ナビゲーションを読み飛ばすにはここでエンターキーを押してください。
COMZINE BACK NUMBER

日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

山形駅から北へ、最上義光が治めた出羽五十七万石の本城址、霞城公園を過ぎて更に2キロほど行くと銅町に至る。柳宗悦をして、是非訪れるべしと言わしめた昭和初期の街並みはすでに見られないが、そこここに見られる工房の看板から、ここが数百年の歴史を持つ山形鋳物発祥の地であることを知ることができる。鋳金デザイナー、増田尚紀氏の鋳心ノ工房もここにある。
東北地方の鋳物といえば、岩手県盛岡市などを産地とする南部鉄器が名高い。しかし、同じ鋳鉄でも山形鋳物の方が洗練されて柔らかい印象を与えるとすれば、そのイメージ形成に増田氏のデザインが与えた影響は少なくないだろう。氏の生み出す鋳物の形はその素材が鉄であれ、ブロンズであれ、あるいはアルミであっても、まぁるく、ふっくらとして金属の堅さや重さを感じさせない。
この丸玉という名の可愛らしいティポットは、その名の通り、手の平にすっぽり収まる大きさと形を持っている。しかし、ほっそりとしたツルを指に引っ掛けて持ち上げた時のずっしりとした重さは紛れもなく鉄の鋳物のものである。ツルは黒色、ステンレス、真ちゅうの3種類から選べる。ポットの内側はホーロー加工が施されているので錆びにくく、ステンレスメッシュの茶漉し付きなので、日本茶も紅茶も手軽く美味しく淹れることができる。
鉄瓶の面白さを持った急須として手元に置いて愛用したい道具である。また、湯呑とそろいの陶器の蓋を被せた組み合わせも用意されていて、こちらは何とも言えず愛嬌のある姿が愉快で、茶の間の景色が一変する。金物を自在に飼い馴らすデザインの妙に、忙しない暮れのひと時、ほっと心がなごむのである。

鋳心ノ工房 http://www.chushin-kobo.jp/blog_jp/0303/cat29/

Vol.08 まぁるい鋳物のティポット 山形鋳物+鋳心ノ工房

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1991年
株式会社オープンハウスを設立(代表取締役)
1995年
Tennen Design '95 Kyoto 実行委員長
2000年
東京造形大学教授に就任
2006年〜2009年
サステナブルデザイン国際会議実行委員長
1988年〜2009年
グッドデザイン審査委員
現在
近年は特にサステナブルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
Top of the page

月刊誌スタイルで楽しめる『COMZINE』は、暮らしを支える身近なITや、人生を豊かにするヒントが詰まっています。

Copyright © NTT COMWARE CORPORATION 2003-2015

[サイトご利用条件]  [NTTコムウェアのサイトへ]