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特命捜査 第52号 ネットスーパー支援サービス 「宅配インフラを活用して地域店をバックアップ!」

拡大が期待されるネットスーパー市場

松アさん

ヤマトシステム開発株式会社 e-通販ソリューションカンパニープレジデント 松ア暢之さん。

佐藤さん

ヤマトシステム開発株式会社 チェーンストア・ダイレクトソリューション事業部 事業部長 佐藤学さん。

自宅のパソコンや携帯電話から専用サイトにアクセス。画面を見ながら注文すれば、生鮮品や日用品などが近所のスーパーからその日のうちに届けられる。雨の日にわざわざ買い物に出かけなくて済むし、重い物を持ち運ぶ苦労もない。仕事で忙しい人はもちろん、高齢者や育児に忙しいお母さんも大助かり。
今、インターネットを利用した新しい形の宅配サービス「ネットスーパー」が注目を集めている。生鮮品や冷凍品などの食品を中心に、日用品や衣料品など、商品メニューもバラエティー豊か。まさしく“現代版御用聞き”といったイメージだ。

ネットスーパーの主な担い手は全国展開している大手スーパーチェーンだが、最近は地方を地盤とする地域密着型チェーンの参入が続いている。その背景にあるのが、アプリケーションサービスとしてのネットスーパー支援システム。今回訪問したヤマトシステム開発株式会社は、約2年前からこのサービスを手掛けているヤマト運輸系列のIT企業。担当の松ア暢之さんと佐藤学さんにお話を伺った。

最初に知りたいのは、ここにきてネットスーパーが増えてきた理由。最近はテレビCMを打つチェーンまで現れた。
「ネットスーパーが日本に登場したのは2000年前後です。中堅スーパーが口火を切り、徐々に大手チェーンが参入しました。ただ当時は今ほど通信環境が整っておらず、主婦層のパソコン普及率が低かったこともあって、それほど話題にならなかったのです」と松アさん。

状況が変わってきたのは昨年から今年にかけて。大手チェーンが本格的に力を入れ出したのだ。背景には、ブロードバンド環境の整備とネット通販の普及がある。誰もが簡単にインターネットを利用できるようになり、ごく普通にネット経由で買い物をする時代になった。
「スーパー側の事情もあります。1999年以降の業界売上は、10年連続で前年割れ。そんな中にあって、ネットスーパーは2008年度に前年度比約170%もの成長を記録しているのです。市場規模は約230億円。業界全体の売上からすると割合はまだ小さいですが、今後、利用者は右肩上がりに増加すると見込まれています」(佐藤さん)


「システム」「配送」「決済」の各サービスをトータルで提供

店内で商品をピックアップ

スーパー店内では、配送指示に従って店員が商品をピックアップ。

バックヤードで商品を梱包

バックヤードで商品を梱包。生鮮品や冷凍品は別コンテナになる。

ネットスーパーの仕組みは意外にシンプルだ。一般的には利用者がチェーンの専用サイトから注文すると、その内容はデータセンターへ送られる。次に、センターから利用者近隣の店舗へ配送指示が出される。指示を受けた店舗では、担当者が店内から商品をピックアップして梱包。梱包は配送エリア毎に軽トラックに積み込まれ、その日のうちに配達される。利用時は配送料がかかるが、一定の購入金額を超えると無料になるチェーンがほとんど。決済方法はクレジットカード、電子マネー、代金引換などから選べる。

ネットスーパーは即日配達が原則。利用者の希望時間に商品を届けるため、注文の締め切り時間は一日数回に区切られている。例えば、午前9時までの注文なら正午から午後2時までの第1便で配達できるが、夕方4時の注文だと夜8時から10時までの最終便になるといった具合だ。
即日配達を実現するため、どのチェーンも世帯数や道路状況を考慮して配送エリアを設定している。軽トラック1台が各便で配達できるのは5件程度。距離にすると半径2〜5km圏内で、これは実際の店舗の商圏とほとんど変わらない。
購入までのプロセスがネット通販と似ているので誤解しやすいが、ネットスーパーはあくまでも即日配達を前提にした宅配サービス。店員に買い物を代行してもらっていると考えた方が分かりやすい。

