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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

中央本線の旅は楽しい。東西に細長い東京都を西へ西へと進むうち、高尾と相模湖を通過し、山梨県に入る。変化に富んだ山間を縫って、笹子から長いトンネルを通り勝沼ぶどう郷へ抜けたあたり、運が良ければ、眼下に広がる甲府盆地を囲む山並みの向こうに、真っ白な富士山が姿を現わす。
甲府駅から歩いて15分ほどの所に印傳屋上原勇七本店はある。甲州印伝の開祖と言われる初代勇七以来十三代続く老舗であり、二階の印傳博物館では印度伝来と伝えられる革工芸の歴史を知ることができる。
柔らかい鹿革に漆で柄付け(がらづけ)することで得られる、しなやかで、かつ華やかな中に奥行きと品格がある風情が好まれ、江戸時代には煙草入れや袋ものなどに加工されて庶民の間で大いに流行ったという。現在でも昔ながらの合切(がっさい)袋や巾着のような袋ものから札入れやハンドバッグまでさまざまなものが作られており、山梨県を代表する工芸品である。
今回注目したのは、鹿革の柔らかさを活かしたブックカバーである。文庫本サイズのシンプルな構成ながら、革製品ならではのしっとりとした風合いと、さらりとした漆の感触を併せ持つ印伝ならではの面白さが味わえる。色柄も赤、紺、黒の地色に縁起物のトンボや菖蒲、花唐草や小桜など定番柄を組み合わせたものが豊富に用意されている。
文庫本は大きさも価格も手ごろで、どこへでも持ち歩くことができるだけに人前で読む機会も多い。愛読書を一冊、常に持ち歩くという人もいるだろう。そんな文庫本に気のきいたカバーをつけたいと考えている向きにはうってつけの一品である。鹿革は薄くても強靭で、漆は使い込むほどに艶を増すという。
さて、早速行きつけの書店まで、このブックカバーにふさわしい文庫本を買いに行くとするか。

印傳屋 http://www.inden-ya.co.jp/docs/main.html

Vol.10 甲州印伝の文庫本カバー 印度×甲州=鹿革×漆

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1991年
株式会社オープンハウスを設立(代表取締役)
1995年
Tennen Design '95 Kyoto 実行委員長
2000年
東京造形大学教授に就任
2006年〜2009年
サステナブルデザイン国際会議実行委員長
1988年〜2009年
グッドデザイン審査委員
現在
近年は特にサステナブルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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