもらう…それってお父様にとっては、すごく意味があることに違いないと確信したんです。ご新婦様もお父様も、司会者の言葉に最初は驚いていましたが、娘さんがケーキを食べさせた瞬間、お父様が涙をばーっと流されて、天を仰いで拍手をされたんです。それを見て私は勢いがついて、更に司会者さんに言ってもらいました。「娘さんにこの場で伝えたい事はないですか?」と。マイクを手渡されたお父様は、やはり驚かれていましたが、こう言われました。「お前のウェディングケーキを作る事が、お父さんとお母さんの夢でした。その夢が今日叶って、ましてや自分が作ったケーキをお前の手で食べさせてもらって、こんなに幸せなことはありません。本当に何の悔いもない。お前にはずっと言えなかったけど、このケーキを最後に店を閉めようと思います」と。その瞬間、ご新婦様は驚くと同時に涙しながら「ありがとう」とお父様と抱き合い、出席したゲストも皆、泣きながら、大きな拍手をしていました。それは、私が何十組も手掛けて見てきた、手紙や花束が贈呈された時に起きた拍手とは、まったく違うものでした。拍手が鳴り止まないんです。

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その場面が目に浮かぶようです。

有賀

ただ、そうは言ってもご新郎様、ご新婦様と面識もない私が、進行を勝手に変えてしまったわけですから「ああ、怒られる…」とも思っていました。式が終った後、やはり司会者に対して、ご家族から「なぜ急にあんな事を言ったのか」と質問があったそうです。それで私が呼ばれました。そしたらお父様に「バックヤードで会った方ですね」と言われ、観念して正直にお話したんです。お店を閉めるという話を小耳にはさんで、絶対にあの瞬間に、お父様に娘さんの手でケーキを食べさせて上げたいと思ってしまった。更に店を閉めるのを伝えるのであれば、あのタイミングしかないのではないかと思ったと。「勝手な判断をしてすみませんでした」と謝った瞬間に、お父様とご新婦様が「お名前は?」と言う。そして「有賀さん、ありがとう」と、固く握手して下さいました。衝撃的でした。それまで何十組もお手伝いしてきましたが、一度も名前を呼んでお礼を言われたことがありませんでしたから。

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結婚式の感動によって生まれた、自然な一言でしたね。

有賀

ええ。お父様とご新婦様にとって、あの瞬間はすごく意味があるもので、それを私が作ったと思ってくれたから、初対面なのに、名前をわざわざ聞いて、ありがとうと言ってくれたのだ…そう思うと、結婚式ってもっとすごく可能性がある。進行にないことをやっても、結果的に、あんなに拍手と涙が生まれて、私たちにとっても、ご家族にとっても強く記憶に残る時間が持てた。そう考えると、結婚式にサプライズって「あり」じゃないかと思えたんです。

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結婚は人生の大きな節目と言いますが、結婚式をするということも、意味がありますね。

有賀

そうですね。多くの場合、結婚って人生の3分の1位のところに位置するじゃないですか。それにも意味があるんだろうなと思います。結婚式は、言い換えれば絆つなぎ。30年間生きてきて、培った強い絆があって、けれど何かの思いの掛け違いで切れそうになっていたり、立ち消えてしまいそうな絆がある。そうしたものが、式の打ち合わせをしていると見えてくるんです。お父様が大嫌いというご新婦様がいる。でも彼女のお父様にお会いすると、本当に娘を愛していることがひしひしと伝わってくる。でも、私がそれを言葉で伝えてもだめです。だから何とかご新婦様に気付いてもらうように、といろいろと考えます。結婚式を終えて、始まった残りの人生の方が結婚前よりもっと大切なものを築いていけるようにと思います。大切なものに気付けるようになれる場が結婚式ではないかと思うのです。消えそうな絆があれば、つなぎ合わせるきっかけ作りをするのがプランナーの仕事だとも思っています。

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冠婚葬祭、儀式はいくつもありますが、その中でも結婚式は、特別な場かもしれませんね。

