ミラノで最も有名なセレクトショップのひとつ「ANTONIOLI」のサイト画面。日本でも有名な同店オリジナルブランド「RING」のコレクションもオンラインストアなら充実。
世界的な新作コレクション発表の場であるミラノを中心として、イタリアはファッションの国として知られている。美への意識が高くナルシストな国民性のせいか、イタリア人は総じてお洒落には敏感で自分に似合うものへのこだわりは強い。洋服を買う時は、まずウインドーショッピング等でじっくり研究し、店に入ってからは何着も試着をして店員のアドバイスも聞きながら、本当に納得したものだけを選ぶというのが本来の彼らのやり方。故に、アメリカや日本で「通信販売」がブームだったころも、写真だけで判断してモノを買うことなどは彼らには考えられず、イタリアでの人気はイマイチだった。
ところが、そんなイタリア人のショッピング事情に革命が起きている。今、伊ファッション界はオンラインショッピングが大ブーム。そしてそのサービスは、後発ながら世界の先端を行っているのだ。実はイタリアの人気セレクトショップたちのオンラインストアは、日本のそれらより先に軌道に乗っていた。例えば、ミラノのファッションピープルから強い支持を受けるセレクトショップ「アントニオーリ」（http://www.antonioli.eu/）では、2008年にはすでに、オンラインストアで大成功を収めており、この不況の折にも前年比約150％の売り上げを上げていると言う。このサイトでは消費者の選んだ商品を元にスタッフがメールでアドバイスを与える、パーソナルショッパー的なサービスをしているところも人気だ。
またもう1軒のミラノの人気セレクトショップ「DAAD ダントーネ」（http://www.daad-dantone.com）も同様、早くからオンラインショップを導入して成功を収めている。同店は新進気鋭のデザイナーやこれから火がつきそうなブランドを発掘することでも知られているが、センスを売りにしているブティックが選んだブランドやアイテムということで、ユーザーたちがそのセレクションを信頼しているという点もセールスにつながっていると思われる。
ミラノの有名ファッションスクール「マランゴーニ服飾学院」と組んで、オンラインストアの分野で働くことを目指す人材を開発するコースを始めるYOOX。
とはいえ、ブランドやセレクトショップが持つ自社のオンラインブショップは今や当たり前のことなのかもしれない。が、それをマルチブランドで行っている画期的なオンラインショップとして有名な「YOOX.COM」（http://www.yoox.com）も、イタリアのもの。同社は2000年創立、現在67カ国で世界最大のオンラインビジネスを展開している。同社の強みは、デザイナーのインタビューや職人の仕事風景のビデオ、キャンペーンなどのイメージ写真等を数多く入れ込む等の細かいケアによって、全くコンセプトの違う数多くのハイブランドたちを、そのイメージを損なうことなく上手に見せていること。実際に商品に接するような感覚で、一度により多くのブランドの商品が見られるなら、こだわりのイタリア人も納得するというわけか。
更に、人気デザイナーたちによる特別デザインやシーズン限定品、ヴィンテージ販売、アーチストたちとのコラボ等、ここでしか手に入らないスペシャルエディションの企画もヒットしている。これらのネット限定品は、もちろん集客効果を狙ってのこともあるだろうが、キャンペーンをサイト上で展開して多くの人の目に触れることで、小さな企画が大きな反響を生むこともある。
例えばYOOXのデザイナーとの特別コラボの一つにエコをテーマにした限定コラボ商品があるが、これは大反響を呼び、今や同社の柱の一つとしてシリーズ化されている。またこの10月からはファッションスクールと組んで、同社のノウハウを教材に、オンラインストアを手掛けるスタッフ育成のコースも開催する予定だそうで、新しいビジネス分野まで生んでしまった。
既に存在する商品をただ見せて売るだけではなく、そこにイタリアらしいセンスやアイデアを入れ込むことで成功したイタリアンファッションのオンラインストア。ちなみに郵便物さえしばしば届かないイタリアで、納品がちゃんとしているのか、個人的には非常に心配だったが、トラブルはそれほどないそうだ。
特派員プロフィール
田中美貴（たなかみき）
編集・ライター。大学卒業後、雑誌編集者を経て、97年よりイタリア、ミラノ在住。ファッションを中心にデザイン、カルチャー、食などイタリアの情報を多くの有名雑誌やサイトに寄稿。