ネットスーパーのサービスは、「システム」「配送」「決済」の3つで構成されている。だが、スーパーチェーンが自前でこの仕組みを構築・運営するのはなかなか大変だ。
「ネットスーパーの専用システム構築費用に加え、サーバー・ネットワークインフラの整備、セキュリティ対策など、初期投資費用は概ね数千万円から1億円程度必要と言われています。大手チェーンなら自社で全て構築できますが、中小規模のチェーンにはかなりハードルが高い。そこをフォローするのが、情報サービス会社が作るネットスーパー支援システムなのです」(佐藤さん)
ほとんどの会社は「システム」サービスだけを提供しているが、ヤマトシステム開発の「ネットスーパーサポートサービス」は違う。そう、全国を網羅するヤマト運輸の「宅急便」を活用した「配送」サービスと、ヤマトフィナンシャルの「決済」サービスも同時に提供しているのだ。
次に、この強味を活かした実際の導入例を見てみよう。

フローティ「ネットスーパーサポートサービス」概念図

「ネットスーパーサポートサービス」の概念図。緑色が専用システムにあたる部分。


宅配ネットワークで広域配送と即日配達を両立

「ネット急便」

「いちい」のネットスーパー「ネット急便」(http://www.netkyubin.jp)。

「ユアーズ」店舗全体

広島県を地盤とする「ユアーズ」。食料品に特化した地域密着型のスーパーだ。

「ユアーズネットスーパー」

「ユアーズネットスーパー」(http://www.yoursnetsuper.com)。画面は「ユアーズ直行便」。

昨年9月、福島県下に14の店舗を持つ食品スーパー「いちい」に「ネットスーパーサポートサービス」が導入された。同チェーンの店舗は全て福島市とその近隣エリア。福島市以外の世帯はターゲットになっていなかったが、競合店の進出もあり、「いちい」は既存の商圏を確保しながら新規顧客の獲得を目指していた。
「それが福島県全域に即日配達するネットスーパーだったのです。候補に上ったサービスの中で、これができるのは当社だけでした」(松アさん)
ヤマト運輸の輸送網は、過疎地や離島も漏れなくカバーしている。宅急便センター(直営店)は全国に約3900ヵ所あり、6万人近いドライバーが定期的に荷物を集配。スーパーの周りにも必ず1ヵ所はセンターがある。「宅急便の配送車が店舗に行って商品を積み込めば、後は通常の手順と変わりません。センター間輸送を行えば、福島市の店舗から100km以上離れた只見町の顧客にも、その日のうちに商品を届けることができます」と松アさんは語る。

ただ、福島県の面積は福島市の18倍もある。福島市の拠点だけで県内全域即日配達を実現するためには、システム的な工夫が必要だった。まず、配送エリアを福島市全域・川俣町全域・県内1・県内2・県内3の5つに分類。それぞれのエリアで即日配達できる注文締め切り時間と配送時間を設定した。福島市内なら3便稼働するが、遠く離れた県内3のエリアは1便のみ。朝9時の締め切りでも、商品の到着は18時以降になる。
「鮮度保全のため、冷蔵の刺身などは運んでいません。そこで、あらかじめ利用者に提示する情報を制御することにしました。注文画面で写真と一緒に配達対象となるエリアを表示する仕組みで、刺身の場合は近隣の福島市と川俣町だけになります」(松アさん)
松アさんは、もし「いちい」の拠点が県内にあと数ヵ所あれば、全商品を全エリアに即日配達できると言う。「他のネットスーパーが県内全域即日配達をやろうとすれば、最低でも20ヵ所以上は店舗を作らなければならないでしょう」

「いちい」はいわき市など、福島市以外の地域にも折り込みチラシを配布している。「福島県全域が商圏になったことにより、『いちい』のターゲット世帯数は約50倍になりました。実際、ネットスーパーは福島市以外からの注文が半分を占めています」と佐藤さんが言うように、手応えは上々だ。
導入するスーパーチェーンからすれば、広域配送による商圏拡大だけでなく、配送コストを低減できるメリットも大きい。「軽トラックを使った運送業者に委託する場合、配送関連の費用は固定費になってしまいます。当社のサービスなら配送費用を変動費にできるので、ローコスト運営できます」(松アさん)

この「ネットスーパーサポートサービス」、現在までに20社が導入を決め、既に10社で稼働している。昨年12月からは広島県に地盤を置くスーパーチェーン、「ユアーズ」が導入。県西部を3つのエリアに分け、計80万世帯に商品を届けている。