有賀

普段、両親に面と向かって「ありがとう」と言える場面ってありませんしね。式自体は、時間にして2時間半。でも誰を招待しようかななどと考えながら、今まで出会った人たちの顔を思い浮かべることも、すごく大切だと思います。実際、そういう人たちが自分のために集まってくれるわけですから、それだけですごく幸せなことです。ご両親、兄弟、友人が一つの場所に集まる機会なんて結婚式以外にはめったにありません。
そういうことに気づいたからだと思いますが、最近は、ただ単に楽しければ良いではなくて、結婚式の2時間半の使い方を真剣に考えるようになってきたと思います。
経験すればするほど、結婚式って奥が深いというか壮大なもの。人の人生を豊かにしたり、心が震えたり…一生の中で、なかなか味わえない経験ができる場だと思うんです。

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結婚式が、それまでの人生で膠着してしまった何かをほぐすきっかけになるんですね。そういう式は、出席する側にも大変、意味のある経験になりますね。

有賀

手前味噌になりますが、そういう演出は、プランナーが力を発揮するところでもあります。お父様が怖くてしゃべる事も、目を合わす事もできなくて「自分は嫌われている」と思っていたご新婦様がいました。だからバージンロードすら怖くてお父様と歩けない、絶対できないと言う。それを聞いたプランナーが「本当かな」と思って、お話を伺ったのですが、お父様は当然、娘を愛していると確信した。それを気付かせてあげたい。だから「私を信じて下さい。お父様と歩いて下さい」と、ご新婦様に伝えたのだそうです。「そんなに言うなら信じます」と、当日、本当に緊張しながらお父様を呼んだら、普段は怖い顔をしたお父様が嬉しそうに笑って、初めて娘さんと腕を組んで歩いて…。披露宴が終わった後「あの子と腕を組んで歩けたのが、本当に嬉しかった」と言い、ご新婦様は「父と腕を組んで歩いた事で、これから何か変わりそうです」とおっしゃって下さった。その後は、二人に託すしかありませんが、プランナーが信頼を得ていなければ、腕を組むこともなかったはずです。

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プランナーの方々も、仕事を超えている感じがありますが…。

有賀

なんでしょうね…何ヶ月かに一度、それまでの結婚式資料をプランナー全員で見て「結婚式っていいね」って、皆で大号泣しているのですが(笑)。

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式だけではなくて、結婚っていいなという感じることもありますか。

有賀

そうですね。「結婚とは何なのか」ということをすごく考えます。30年前後生きてきた段階で、これまで生きてきた年数よりも長く共に過ごすだろう人を見つけて歩いていくって、すごいことだとは思います。結婚してからの人生、ハッピーなことだけでなく、辛いことも悲しいこともたくさんあるでしょう。そういう時に支えてくれる味方が誰か一人いるべきだから結婚をするのだろうなと感じます。

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結婚はスタート地点だけでなく、銀婚式や金婚式などもありますが?

有賀

そういう節目にも、何かできないかとは考えています。結婚式の意味を知れば知るほど、人生の3分の2の地点でもやるべきだなと思うんです。結婚生活のちょうど真ん中に差し掛かって、きっと絆が増えたり、減ったり、切れかかったりしているころでしょう。それを変えられたらなと思います。

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有賀さんのお仕事ぶりに、お父様が影響を与えているというのは誇りでしょうね。

有賀

そうかもしれないですね。毎年、頼んでもいないのに会社に柊が送られてきます(笑)。それをスタッフに配って、柊を付けて接客したりしています。自分の結婚式は、クリスマスの時期にやって、父の柊を付けたいと思っています(笑)。


有賀明美(ありが・あけみ)

1977年生まれ。フェリス女学院大学卒業後、ゲストハウスウェディングを中心にブライダルプロデュース事業を展開する(株)テイクアンドギヴ・ニーズに入社。宮沢りえや梨花、サッカー選手の小野伸二など多くの芸能人やスポーツ選手も含む500組以上の結婚式をプロデュース。最近は、ウェディング商品の開発も手掛ける。http://ameblo.jp/a-ariga

●取材後記

伺ったエピソードのすべてをご紹介しきれないのが残念な限りだが、本当に人生っていろいろなことがあるんだなと思わせるものばかり。家族の中でほとんど当たり前のようになっていた問題が、結婚式という儀式によって表に出てきて、そしてそれを解きほぐすきっかけになる。結婚についてはたくさんの格言があったりするのだが、結婚式にもこんなに意味があったなんて。今度、結婚式に招かれることがあったら、楽しみに参加してみよう。

構成、文/飯塚りえ   撮影/海野惶世   イラスト/小湊好治
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