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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

新年に箸を新調するという風習はいつごろからあったのだろうか? 正月の祝い箸はその象徴として用いられるのだろうか? などあれこれ考えていて、まずは一膳の箸を探してみたくなった。
スカイツリーの登場ですっかり有名になった墨田区の向島。東武伊勢崎線曳舟駅からほど近い東向島2丁目に店を構える大黒屋は、江戸木箸で知られる老舗である。江戸職人による手作りの伝統を受け継ぐ「江戸木箸」は、木の性質、手触り、風合いなどをそのまま活かしたシンプルさが特徴だが、そうした素朴な工芸品にありがちな野暮ったさが無く、その端正な姿がいかにも小気味よい。
箸を使う食文化は東アジアや東南アジアに広く見られるが、スプーンやレンゲ、フォークなどと組み合わせて使う地域が圧倒的に多く、和食のように原則的に箸だけで食事をする文化はまれである。といってもハンバーグやカレーライスなどのいわゆる洋食もすっかり日常食の仲間入りをしている昨今、日本人の食欲と好奇心は旺盛で、食べたいものを食べるためならどんな道具でも使いこなすといった勢いである。それでも和食に箸の組み合わせはかたくなに守られているのは不思議である。
中国に発して三千年とも言われる歴史を持つ箸であるが、素材の違いはあるものの機能や形態がこれほど変わらない道具も珍しい。そうした、装飾以外に独創性を発揮する余地が少ない箸作りの世界で、大黒屋は使い勝手を求めて意欲的なデザイン開発を行っており、断面形状を五角形や七角形にすることで持ちやすく機能的だと評判の江戸木箸が生まれている。五角箸を扁平にすることで携帯に便利、しかも箸置きがなくても清潔なように先が浮くようにしたのが、この変則五角箸である。考え抜かれたデザインに道具づくりに打ち込む職人の矜持がみえる。
この一膳をキリキリっと竹簾に巻いて持ち歩けば、いわゆるマイ箸を取り出す面はゆさが無く、ちょっと粋に見えるというものだ。

江戸木箸 大黒屋 http://www.edokibashi.com/catalog2.html

Vol.09 粋に持ち歩く変形五角箸 江戸木箸の伝統+機能的デザイン

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1991年
株式会社オープンハウスを設立(代表取締役)
1995年
Tennen Design '95 Kyoto 実行委員長
2000年
東京造形大学教授に就任
2006年〜2009年
サステナブルデザイン国際会議実行委員長
1988年〜2009年
グッドデザイン審査委員
現在
近年は特にサステナブルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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