:広域配送を制御する仕組み

地域(拠点からの距離)と商品によって異なる配達時間を設定。


宅配便用の端末を利用して高齢者をサポート

ネコピット

PCや携帯電話が苦手な人でも簡単に操作できる店頭端末「ネコピット」。

ネットスーパーの大きな利点として、高齢者や子育て世帯、妊婦など、いわゆる買い物弱者とされる人々でも利用できることが挙げられる。中でも期待されているのが、スーパーや商店がない遠隔地に住んでいる人々へのサポートだ。近年はこうした地域で唯一の生活の足だった路線バスが廃止されることも多く、買い物に支障を来す人が増えている。そのほとんどは高齢者で、車を運転できない人も多い。
広域配送・即日配達を実現した「ネットスーパーサポートサービス」なら、こうした人々の生活を手助けすることができる。課題はその使い勝手。ネットスーパーを利用するにはPCか携帯電話が必要だが、高齢者にとってはどちらもやや敷居が高い。入口の部分で、もっと簡単に買い物できる手段が必要だった。

「そこで、従来から宅急便センターに設置してある店頭端末『ネコピット』を利用できるようにしました。もともとは登録メンバーがスムーズに送り状を発行するための端末だったんですが、メニュー画面から直接ネットスーパーに入れるようにしたのです」(松アさん)。
ネコピットは、入店から決済までを全てタッチパネルで行えるのが特徴。利用者は最初に住所や名前などを入力し、メンバーズカードを入手しておく。カードを端末にかざせば、該当エリアのネットスーパーが表示される仕組みだ。例えば東京のセンターに置かれたネコピットを操作しても、「いちい」や「ユアーズ」は表示されない。決済までの手順はPCや携帯電話と同じだ。

ネコピット画面・メニュー選択

メニュー選択。オレンジ色の部分に該当するエリアのネットスーパーを表示する。

ネコピット画面・商品選択メニュー2

商品選択メニュー。写真を見て画面にタッチするだけでOK。

ネコピット画面・時間帯指定メニュー

時間帯指定メニュー。操作している時間に応じて選べる時間帯が決まる。

ちなみに現在、福島県には遠隔地を含む約60ヵ所に宅急便センターが設置されている。これだけでも地域の高齢者支援になりそうだが、更に興味深いのは、センター以外の場所にもネコピットの設置を進めていることだろう。
「例えば、高齢者が多く住むいわき市の泉ヶ丘ハイタウン。路線バスが廃止され、唯一残っていた近所のスーパーも閉店してしまい、日々の生活にも影響が出ていました。そこで団地自治会の前にある美容室にネコピットを設置していただいたところ、少しずつですが利用者が増えてきたのです」(佐藤さん)
ここがモデルケースになり、今は福島市の保育園など、センター以外の6ヵ所にネコピットが設置されているという。
「ただ、高齢者の方からはタッチパネル式のネコピットでも操作が複雑だと言われることがあります。ユーザビリティの追求はこれからの課題ですね。誰もが迷うことなく使えるテレビの利用も検討の余地があるでしょう」(松アさん)

最近は駅前の商店街やスーパーの閉鎖が増えているので、都市部でも買い物に不自由を感じている人は多い。団塊の世代の退職が進めば、PCを使いこなす利用者の増加も期待できる。プライベートな時間を大切にするライフスタルが浸透すれば、今はまだ少ない20代女性の利用が増えるかもしれない。始まったばかりのサービスだが、ネットスーパーは今、流通業界が最も期待を寄せている分野と言っていいだろう。
そこではITと物流を組み合わせた形のソリューションが提案され、日々進化を続けている。これから先、ネットスーパーのサイトは今以上に使いやすくなり、利用できるエリアもどんどん広がっていくことだろう。その時、ヤマトシステム開発は業界最大のサポーターとして、なくてはならない存在になっているかもしれない。

協力:ヤマトシステム開発株式会社(http://www.nekonet.co.jp/


神山 恭子 0012 D.O.B 1966.7.3調査報告書 ファイルナンバー052号 ネットスーパー支援サービス 「宅配インフラを活用して地域店をバックアップ!」
イラスト/小湊好治
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